可愛い先輩とシスコン野郎
「おーい、ここにもないぞー。」
朝霧に無理やり連れてこられてから30分ほど探したが、どこにもキーホルダーは落ちていなかった。
「なぁ、キーホルダーってどんなやつなんだ?見たこともないからわかんないんだけど。」
そもそも見たことないから落ちててもそれかどうかわかるわけが無い。そう聞くと朝霧は少し頬を赤らめ嬉しそうに話した。
「うん。あのキーホルダーはね、私が子供の時にもらった王冠を被ったカエルのキーホルダーなんだ。そのくれた相手は遠くに引っ越しちゃってもう会えないんだけど、私と同い年くらいの男の子なの。またどこかで会えるといいなぁ。」
お?おっと?出ましたね。実は昔に会ってました展開。これは実はそのキーホルダーを上げたのが俺みたいな展開...。でも俺引越ししたことなんてないしそんなキーホルダーあげた記憶もない。あれ?これ俺関係ないやつだなうん。
「そ、そうなのか。そんな大事なものならもう無くさないようにしろよ?」
「そうね...。って、元はと言えばあんたがぶつかってきたのが原因でしょ!早く探しなさいよ!」
「はぁ!だからぶつかってきたのはお前の方だろ!?」
こいつまたこんなこと言ってやがる。あれだな。自分を被害者にしないと気が済まないタイプね。一緒にいたら腹が立ってしょうがない。
「ふん!知らないわよ!それよりも喉が乾いたなー。あんた私にジュース買ってきなさいよ。」
何言ってんの?こいつ。俺を悪者扱いしたあとはパシリですかそーですか。よし。ここはジュースを買ってくると見せかけてそのまま帰ってやろう。
「仕方ねぇなー。買ってきてやるよ。」
俺はため息をついてジュースを買うため自動販売機に行こうとする。
「え?ほんと?あんた意外と使えるわね。私オレンジジュースね。」
「へいへい。」
この女俺のことを召使いかなんかと勘違いしてる?
まあここで俺がまたなんか言って泣かせたらめんどくさいからな。ここは何も言わずにさっさと帰ろう。
◇◇◇
俺はジュースを買ってくる、という嘘をつき帰るため教室にカバンを取りに帰ろうと戻ろうとする。
「とは言っても俺も喉乾いたな。ジュース飲んで帰ろう。」
そう言い俺は自動販売機に向かった。
すると、自動販売機の前には背の小さい制服を着た女の子が立っていた。
「 .......。」
その女の子はジュースを買うことはなく、ずっと商品が並んだ自動販売機を見つめていた。
「 .......。」
え?買わないの?ちょっと早くどいて欲しいんですけど。
「あ、あの〜。買わないなら譲って貰いたいんですけど...。」
俺はそう伝えると、女の子はゆっくりと俺の方を振り返った。
「1番上のミルクティーのボタンに届かないの。」
小さな身長に見合う小さな声でそう答えた。
透き通った瞳。変わることの無い表情。愛らしい見た目。まるで小学生かと間違えるような低い背丈。
うん。可愛い。それに尽きる。
「そ、そうだったんですね。よいしょっと。」
俺はそう答え、ミルクティーのボタンを押してあげた。ガランゴトン、と下の取り出し口に容器が落ちる音がした。俺はミルクティーを取り、その女の子に渡した。
「ん、ありがと。優しいね、新入生?」
「はい。えっと、先輩?ですよね?」
「そうだよ。私の名前は椿。よろしくね。」
「僕は松葉菊一です。よろしくお願いします。」
「よろしくね。じゃあ菊一君またね。」
そう言うと椿先輩はどこかへ歩いて行ってしまった。なんか不思議か人だったが可愛いからよしとしよう。
初めて出会った可愛い先輩に心躍らせながら椿先輩の後ろ姿を眺める。何か忘れてる気がするがまあいいだろう。すると後ろから何やら声が聞こえてきた。
「おっっっっっっそーーい!」
その声とともに俺は後ろから誰かに突進された。
何このデジャブ感。
「あんたジュース買ってくるのに何分待たせるのよ!まさか帰ろうとしてたんじゃないでしょうね?
うっわ、完璧に忘れてたよ。この女!
しかも俺が帰ろうとしてたのバレてんじゃん!
「すまんすまん。自販機の場所が分からなくて遅くなったよ。」
ここは適当に誤魔化しておこう。このまま帰ったらめんどくさいからな。
「あっそ。じゃあ早くキーホルダー見つけるために戻るわよ。」
え?これ今日キーホルダー見つけるまで帰れまテン!みたいなやつですか?
すると、遠くから朝霧の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
「おーい、露草ー!ここにいたか。お、今朝の子も一緒ならちょうどいいな。」
その声の主は今朝見た朝霧の彼氏。
なんだよ。俺の目の前でイチャイチャすんじゃねぇよ。俺はこいつのために付き合ってやってんだからさっさと帰れ。
「あ、どうしたの?」
朝霧は俺の時とは違い、口調も変わり嬉しそうに話す。
「いや、さっき帰ろうとしてたらこのキーホルダー見つけてさ、今朝その子とぶつかった時に落としたんじゃないかなって。でも露草まだ家に帰ってないみたいだったから気になって戻ってきたんだ。
え?家?なにこいつら同棲でもしてんの?嘘でしょ?
「そうだったんだ。ありがとう。お兄ちゃん。」
「え?お兄ちゃん?」
え?お兄ちゃん?と思わず声が出てしまった。
「そうだけど...、誰と勘違いしてんのよ。」
朝霧は可哀想なものを見る目で俺にそう言った。
そうか、兄妹か。そうかそうか。なんだ。なら全然俺にチャンスあるじゃん!
「そうかそうか。もう仲良くなったんだね。それは良かったよ。」
そう言うとお兄様は俺に近づいてきて耳元でこう言った。
「あまり僕の可愛い妹に近づくな。露草に指1本でも触れたら殺すぞ。」
「え?」
あぁ、そういう系ね。彼氏じゃないと思ったら重度のシスコン野郎か。なんでこうも変なのばっかりいるかな。はぁ。
「じゃあ帰ろうか。露草。」
「え、うん。なんか付き合わせて悪かったわね松葉。じゃあまた。」
そう言うと兄妹は家へと帰って言った。
これあれだな、明日から朝霧に関わったら俺殺されるヤツね。うん。朝霧には近づかないようにしないとな。
やっぱり俺にお約束なんてないみたいだ。