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無才王子は国を離れてスローライフを満喫したい  作者: m-kawa
第二章 始まりの街アンファン

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第52話 鞄の中身を御開帳

 西門を出たところはちょっとした広場になっている。草が刈り取られて土がむき出しになっているそこには誰もいない。この先には街はないから行商人などは通らないし、行き来があるとすれば探索者や魔物を求めるテイマーくらいか。


「んあああ」


 人目が付かなくなったところで両手を天に向けて伸びをする。スノウも同じように伸びをしていた。

 プラプラと両手を振ると、屈伸をしてその場で軽く駆け足をする。


「よーし、じゃあ行こうか!」


 スノウに声を掛けると一気に走りだす。ふかふかのベッドで休んだからか、絶好調だ。しばらく走ったころで足を止める。

 森みたいに障害物がないとすごく走りやすい。街から続くあぜ道を振り返ると、街門は小さくなっていた。道の両側に茂っている草は自分の身長くらいあって先を見通せない。


『次は素早さの上がる短剣を装備して走ってみたらどうだ』


「そういえばそうだね」


 キースに言われるがまま、背中の鞄を下ろして短剣を出すと鞘を手に持った。装備中に効果が表れるってことは、鞘から抜かなくても腰に提げておくだけでもいいはずだ。とはいえベルトとか持ってないので、今は手に持つことにする。


「部屋で持ったときは実感がなかったからなぁ」


『同じように走ってみればわかるだろう』


「うん」


 鞄を背負いなおして走り出す。……が。

 片手でちょっと重量のあるものを持ったままというのもバランスが悪い。


「走りにくい……」


 足を止めてもう一本の魔力が増えるという短剣を取り出すと、左手に持つことにした。すると魔の下位精霊であるくろすけが短剣に引き寄せられるようにくっつく。


「お? くろすけはもしかして、この短剣が好きなの?」


 短剣の柄の中に入っては出てを繰り返しているみたいだけど、魔の精霊だけあって魔力アップ系のアイテムは好物なんだろうか?

 とそこにキースから光の照射が飛んでくる。


『ほう……。増加する魔力が増えているな。こんな効果があるとは初耳だ……。ぜひ研究をしたいところだが……』


 有用な情報は聞けたけど、何やら物騒な思考へとはまり込んでいるようにも思う。くろすけは私のだから、絶対にキースなんかにやらないからな。

 なんにしろこれで左右のバランスはよくなった。多少重くなったけど、かれんにお願いして筋力アップしてもらうと問題なさそうだ。


「よし、じゃあ行くよ」


 両手に短剣を携えた状態で、森へと続くあぜ道を走る。

 うん。やっぱり早くなってるかも。筋力アップも合わさって踏み出す一歩の幅が増えている。ちょっと楽しくなってきたぞ。

 並走しているスノウを見れば、軽い様子で走って付いてきてくれている。やっぱり人は四本足の動物にそう勝てるわけもない。




 そろそろ街も見えなくなってきたところで立ち止まると、道を逸れて草原の中へと入っていく。


「ここら辺なら大丈夫かな?」


 ある程度離れたところまでくると、かえでにお願いして周囲の草を移動させて場所を作ってもらう。


「うふふ、お安い御用なのねん」


 誰もいないからか、久しぶりに姿を見せたかえでが嬉しそうにほほ笑む。


「森の外も案外悪くないのねん」


 得意そうにするかえでが作ってくれた広場を見回す。


「これくらいの広さがあれば大丈夫かな?」


『ああ、中身にもよるだろうが、おそらく問題ないだろう』


「よし」


 キースの判断でとりあえず納得した私は、鞄のサイドポケットからロックのかかった時空の鞄を取り出す。言い方がアレだったりするキースだが、嘘はつかないところは信用しているのだ。

 広場の真ん中でさっそく鞄をひっくり返すと、その底に沿って短剣を滑らせる。と、泉から水が湧き出るがごとく、中身があふれ出てきた。出てきた魔物に押しつぶされそうになったので、遠くから離れて見守ることにする。


「魔物ばっかりだね」


『そうだな。森の中を探索していたのであれば、道中で仕留めたんだろう』


 ちょっと遠くから見てる分には魔物しか見えない。しばらくすると落ち着いたので近づいてみることにする。


「……とりあえず魔物はこっちに仕舞っておこうか」


「がうがう」


 スノウにも手伝ってもらいながら獲物は鞄に片付けていく。


「欲しいものあったら食べていいからね」


 私の言葉にスノウが気合を入れるようになると、最後に残った獲物にかぶりついていた。

 後に残ったものは魔物に比べれば少しだけだ。革袋がいくつかと、予備なのか武器と防具が数点、服の替えなどの日用品に野営の道具などが出てきた。


「あ、二口(ふたくち)コンロがある」


 これで自分とスノウの料理を同時に作れるかも。


「……これなんだろう?」


 それとは別によくわからない道具もちらほらと見つかった。


『ピーラーだな。野菜の皮むきが楽だぞ』


「へっ?」


 皮をむく? ナイフでむけばいいと思うんだけど、そんな専用の道具があるんだ? というかなんでキースが知ってるのさ。


『私が知っているくらいだから昔からあるに決まっているだろう。というか現代人はこれくらいの発明もできなくなっているのか? まったく嘆かわしい……』


「幼児化するまで料理なんてしたことなかったんだから、しょうがないだろ……」


 私の知見を現代人全体の常識として見てもらっても困る。たぶん私が見たことないだけで、そういう便利な道具は世間にも出回っているはずだ。たぶん。きっと。


「こっちは何が入ってるかな」


 話を逸らすようにして、次は袋の中身を確かめてみる。


『お金と……、宝石類だな。魔石もいくつかあるようだ』


 キースへ差し出してみると、謎の光の本領発揮だ。前に森で拾ったお金とは比べ物にならないくらいの量が入っている。


「もしかして全財産なのかも。ロックがかけられるなら全部仕舞っておけば安全だし」


『全財産を持ち歩いていた……だと?』


 私としてはランク6の一流探索者に感心していたんだけど、キースは何か不満があるようだった。

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