「はじめまして、おとうさん」
「はじめまして、おとうさん」
私の部屋を訪ねてきた少女は、開口一番、そう言い放った。
背中には、赤いランドセル。どう見ても小学生、しかも低学年だった。
私にだって、人並みに女性経験はある。だが、最後に誰かと関係を持ったのは、もう10年以上も昔のことだ。
知らぬうちに私の種を宿した女がいるとしても、こんな小さな子供というのは、絶対に計算が合わない話だった。
ドアを開けたままの姿勢で、ぽかんと固まってしまう私。
一方、幼女は、大人びた口調で続けていた。
「結城律子の娘、理子です」
「ああ、りっちゃんの子供か……。りっちゃんは元気かな?」
むしろ私の方が、大人らしくない対応だろう。子供にとって、母親を『ちゃん』付けで呼ばれるのは、嬉しくない話に違いない。
それに、この少女も『理子』ならば愛称は『りっちゃん』だろうし、紛らわしい、という問題もある。
……などと、現実逃避気味に考えていると。
「長らく病で伏せっておりましたが、先日、母は亡くなりました」
再び、子供らしくない言い回し。
まるで練習してきたかのようにも聞こえるが、それどころではなかった。
私は慌てて聞き返す。
「亡くなった、って? あのりっちゃんが?」
「はい。前々から母は、自分が死んだら父のところへ行け、お前のおとうさんは唐田信道という男だ、と言っていました。それで、ここへ参りました」
幼女は、住所と地図の記された紙を取り出して、言葉を続ける。
「あなたが、その唐田信道さんですよね?」
「ああ、私が唐田だが……」
と、反射的に返しながら。
頭の中で私は、昔の出来事を思い浮かべていた。