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無才王子は国を離れてスローライフを満喫したい  作者: m-kawa
第一章 神霊の森

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第25話 古代人の魔術

 さらに数日が経ち、精霊魔術の興奮も落ち着いてきたころ。


「なるほどねぇ」


 周囲の精霊たちを見回してひとつ頷いた。

 自然のあるところに精霊は生まれる。

 なので、その自然現象が発生しないところには、その属性の精霊は少ない、もしくは存在しないということだ。

 なので、今私に集まってきている精霊の中に、火の精霊はほんの少ししかいない。この状態で火の精霊魔術を使うととても効率が悪いのである。


「それがなぜか料理中は火の精霊がおおかったんだよね」


 そう。魔道コンロの火をつけると火の精霊が増えるのだ。集まってくるのかその場で生まれているのかはわからないけど、火をつけると増える。


「つまり火魔術で火を灯せば精霊も増えるのではないかと」


『それならライターでよかろう』


 まさに大発見という感じで述べた意見を、キースがばっさりと切り捨てる。


『魔力を節約する方法があるなら節約すべきであろうが』


 そういえばそうだった。探索中に何があるかわからない状況では、魔力はできるだけ温存しておくべきだ。

 それにライターはそんなに嵩張るものじゃない。古代文明遺跡の倉庫にあったものだけど、手のひらで握れるくらいの小さい道具だ。カチッとボタンを押すだけで火が灯るのだ。コンロがあったから出番はなかったんだけどね。

 いやでも古代文明時代の道具であって、一般的にはこんな便利な火をつける道具なんてあるわけないんだけど……。


『だからといって覚えられるのであれば覚えるに越したことはないがな』


「できる手段は多く持っておくことは大事だね!」


 いくつかある探索者の心得を思い出しながら気を取り直す。キースは古代文明時代の常識でものを喋るので、いちいち気にしていてもきっと仕方がない。


 森の中は火が少ないから、まずは火魔術からいこうか。

 王宮で見た火魔術を思い浮かべる。初歩の火魔術は、指先に火を灯すだけだ。攻撃魔術にまで発展すると炎の矢を飛ばしたり、炎の壁を作ったりできる。


 手のひらに魔力を集める。最近だと、くろすけに手伝ってもらわなくてもできるようになってきた。そして集めた魔力に火をつけるイメージで……。


「火よ」


 キーワードを唱えると、ボッと一瞬だけ炎が燃え上がった。


<火魔術スキルがレベル1からレベル2に上がりました>


 手の中で炎が起こり、じんわりと手のひらが熱を持つ。

 そして同時に胸の中にもじんわりとした思いが湧き上がっていた。王宮であれだけ練習していた火魔術が使えるようになった。ようやくだ。因子が足りなくて無駄な努力だったとしても、ようやく報われたのだ。


 レベル2となる最初の魔術については、無魔術以外の六属性のキーワードは全部知っている。基本は火と同じで「○○よ」でいけるのだ。だからと言ってキーワードはそれひとつというわけではない。同じ事象を起こす魔術として、複数のキーワードがあると言われている。

 他の国の言葉でも使えるように神がそう造ったとも言われているが、真偽のほどは定かではない。


 それは置いておくとして。


 水魔術では手の中に少しだけ水が生まれ、地魔術では摘まめるほどの土が生まれ、風魔術ではそよ風が吹いた。闇魔術で光を遮る闇が生まれ、光魔術で闇を払拭する明かりが生まれた。


「よしよし」


『ふむ。全属性がレベル2になったか』


「おかげさまでね」


 魔力の放出までできるようになれば後は簡単だ。なにせ王宮には魔術士団員を何人か集めるだけで全属性が見られるのだ。いくら疎まれていた王子だからといって、長い間王宮で生活していれば、それなりに魔術を見る機会はある。


『では私が当時の複合魔術を伝授してやろう。泣いて喜ぶがいい』


 ひとしきり満足していたら、キースが変なことを言い出した。


「はい? 複合魔術?」


 あの複数の属性の魔術を合成して放つ魔術のことだろうか。ファイアストームなどといった熱風を放つ魔術があるのは知っている。王宮でも数えるほどしか使い手がいなかったはずだ。


「……まだレベル2になったばっかりなんだけど?」


『問題ない。レベル2でも使える複合魔術だ』


「ええっ!? そんなの聞いたことないんだけど!」


『なん……だと。今の時代では廃れてしまったのか? まったく、これだから最近の魔術士は……』


 なにやらブツブツ言い始めたけど、攻撃魔術とも呼べないレベル2からすでに複合魔術があるとは驚きだ。


『まあいい。便利な魔術だからな。きっとアイリスも多用することになるだろう』


「ふーん。そこまで言うなら聞かせてもらおうか」


『はは。まずはドライヤーの魔術だ。キーワードは「火と風よ」で発動する』


「え? どら……なんて?」


『ドライヤーだ』


「どらいやー? 聞いたことないんだけど……、どんな効果なの?」


『ドライヤーで通じないとは……、ドライヤーの魔道具は普及していないのか……。まあいい。簡単に言えば温風が出る。風呂の後に髪を乾かすのに便利だぞ』


「え、あぁ、うん」


 なんとも微妙な魔術だ。まぁ、早く乾けば便利だけど、そもそも日常生活で髪を濡らすことがそんなにあるんだろうか?


『あとは熱湯を出す魔術だ。キーワードは「火と水よ」だな』


「熱湯? 料理の時短には便利かもしれないけど……」


『そうじゃない。本来の目的は風呂だ。お湯を大量に張った湯舟に浸かると気持ちいいらしい。アイリスの場合は精霊魔術でやったほうが魔力節約になるかもしれないが。ああ、どうせなら練習も兼ねて魔術で湯舟も作ってみればいい』


「……風呂? お湯に浸かるって、どういうこと?」


 いまいちキースの言っていることがわからない。キースがお湯に浸かったところで気持ちいいと感じるものなんだろうか。


『単体魔術でも、他にレベル2で使えるものがあるぞ』


「そうなのか」


 こうして私は古代文明時代の魔術をいくつか習得した。

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