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召喚されたら、ゆるパクだった件

「ゆるパクって何だ?」

「あー……あれだろう、盗作されたのされてねぇのって……」

「あぁ、被害妄想ってやつ?」

「でも、それってスキルって言えるの?」

「スキル被害妄想、なんだそれ」


 俺、麻田兵馬のステータスが表示されると、周囲からはざわめきが起こり、やがてそれは嘲笑へと変わっていった。


「ゆるパクって、いつも藤吉先輩が騒いでいた……」

「おい、貴様。そのスキルは何なのか説明しろ!」


 混乱する俺に、フルプレートの鎧を身に付けた兵士が槍を突き付けてきた。


「いや、何なのかと言われても……たぶん、他人から何かを奪う能力なのかと……」

「何だと、強奪系か。王子、強奪系のスキルを持つ者が現れました」

「面白い、さっそく使わせてみろ」


 王子と呼ばれた男は、兵士よりも煌びやかな装飾の施された鎧を身につけ、意地の悪そうな笑みを浮かべて命じた。

 兵士は部隊の隊長なのだろう、部下と思われる兵士を手招きした。


「アーサー、こっちへ来い」

「はっ! えっ、ですが、その少年のスキルは強奪系なのですよね?」

「それがどうした。貴重な強奪系のスキルと、貴様の貧弱な剣術スキル、どちらが大切かなど説明する必要があるのか?」

「いや、でも……剣術スキルを奪われたら私は……」

「命令に従えない者は、ここに置き去りにする」


 王子の一言で、辺りに沈黙が訪れた。

 俺達が居る場所はサッカー場が二面ぐらい取れそうな草地で、その回りは森に囲まれている。


 草地の中にも、周囲の森にも、道と呼べるものは見当たらない。

 俺達の周りには百人ほどの兵士が槍を携えて立っているが、馬もいないし、馬車も見当たらない。


 アーサーと呼ばれていた若い兵士は、真っ青な顔で俺の前まで歩いてきた。

 隊長と思われる兵士に促され、アーサーは机の上の道具に手を置いた。


 装置の水晶球から光が放たれ、ホログラムのように文字が表示される。

 魔力、体力、耐久力、生命力などの数字と、スキルだ。


 魔力などの数字は、成人男性の平均値である20を三割ほど上回る程度。

 スキルの欄には、水属性魔法レベル2と剣術レベル2とある。


「ふむ、平凡だな……まぁ、良い。早くその少年にスキルを使わせろ」


 王子が苛立ちを含んだ言葉で隊長を急かす。

 隊長は再び俺に槍を向けて命じた。


「おい、このアーサーのスキルを奪ってみせろ」

「でも、俺がスキルを奪ってしまったら、この人は……」

「つべこべ言わずに、さっさとやれ! やらないと言うなら、この場に捨てていくぞ。ここは大森林のど真ん中、歩いて人里まで辿り着くには二十日は掛かるだろうな」


 思わずアーサーに視線を向けると、真っ青な顔で頷いてみせた。

 たぶん、この一団は何らかの魔法的な方法で移動して来たのだろう。


 兵士のアーサーでさえも置き去りに恐怖しているのだ、東京育ちでアウトドアの知識もロクに持ち合わせていない俺では、確実に遭難死するだろう。

 スキルとか魔法とか、よく分からないけど、やるしかなさそうだ。


「いきます、ゆるパク!」


 アーサーに意識を集中して、俺に授けられたスキルを発動すると、何かが身体に流れ込んで来た。


「どうした、さっさと能力を表示させて見せろ!」

「はっ! おい、こっちに来て、王子に能力をお見せしろ!」


 先程、アーサーが手を置いた道具を使って、俺のステータスを表示させられる。

 魔力、体力、耐久力、生命力などの数字が表示されたが変化していない気がする。

 そして、スキルの欄には『ゆるパク』としか表示されていない。


「そっちの兵士の能力をもう一度見せてみろ!」


 顔に血の気の戻ってきたアーサーが道具に触れ、能力が表示された。

 スキル、水属性魔法レベル2、剣術レベル2、変わっていない。


「ぎゃはははは、さすがヘマだぜ」

「ヘマが、またヘマしやがった」

「使えねぇぇぇ、異世界に来ても使えねぇぇぇ!」


 俺がスキルの強奪に失敗したと見て、クラスの連中が笑い声を上げた。

 授業中には良く見る風景だし、慣れているつもりだが、やっぱり凹む。


「騒がしい! 静まれ!」


 隊長の一言で、兵士達が一斉に鎧を打ち鳴らし、クラスメイトは沈黙させられた。

 王子に平凡だと言われたアーサーでさえ、身長は2メートル近くあり、丸太のような腕をしている。


「王子、いかがいたしますか?」

「スキルも使えぬ貧弱な子供に価値があるのか? 城に戻るぞ」

「はっ、全員撤収準備!」


 隊長の号令と共に、一斉に兵士達が動き出す。

 王子を中心とした四本の杭にロープが渡され、その中にクラスメイトも押し込められた。


「あ、あの、俺は……」


 囲いの内側へ入ろうとすると、アーサーが槍を突きつけてきた。


「悪く思うな。生き残りたければ、死に物狂いで西を目指せ……」


 アーサーは小声で呟くと、俺を突き飛ばした。

 俺が草地に転がっている間に、アーサーは囲いの中へと駆け込んでいく。


「王子、全員範囲に入りました!」

「うむ、城へと帰還する」

「くそっ、置いていくつもりかよ……ゆるパク!」


 囲いの中にいる全員に向けてスキルを発動すると、先程とは比べ物にならない程の大量の魔力や情報が流れ込んで来た。

 全身を激痛が襲い、草地の上でのたうちまわる。

 ぼやけた俺の視界の中で、囲いの中の一団は蜃気楼のように姿を消した。


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