第十話 下水道で討伐します
ギルドから出てきたのはいいのですが、どこから下水に入ればいいのか分かりません。失敗しました。とりあえず、そこのマンホールで良いでしょうか?
大通りから外れて、路地裏のマンホールのふたを開けてみます。梯子がありました。間違っていなかったようです。もしかしたら、マンホールならどこでもいいのかもしれません。
梯子を下りて、下水道の中に侵入します。臭いです。いろいろな物の匂いがしていて、ちょっと吐きそうです。でも、依頼ですから、達成するまでは我慢です。
私が持っているのは施設から持ってきた刃渡り75センチくらいの片手剣と刃渡り20センチくらいの短剣です。知識だけで使った事は無いですが、一応魔法も頭の中に入っています。各属性上級魔法までは使えます。
……ランク的に、多分私強すぎる気がするのですが……。
ま、まあ、とりあえずこの依頼を終わらせてしまいましょう。
暗いので初級光魔法『ライトボール』を宙に浮かべて明かりを確保し、索敵をしながら下水をうろつきます。時々人の声が聞こえてきます。どうやら私以外にもここに依頼を受けてきた人がいる様です。
角を曲がろうとしてその奥の気配に気づき、足を止めます。そっとのぞき込むと奥の方に一匹のネズミがいます。あれはラージスロップラットですね。汚い所に住む、大きなネズミです。ランクはFで、体長は大体120㎝というところでしょうか。
まだらラージスロップラットは気付いていません。ここから魔法で先制攻撃を仕掛けてみましょう。使うのはアイススピアという氷属性の初級魔法です。魔法の属性は火、水、氷、土、風、雷、光、闇、治癒、無の10属性です。
アイススピアの想像をすると、体の中の何か――多分魔力です。それが抜けるのを感じて、目の前に先が尖った氷が生成されました。アイススピアです。それををラージスロップラットに向けて飛ばします。当たって、ラージスロップラットが倒れました。
……一発で倒しました。近くによっても全く身動きもしません。あたった所からラージスロップラットの体が凍っています。
本来、ここまで強くないはずなんですが……まあ、考えないようにしましょう。考えても結論は出なさそうですしね。
遺体から耳を削ぎ、汚水に投入します。処理はこれでいいそうですが、雑過ぎる気もします。
次を探してみましょう。
◇ ◇ ◇
ラージスロップラットを倒しつつ、施設の回線をあさっていたところ、『冒険者マニュアル』なるテキストファイルを見つけました。早速それをダウンロードし、開いていきます。
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ファイルを展開……32%……79%……100%。
データをスキャン……完了。
内容の確認・理解終了。
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これでOKです。依頼の時の心得や、冒険者としてのマナー、旅をするときの注意事項などが載っていました。
よし、行きましょう。
◇ ◇ ◇
1時間半ほど歩き回って、ラージスロップラットを13体、スロップラットを15体倒しました。スロップラットは体長70㎝程です。何らかの変異で大きくなったのがラージスロップラットらしいです。
さて、これくらい倒したらもう充分でしょう。そろそろギルドに報告しに戻りましょうか。そう思った矢先でした。
「だ、誰かたすっ」
という声が聞こえてきました。反響の所為でどこから声が来たのか分かりづらかったので、耳を澄ませます。
「あっ!!」
後方から聞こえてきました。私はそっちに向け、駆けだします。別段助ける必要はないのに、体が勝手に助けに行こうと動きます。私もそれに逆らおうとはしません。助けたいと、私も『思った』からです。
戦闘音が響きます。そう遠くない所です。どうか、間に合いますようにと、そう思いながら走ります。
角を曲がって、戦闘している人たちを見つけました。男性が4人、女性が2人のパーティの様です。後衛と前衛が1人づつ負傷して、パーティの崩壊が刻一刻と迫っています。
相手はゴブリンです。135㎝程の見にくい顔をしたくすんだ緑色のゴブリンが12体います。うち5体はすでに戦闘不能になっていますが、それでも残りは7体います。このままでは、どうあがいてもゴブリンが勝つでしょう。
「避けてください! 『ウィンドファイアランス』!」
初級複合魔法で敵を一掃しようと試みます。前にいた人たちはちゃんと避けて、ゴブリンめがけて風を纏った炎の槍がごうっ、と音を立てて飛んでいきます。
「――――」
ゴブリンたちは悲鳴を上げる暇もありません。ファイアランスが風の力で爆発して、ゴブリンを一掃しました。
ビクビクとゴブリンたちは痙攣しています。もう息は絶える寸前です。2体だけまだこうやってかろうじて生きていたので、短剣を喉に刺してこの世から永久退場してもらいます。そしてその後にゴブリンたちの耳を削ぐのも忘れません。
「『ヒール』、『グロウゴア』」
耳を削ぎながら、負傷している彼らに初級治癒魔法をかけておきます。その後に血を増やす中級治癒魔法『グロウゴア』も怪我が酷かった一人の女の子にかけておきます。すぐに青かった顔に赤みが差しました。
「大丈夫でしたか?」
耳を削ぎ終わってから、彼らに声を掛けました。
「す、すまない。もう少しでやられるところ」
「別に助けなくてもよかったのに、なんで勝手なことするんだよ!」
礼を言おうとした少年に割り込んで、ツンツンの茶髪の少年がそう言ってきました。
「コラッ、ウェルム! 彼女が助けてくれなかったら私たちみんな死んでいたのかもしれないんだから、そんなこと言っちゃダメ!」
私に文句を言った少年――ウェルム君が、黒髪の少女に怒られました。
確かに、私が助けなければ全滅は確実だったでしょう。彼女の言うことはもっともです。
ですが、ウェルム君は耳を貸しません。
「だから、俺だけで十分だっての! 大体このパーティだって、お前らが頼んできたから入ってやったんだからな!」
「ああ、もうっ!」
どうやら、この二人の会話は平行線をたどるだけで一向に解決の兆しが見えません。
「あの、ごめんなさいね。あの二人、いっつも喧嘩ばかりなんです。何と言うか、ほら、犬と猫の喧嘩っぽいでしょ?」
気弱そうな少女が私に言いました。確かに、言われてみればそういう風に見えなくもありません。と言っても、私にはあまり関係のないことですが。
「私としては、皆さんが無事ならそれでいいんです。はい、ゴブリンの耳です」
私は彼女に麻袋に入れたゴブリンの耳を渡しました。生活魔法『クリーン』ですでに綺麗にしてあります。
「えっ……全部ですか?」
私に12体分の耳を渡されたことで少女は戸惑いますが、私には特段関係ありません。
「私が横槍を入れたのは事実ですから。もらっておいてください」
怖がらせないためというのも含め、茶目っ気とやらを出すためにウィンクしてみます。
「じゃあ、ありがたくもらっておきます。私はパーティ『子動物』副リーダーのセレンです。また何かあったらお願いするかもしれません」
顔を薄く赤らめて彼女――セレンが名乗りました。
「私はリノです。では」
私はいまだ口喧嘩をしている二人を尻目に、その場から去りました。
◇ ◇ ◇
「という事がありました」
ところ変わって冒険者ギルドです。先ほどまでの出来事を朝話した受付の人に話しました。
「あー……ウェルム君ですか……。あの子は変にプライドが強いですからねぇ。よくいるんですよ、少し周りより強いからって調子に乗ってしまう人が」
受付の人も微妙な顔をしています。なるほど、確かにあの態度は微妙な感じになります。あまりいい感じではありません。
「ああいう子は一度お灸をすえてやらないといけないのですが、それを引き受けてくれる人がいないんですよね……」
そう言って彼女は溜息を吐きました。
よし。なら、私が一肌脱ごうじゃありませんか。
「私がお灸をすえてもいいですか?」
「えっ!? ……いや、分かりました。お願いします。」
受付さんからの了承も取れましたし、ウェルム君のために頑張りましょう。
どうも、四季冬潤とかいう者です。
リノの知識の都合上、相手の感情の描写がありませんが、それではちょっとまずいかなと思うので何とかして感情の描写をさせます。透さんに仕事してもらいましょうか。
次回投稿は9月22日前後になると思います。