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無才王子は国を離れてスローライフを満喫したい  作者: m-kawa
第一章 神霊の森

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第32話 母の認定

 気が付けばリザードマンが私を見下ろしていた。


「うおわっ!」


 一気に覚醒した私は起き上がろうとしたけど、鈍痛が頭を揺らしてふらついた。スノウが傍にいたようで支えてくれると、ゆっくりと立ち上がった。


「がうがう」


 シュネーも傍にいたようで一声鳴くと、スノウと私を順番に舐めていく。まだまだだけどがんばれと言われたような気がした。

 そしてこのリザードマンではあるが、なんとなくシュネーに敬意を払っているようにも見える。単なる知り合いというわけではなさそうだけど、シュネーもリザードマンたちも言葉は話さないので詳しいことはわからない。


『リザードマンは連携が素晴らしいな』


 戦闘中には姿を見せなかったキースが顔を出す。きっと上空からのんびり見ていたんだろう。


「確かに。気づいたら目の前にいたり攻撃されてたり、いしまるがいなかったらあっという間に負けてたかも」


 傍らに置いていた鞄から霊樹の実を取り出して齧ると、口の中に甘みが広がると同時に頭の鈍痛が消えて行く。

 前に怪我をしたときに食べて、傷口が塞がった時は驚いた。今回も同じように頭の鈍痛が消えて行く。


『スノウとの連携だけだが、ここで学べることはあるんじゃないか?』


「それは言われなくても」


 なんとなしに連れてこられたけど、シュネーから感じる「最後の仕上げ」は本気なんだと思う。私が回復したことを見て取ったリザードマンたちもやる気満々だ。

 しばらくしてまた間を置かずして私とスノウVSリザードマン戦が再開された。


 日が経つにつれ五体の相手にもだんだんと慣れてきた。そうすれば相手が六体になり、七体になりと相手の数も増えていく。

 永遠に終わらないリザードマンとの模擬戦にだんだんと心が萎えていく。しかしスノウを見ていると全然衰える様子を見せない。なんで私はこんなことをやってるんだろうと思う時もあるけれど、スノウを見て心を奮い立たせる。そんな弱い心を持ったままじゃきっとこの森では生きていけないのだ。


 そうして一か月が過ぎた頃。

 リザードマンの数は三十体を越えていた。そのころには私をスノウが守る陣形が固まっていた。基本的に体力のない私は動き回らずに精霊魔術で応戦する。それをスピードのあるスノウが縦横無尽に駆け回りながら、私に攻撃する敵を牽制していくのだ。


 そろそろ相手がもう一体増える頃かと思った時だ。

 どっしりと構えていたシュネーが立ち上がると、ゆっくりと模擬戦のフィールドとして使用していたエリア内へと入ってきた。


「えっ?」


 気が付けば他のリザードマンは後ろに下がっていて、私とスノウと相対しているのはシュネーだけとなっている。


「ガオオオォォォン!」


 シュネーが威嚇を込めた叫び声をあげると、嫌でも次の相手なんだと気づかされる。

 スノウが私の隣へとやってくると、同じように威嚇の叫び声をあげた。母には負けないぞという気持ちが籠っているように感じる。もちろん私だって負けるつもりはない。


「シュネー! 行くよ!」


 この模擬戦で精霊たちが補助魔術も使えることがわかっている。私やスノウがもっと早く動けたら。もっと力があったら。もっと耐久力があったら。と思ったら精霊たちががんばってくれたのだ。

 駆け出したスノウに精霊たちが補助魔術をかけていく。


「火よ」


 火魔術で火を灯すと、火の精霊を強化する。力の強化は火の領域なのだ。同時に模擬戦相手のシュネーには阻害魔術だ。耐性が高いと効果がないので、間接的に仕掛けていく。きりとの霧で視界を奪い、シュネーの足元をしずくともぐらに泥沼化してもらう。


 そして全力のスノウとシュネーがぶつかりあった。

 ぶつかった瞬間の衝撃が空気を伝って広がる。思わず一歩後ずさるが、視線を戻せばスノウが吹き飛んでいくところだった。


「スノウ!」


 思わず声を上げるが一瞬でも意識を逸らしたのが間違いだった。シュネーから放たれた衝撃波が足元に命中し、空中へと放り投げられた。シュネーが私の元へと一足飛びでやってくると、空中にいる私を足の肉球で包み込み地面へとそっと押さえつける。

 あっという間に決着がついてしまった。


「あはは……」


 ゆっくりと足をどけられると、もう乾いた笑い声しか出てこない。ぎこちなく身を起こすと、スノウが申し訳なさそうな表情で寄ってきた。


「やっぱりスノウのお母さんは強いね」


 スノウをもふもふしながら言葉にすると、当たり前じゃんという気持ちが返ってくる。


「だけど今は、そのお母さんが相手だからね。勝てないと思ってるうちは勝てないから、一緒に頑張ろう」


 スノウに言葉を掛けると一瞬の間があったけど、ハッとした表情で頷いてくれた。もしかしたら勝てるわけがないと心の奥底で思っていたのかもしれない。それは私も同じだけどね。


 そして幾度となくシュネーと対戦したある日。ようやくと言っていいのか、私たちが満足のいく結果が出せたのかシュネーが頷いたのだ。


「えーっと?」


 よくわからなくて首を傾げると、シュネーの大きい前足で頭をポンポンと撫でられた。スノウも同じようにして撫でられている。まだまだなんだろうけど、一人前だと認められた気がした。

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