第十三話 同行条件を提示します
転生者。前世で死を迎えたものが、前世の記憶を保ったまま生まれ変わった者のことです。昨日から言動がやけに大人のような感じで疑問を感じてはいたのですが、今の言動で確信に変わりました。
「な……まさか、あなたもなの……!?」
「いえ。私は転生者ではありません。私はただのAIです」
首を振って否定します。アカネちゃん――いえ、アカネさんの今の発言で彼女が転生者という事がほぼ確定しました。
「私は、そう、貴女の言う通り転生者よ。でも、AIってどういう事かしら?」
認めました。透さん以外にも転生者はいたんですね……。こんなに近くに二人もいるのなら、まだほかにもいる可能性が極めて高いですね。ちょっと探してみたいです。
私はアカネさんに自分が作られた経緯を私が知っている限り話しました。私が知っている限りなので、なぜ作ろうと思ったのか、誰と作ったのかくらいしか分かりませんが……。それと私がここにいる理由も説明しておきます。
「やっぱり、他に転生者、いえ、透さんの場合は転移者かしら? とにかく、私以外にも地球出身の人がいるのね。それで、リノちゃんはAIとのことだけれど、人間と全く変わらないわよね? 一体どういう作りになっているのかしら……」
アカネさんの疑問に答えます。
「私の身体は仮初めで、本体は研究室にあるというのはさっきの説明通りですが、この媒体の身体は生きた細胞で作られているのです。透さんいわく、ターミ○ーターがモデルになっているそうですが、○には何が入るのでしょうか?」
アカネさんにそういうと、○にはネが入るけれど、大人の事情があるから○のままにしておいてと返されました。解せません。大人の事情とは何でしょう? 私の辞書にはありません。
「大人の事情とは何でしょうか?」
「いろいろと理由があって、この場で言っては駄目な言葉ということよ。そしてその言っては駄目な言葉をいう場合、その言葉のどこかに○を入れなければならないの。例えばド○ゴンク○ストだとか、○の○ービィだとかそんな感じよ」
なるほど、よくわかりません。
「そもそも私には先ほどの例に使われているものが何を指しているのかが分かりませんし、伏字にしなければならない言葉が何なのかも分からないのですが、どうすればいいでしょうか?」
「大丈夫よ、普通にしゃべったら不味い所はちゃんと伏字にしてくれるようになっているから。例えばそうね、私、あの人にピーされてピーがピーになってピーーーだからもうお嫁にいけないっ! ほら、伏せられているでしょう?」
「何でしょうか、あなたに対してすごく警鐘がなっているのですが……」
「私も恥ずかしかったわ」
この人はどんなキャラで行きたいのでしょうか? つかみどころがないというよりつかめないですね……。
まあ、そんなことよりアカネさんは何を言いたいのでしょう? 私が転生者だったら何かあったのでしょうか?
「話が脱線してしまいましたが、私がもし転生者だったとしたら、一体何だったのでしょうか?」
アカネさんはハッとした後、苦笑し、かぶりを振りました。
「ごめんなさいね、脱線してしまって……。もしあなたが転生者だったなら、私も連れて行ってほしかったの。今日、冒険者登録したんでしょう? 冒険者になること自体は何歳からでもできるから既に登録はしてあるのだけれど、外に行くことは危険度からして無理だったから、ずっとここにいたの」
いきなりのことに私はびっくりしましたが、アカネさんの顔は真剣です。だから、私も誠心誠意話に応じます。
「何故、王都の外に出たいのですか? その理由がないと、私は付いて来る許可が出せません。何故なら、王都の外は危険だからです。貴女も分かっているでしょうが、外には魔物がいます。最低でもEランク相応の実力は無いと自殺行為です。ですから、貴女のランクは知りませんが、まずは危険を冒してまで外に出る理由を教えてください」
私はアカネさんの目を見ます。綺麗な黒い目で、その黒い目に吸い込まれそうな錯覚を覚えるほどの綺麗さです。アカネさんは目を閉じて、ゆっくり、しかし力強く話し始めました。
■ ■ ■
私は日本という国にに住んでいたわ。あなたの制作者の菅野透さんと同じ国の出身ね。家は格式の高い家で、でも親は全く厳しくなかった。両親いわく、『厳しすぎてうんざりした』そうだから、私に同じ思いをさせたくなかったのね。
ある秋の夕方のこと、私は友人と一緒に下校していたわ。その子の名前は新垣静葉。おっとりとクールを両立させているという類い稀な性格の持ち主で、私の一番の友人よ。それで、その子との下校中に急に光ったと思ったらこっちに転生していたの。その時に和はどうなったのかは分からない。もしかしたらこっちに来ているかもしれないし、向こうにいるかもしれない。それでもしもこちらに来ているのなら、私は和に会いたいの。あの子はあれでいて人見知りだから私がいないと心配だし、何よりあの子と私は……何て言ったらいいのかしら……そうね、二人で一人前なの。だから、王都の外に出るのなら私も連れて行ってほしいの。ダメかしら……?
□ □ □
……なるほど、話は分かりました。
一言で言うと、連れて行くのはやめた方がいいでしょう。冷たいかもしれませんが、ここは異世界。私には知識しかありませんが、魔物がいない地球と比べたら危険度は比べ物になりません。しかし、恐らくそのあたりを彼女は分かっていません。何故なら地球では生で生物同士の殺生なんて見る機会が無いのですから。だから血を見るのも慣れていないと見るべきでしょう。だとすれば、私にとっては荷物にしかならず、はっきり言って一緒に行くことに関してメリットはありません。
しかし、しかしです。理屈ではそう思っていたとしても、感情では連れて行きたいと思っています。透さんがもしも行方不明になったとしたら……いえ、私にとっては現段階で既に行方不明ですね。何処にいるのか分からないのですから。とにかく、私も探しに出ることは間違いありません。ですが、アカネさんを危険にさらすことは友人としてしたくありませんが……。しかし、私も同じ状況に陥ったら同じ行動をするでしょうし……。……決めました。
「アカネさん。分かりました、一緒に行きましょう」
やっぱり一緒に連れていくことにします。せっかくできた友達を、見捨てるようなマネはしたくありません。
……ふふっ、本来合理的に動くはずの人工知能が感情で動いたことを透さんが知ったら狂喜しそうですね。
「本当!? ありが――」
「ただし、条件があります」
嬉しさのあまり今にも飛び跳ねそうなアカネさんの眼前に、私は人差し指を突き付けます。
「一つ。私は出来る限り貴女を守りますが、守りきれるという保証はありません」
一つ目は条件と言うよりも忠告です。この世界では自分のことは自分で何とかするのがあたりまえな世界です。アカネさんの面倒は私が見るとはいえ、確実に守れるという保証は何処にもありません。なので、これは承知してもらわないといけません。
「二つ。第一優先は自分の身です。事件に首を突っ込んだとしても、自分の力量が及ばないと判断した時は素直に引いてください。ですが、自分の出来うることを全力で行うことは構いません」
一つ目の条件の理由に矛盾するような内容ですが、日本人は総じて正義感が高い傾向にあるらしく、まあ抑えきることは不可能だろうという判断を下しました。なので、突っ込んで行くのならば、自分の身を確保した上で行動することを約束してもらわなければなりません。
「三つ。ここは異世界です。貴女の住んでいた日本と比べられるほど安全度は高くありません。なので、自分の身は自分で守ることが最重要です。ですから、自衛手段確保のためにも私が戦いと武器の扱いについて指導したいと思います」
当然、王都を出たら魔物が出ます。また、まだ私は遭遇したことがありませんが、この世界では当たり前に盗賊がいます。そのため、自衛ができないと生きていけないので、これは当然と言うべき条件です。
どれもアカネさんの身を案じてのものですから、条件とは言えませんが……。
「わかったわ。ありがとう、私のためにこんな……」
「! ……いえ」
思いっきり分かっていたようです。
「そういえばですが、静葉さんの捜索依頼は出してあるのですか?」
恥ずかしさに話題を変えるために、今ふと思い浮かんだことを聞いてみます。
「え?」
「その反応は出してないですね……。まずはそこからでしょう。それをしてから探しに行くのが普通ですよ」
私は珍しく呆れてしまい、アカネさんを引っ張ってギルドに連れていく間、こんこんとお説教をするのでした。
どうも、四季冬潤とかいう者です。
大幅に遅れてしまい、申し訳ありません。
言い訳をさせていただきますと、私はスマホを持っておらず、パソコンができるときにしか書けないというのが原因です。
次は12月12日前後を目指したいと思います。