第十二話 中身はもしかして……
「どうですか? あなたより強い人なんて、ごまんといるのですよ?」
決闘が終わって、ギルドの待合席に戻ってきた私と『子動物』の皆は、オレンジジュースを飲みながら話しています。
「ああ……。おかげで目が覚めたぜ。皆、済まなかった」
ウィレム君は人が変わったようにみんなに謝りました。人が変わったというか、本当に性格が変わってます……。
「「「「「……」」」」」
パーティメンバー全員が呆然とするほどの変貌ぶりです。まあ、私もみんなの気持ちが分からなくもないです。先ほどまで傲慢だった子が、いきなり素直になっているんですから。恐怖さえ覚えてしまいそうです。
「あ……あの、本当にウィレム君なの?」
セレンがおずおずとウィレム君に尋ねました。やはり、このメンバーで一番胆が据わっているのはセレンの様です。次第に苦労人ポジションが板につく予感がします。
「おう。正真正銘のウィレムだ」
依然、他のメンバーはぽかんとしたままです。これは、再起動にはもう少しかかるもしれませんね。
「ウィレム君。もう大丈夫だとは思いますが、一応釘を刺しておきます。調子に乗ってはだめですよ? 相手が私だったからよかったものの、もし相手がゴブリンジェネラルとかだったら下手をしたら死んでいたんですからね?」
「そうダイレクトに弱いと言われると落ち込むな……」
おっと。意識して言った訳では無いですが、ゴブリンジェネラルに勝てない→Dランクの実力が無いと言ってしまいました。フォローをしておきましょう。
「ですが、まだまだ伸び白はありますよ。調子に乗るといけないのでどれくらいまで行けそうかは言いませんが、頑張って経験を重ねればいいところまでは行けると思います」
正直に言って、ウィレム君はBランク付近までは楽勝で行けるのではないかと思っています。才能はあります。ただ、さっきまでのような状態ではいつか死んでいたと思います。人が死ぬかもしれないという芽を摘み取ることが出来た様で、ちょっとほっとしています。いくら私がAIだからと言って、人間に死んで欲しい訳ではありませんからね。そういった暴走をするAIはフィクションの中だけで十分です。と言っても、透さんからすればこの世界そのものがフィクションの様なものだろうと思います。もともと魔法が無い世界で生きていた訳ですからね。魔法そのものがフィクションの世界ですから。
そういえば、透さんと連絡が取れません。私の権限が足りていないだけという可能性も大きいですが……。心配していても仕様がありません。透さんとは、いつか連絡が取れるでしょう。
「さて、では、私はこれで」
もう用がありませんし、私はここでお暇することにします。
「リノさん、ありがとうございました!」
セレンがお礼を言うのを最後に、私はギルドから出ました。その足で向かうのは昨日遊んだ公園です。もしかしたら、昨日遊んだ子たちの中で誰かがいるかもしれません。
◇ ◇ ◇
というわけで公園まで来ました。
「あ! リノちゃん!」
「リノちゃん、きて、くれたんだ、ね」
公園には、昨日遊んだメンバーのうち、アカネちゃんとシルフィちゃんがいました。
「ええ。また今度と言いましたが、今日も来ました」
下水道に行ったので、水魔法を使って服と体を洗い、火、風魔法で服を乾かしてあります。
「ところで、何をして遊んでいるのですか?」
「おままごとよ。もしかして、リノちゃんはしたことが無いの?」
「ええ。遊ぶのも昨日が初めてです」
「えぇ!? 昨日が初めてなの!? それまで、何をしていたのよ?」
あっ。これはまずいです。答えることが出来ない質問が来てしまいました。つい最近産まれたばかりというわけにもいきませんし……。何と誤魔化しましょうか?
「えっとですね。お父さんの手伝いなどをしていました」
私は透さんの努力の結晶なので、生まれたこと自体が手伝いだとすれば、嘘をついたことにはならない……はずです。
「お父さんの手伝い……私には無理ね、飽きるわ」
「ママの、手伝いなら、よく、する、よ?」
アカネちゃんは苦笑し、シルフィちゃんは真摯な瞳を私に向けてきました。何とかごまかすことに成功した様です。
「それはさておき、おままごとの続きでもしましょうか。リノちゃんは分からないわよね? 私が教えるわ」
「お願いします」
◇ ◇ ◇
おままごとは、アカネちゃんがお父さん役、シルフィちゃんが子ども役、私がお母さん役をして、かなり長いこと楽しみました。もうすぐ夕方です。私は大丈夫ですが、そろそろ二人は家に帰る時間です。
「もう遅いですし、そろそろ終わりにしましょうか」
私がそう言って、持っていた小皿を置きました。娘と一緒に料理だそうです。よく分かりません。
「あ……もうこんな時間なのね。じゃあシルフィ、今日はここまでにしておこうか」
「ん、わかった」
ウィレム君と比べると、本当に素直でいい子たちです。私はAIですから、あまり感情の機微とかは分かりませんが、こういう態度に出ているものはよく分かります。
「ありが、とね、リノ、ちゃん。また、あそぼ、ね?」
「ええ。また遊びましょう」
そう言って、シルフィちゃんは帰っていきました。どことなくよろよろとした、少し危なっかしい歩き方でしたが、昨日もそうだったので、まあ心配しなくても大丈夫でしょう。
「アカネちゃんはまだ帰らないのですか?」
シルフィちゃんを見送って、まだ私の後ろに立っていたアカネちゃんに話しかけます。
「ええ。リノちゃんにちょっと聞きたいことがあってね」
私に聞きたいこと、ですか。何かは分かりませんが、あまりおかしなことじゃないでしょう。
「分かりました。それで、聞きたい事とは?」
私の目をじっと見つめてくるので、私もじっと見つめ返しました。透き通っていて綺麗な黒い目です。
「……あなたの目からは、何も読み取れないわ。何者なの?」
おおっと。いきなり核心を突いてきましたか。子供とは思えない洞察力です……って、ちょっと待って下さい。いくら何でも、洞察力が子どもにしては高過ぎませんか? もしかして、ですが……。
「アカネさん。貴女は、転生者ですか?」
どうも、四季冬潤とかいう者です。
登場人物紹介 ※フルネーム
セレン・ジェスト
パーティー『子動物』の副リーダー。穏やかな性格だが、芯は通っている。怒らせると怖い。
ウィレム・バオ
パーティー『子動物』のメンバー。自分の力に過剰な自信を持ち、明らかに格上以外の人を見下していた。今はリノのおかげで更生している。
シルフィリーナ・ギランデ・シルバーラビット
非常におとなしい少女。あまり人に懐かず、現在懐いているのはアカネとリノの二人だけである。
アカネ・シラサギ
賢くて活発な少女。ガキ大将ポジションに落ち着きつつある。大人顔負けの知能を有し、リノの秘密を看破する。
リノに感情の知識を与えたことにより、シナリオの修正を余儀なくされたため、しばらくの間投稿しません。次回は10月下旬ごろになると思います。