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無才王子は国を離れてスローライフを満喫したい  作者: m-kawa
第二章 始まりの街アンファン

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第49話 宿でのひと時

 いっぱいお肉を食べたスノウの分のお昼ご飯もクレイブに奢ってもらったあと、女将のシルクさんに部屋の鍵を渡される。


「一階の八号室がアイリスちゃんの部屋になるよ」


「ありがとうございます」


「従魔用の厩舎も庭の裏にあるけど、一緒に部屋で寝てもらってもかまわないわよ」


 宿の決まりごとについて女将さんにあれこれと説明してもらう。食堂で食事をすれば宿泊客は一割引きになるそうだ。また体を拭くためのお湯も、一日たらい一杯までは無料で用意してくれるとのこと。また庭にある井戸なら自由に使ってよく、服の洗濯も有料でやっていると教えてくれた。


「わかりました」


 正面玄関からまっすぐ進むとカウンターがあり、右が食堂で左が宿泊棟になっている。そのカウンターと宿泊棟の間にある通路を奥へ行くと、厩舎のある庭だそうだ。なのでまっすぐに宿泊棟へと歩いて行く。宿泊棟の廊下の突き当たり手前に八号室はあった。


「よし、アイリスの部屋はここだな。覚えたぞ」


 一緒に付いてきたフォレストテイルのクレイブがうんうんと頷いている。


「ふふ、アタシたちは二階の五号室と、クレイブたちが六号室に泊まってるからね。何かあったら訪ねておいで」


「はい。ありがとうございます」


 お礼を言うと、四人ずつ代わるがわる頭を撫でられて、そのまま二階へと上がっていく四人を見送る。やがて見えなくなると、もらった鍵で部屋の扉を開けた。ぎりぎり背が届いて安心したのは秘密だ。

 中は小ぢんまりとした部屋だ。ベッドが隅に置かれており、テーブルと椅子が一脚。スノウがでろんと寝そべれば、床のスペースが残り半分になってしまった。あとは木戸で塞がれた窓があるけど、残念ながら届かないので開けられそうにない。


 私も背中の鞄を下ろすと、スノウの背中にあった荷物も下ろして鞍もどきを外してやる。下ろした荷物を自分の鞄へ詰めなおし、ベッドへと上がって一息ついた。


「はー、今日もいろいろあったなぁ」


 初めてあこがれの探索者ギルドに入ったし、テイマーギルドでスノウの従魔登録もした。そして私自身もテイマーギルドの一員になったのだ。こんなにワクワクしたことは今までにない。買い物も楽しかったし、フォレストテイルのみんなも、お店の店主さんたちも、宿の女将さんもみんないい人だった。


『ようやく誰もいなくなったようだな』


「うわっ!?」


 感傷に耽ってぼーっとしていると、いきなりキースが目の前に現れた。あまりにも唐突な登場に心臓がドキドキしている。


「びっくりさせないでよ……。にしてもどこ行ってたのさ」


 私を観察するのが仕事だったんじゃないの?


『ちゃんと上空から観察していたさ』


 悪びれた様子を見せないキースだったけど、次の言葉に納得してしまった。


『見つかると厄介なことになりそうだったからな』


「あー、うん、そうだね。だけどさっきキースの声が聞こえた気がしたんだけどあれはなんなの? 周りの人には聞こえてなさそうだったけど……」


『思わずツッコんでしまったが……、指向性スピーカーに切り替えておいてよかったな』


「しこうせい?」


 よくわからずに首を傾げるが、要するに私にだけ聞こえるようにキースは喋ることができるらしいと説明してくれた。つまりそれって街中でキースと会話すると、私が独り言をしゃべってるように見えるってこと?

 うぬぅ……。


 こんななりをしているけど、キースは立派な古代遺跡から発掘された秘宝具(アーティファクト)なのだ。見つかれば騒ぎが起きるに決まっている。すでに短剣などの秘宝具(アーティファクト)を持っているとはいえ、自立して空を飛ぶ喋る球体なんて、レア中のレアに違いない。


『とりあえず人里に来るという目的は達成できたわけだな』


「なんとかね」


『まぁアイリスがどこで生活しようが私のやることは変わらないが』


「うん、知ってた」


 キースとの会話が途切れると、静かな時間がただただ過ぎていく。大きなあくびを一つすると、スノウも釣られたのかあくびが出る。


「うーん、眠くなってきたけど、その前に体を洗おうかな……」


 ふかふかのベッドを見てこのまま寝てしまおうかと思ったけど、そういえば自分はあんまり綺麗じゃなかったなと思い出したのだ。

 濁流で流された時に着ていた布も汚れたまま鞄に突っ込んだままだったし、マリンに借りていた……というか可愛いからあげると言って押し付けられたシャツも洗っておこうか。

 そうと決まればさっそく行動だ。綺麗にしてお昼寝をするのだ。


「庭まで洗濯に行くけど、スノウはどうする?」


 あくびをしていたからそのまま部屋で寝ていてもいいと思ったんだけど、立ち上がって顔を寄せてきた。


「あはは、じゃあ一緒に行こうか」


 鞄から買ったばかりのたらいを取り出すと、汚れた布や服と石鹸、タオルを詰めて持って行く。着替えはどうしようかと思ったけど、ワンピースを選んでみた。たらいを持ち上げて重いなと思っていたら、スノウが口に咥えて持ってくれた。

 ありがとうと一声かけて庭に出ると、先客は誰もいないようだった。井戸の水は使わないけど、水は使うから井戸の傍まで歩いていく。排水溝があったのでその近くの場所を陣取った。


「誰もいないし脱いじゃえ」


 全裸になると脱いだ服もたらいに入れ、石鹸を用意する。火の下位精霊であるかれんと、水の下位精霊であるしずくにお願いすると、頭上からお湯を降らしてもらう。


『恥じらいもとうとう無くしたか』


「うるさいなー」


 どこからともなく聞こえるキースの声に反射で返す。周囲に人はいなかったので助かった……。

 丁寧に髪を洗い、体を洗うと服も一緒に洗っていく。相変わらず古代遺跡の倉庫にあった布は石鹸いらずですぐ綺麗になる。この布で服を作ってもらえば洗濯の楽な服ができあがりそうだ。


「綺麗になったかなー」


 すすいだ服を丁寧に伸ばすと、今度はしずくにお願いして水分を飛ばしつつ、ふうかとかれんに温風を送ってもらうとすぐに乾いていく。以前キースに教えてもらった複合魔術は、精霊魔術にももちろん応用されている。

 ぱんつを穿いてワンピースを着ると、また荷物をスノウに持ってもらって部屋へと戻った。


『ほう、見れるようになったではないか。馬子にも衣裳だな』


 庭では姿を見なかったキースが現れ、率直な感想を聞かせてくれる。確かに汚れは落ちて見られるようにはなったと思うけど、後半の言葉はなんだろうな? 古代の慣用句なんて知らないぞ。


「ありがと」


 よくわからなくて適当にお礼を言うと、『ふん』と鼻で笑われた。やっぱりキースはキースだったなと改めて思った。

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