初めての街
転送が終わると街に出たらしい。
正面には6車線くらいありそうな大通りに、背後には噴水……の一部になっているアーチ状の転送門。
白い石を基調とした街並みは中々なものだ。
「ここが最初の街で現在解放されてる中で最大の拠点<王都・マルクト>
……一応待ち合わせしたのに、居ない?」
俺にくっついたまま辺りを見回すゼーレ。
「一緒にクラン作るって約束してたのに遅刻するなんて……」
声が一段階下がる、光を怒らせるなんて誰か知らないが命は惜しくないんだろうか?
10分ほど広場を歩き回り、転送門の横にあるベンチに腰掛けて人の流れを眺める。
時折視線を感じるたびにゼーレの抱き着いている腕の圧迫感が上がり、ついでに彼女の気分も上がっているらしい。
機嫌が直って安心していると、転送門から出てきたやたら黒い装備を纏った男がこちらに向かって駆けてきた。
「待ち人……じゃないらしいな?」
ゼーレに確認を取ろうとしたところで視界の端にログが出る。
*プレイヤー<[・†・キリヒト・†・]>から対象に指定されました
問答無用のようで、近づいてきながら剣を持ち雄叫びを上げながら斬りかかってきた。
「そのままやっちゃって大丈夫」
ベンチから一緒に立ち上がりつつ許可をもらう。
降り降ろされた剣が途中で加速したように見えたが、一歩左に避けつつ取り出した大鎌の刃を元々立っていた所に置いておけば
突っ込んできた彼は上下に分かれて諸共ベンチに突っ込んだ。
死に戻りのエフェクトが始まってるあたり、心臓を狙わなくても耐久に振ってなければこのくらいでいいらしい。
「また派手にやったなぁ!」
どうしようかと見回していたらどこかで見たことが有るような獣人が近づいてくる。
「遅いのが悪い。 お詫びはクラン作成費用全負担でいいですよぉ?」
ちなみに2000円で買えるクラン作成用アイテム<エンペリオン>と手数料1000万クレジットらしい。
「かぁーっ!金欠だっていうのに厳しいぜぇ……とりあえずクラン作るってぇならギルドに向かうか」
どう見ても格ゲー畑から出てこなかった悪友の髪がたてがみになっただけの獣人にため息をついた。
「それで、今まで頑なに格ゲーから出てこなかった”ラファール”さんはどうしてLAに?」
「姉貴に強制的に連れてこられたって訳でぇ……」
「ちなみに姉さんはPvP大会で3位みたいだったから」
まとまって歩きながらテンションが下がる。
あの姉さん苦手なんだよなぁ……
#####
ギルドの中に入ると人が一気に減った。
負荷軽減の為に別エリアに飛ばしている上に受付嬢が微妙に違うらしい。
「今日はどのようなご用件で?」
「クランの設立で、ついでにクランハウスも購入で」
クランの案内を読んでいたら聞こえてきたゼーレの言葉に驚く。
パンフレットに載っているクランハウスはどれも結構な値段になるようでもう少し後になると思っていた。
ラファールに何か囁くたびにだんだん顔色が悪くなって行ってるあたり、本気で全額出させるみたいだ。
「大丈夫かよ?」
さすがに不安になってラファールに聞くものの、姉さんの命令もあったせいで断れないらしい。
*クラン[トゥールビヨン]が設立されました。現在の役職はサブマスターです
「クランハウスは噴水広場の転送門か現地から直接入場してください」
ということらしいので行ってみよう。