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8話 翌日のこと

 ー 次のニュースです。 昨日午後2時30分頃…… ー


 テレビから流れてくるのは昨日俺達が居合わせた交通事故の話題だ。 交差点を右折しようとした軽自動車に、直進してきた大型トラックが衝突。 避けようとした大型トラックが横断歩道上に横倒したと報道していた。


 まるで大型トラックが悪いような言い方だが、現場にいた俺達にしてみれば不注意に曲がってきた軽自動車に非があると思うのだが。


  幸い通行人に巻き込まれた者はいなく、両方の運転手も軽い怪我で済んだそうで大惨事にはならなかった。 ただ、大都市間を結ぶ幹線道路を止めてしまった為に渋滞やら野次馬やらで大混乱だったらしい。


「死人が出なかったのは春君のおかげだよ! 」


 日曜日の朝早くにも関わらず、美紀は俺の家でコーヒーを飲みながらニュースに文句を垂れていた。 昨日親父を交えてあれこれと作戦を練ったが、今日も朝早くに目が覚めて居ても立っても居られずウチに来たのだという。


「いいじゃないか。 マスコミも余計な事には触れてないんだし 」


 近江先輩が下敷きになったという報道はない。 あの後事故現場は見ていないが、彼女が運んでいた荷物はペチャンコだったのだろう。


「だって春君は危険を侵して生徒会長を助けたんだよ? 感謝されてもいいのにそれも許されないなんて…… 」


「いいんだよ。 本来はそういう人助けの為に俺が開発されたんだから 」


 キッチンで朝食の準備をしている親父に目線を向けると、親父はにこやかに首を縦に振っていた。


「でもさ…… 」


  やり場のない怒りと言うか、美紀のやりきれない感情が伝わってくる。 美紀の言い分は分からないでもないが、感謝されて追及される方が迷惑だ。


「ほら、朝ご飯できたよ 」


 会話を切るように親父がワンプレートの朝食を二人分テーブルに並べた。


「話を聞く限り誤魔化すのは厳しいけど、学校に行かない方が怪しまれる。 週明けは普段通りに行っておいで 」


「わかったよ 」


 俺と美紀は親父が用意してくれたハムエッグトーストを無言で食べるのだった。




 美紀は事故現場が気になると一人であの交差点へと向かった。 俺は生徒会長と鉢合わせするとマズイと言われ、家で留守番をすることに。


「大丈夫そうだな 」


 大きな事故だったから何か騒いでるかもとネットの『ツブヤイター』を覗いてみたが、呟きはあるが特に俺の目撃情報は見当たらない。 気になったのは予想通り、大袋に詰め込まれた図書館の本がトラックの下敷きになっていたらしい。


「持ち主可愛い…… よく避けたな…… かわいそう…… か 」


 どれも近江先輩のことで、ホッと胸を撫で下ろす。


「そう気に病むな春翔 」


「ん…… サンキュ 」


 親父がアイスコーヒーを持ってきてくれた。 親父の趣味はコーヒー豆の自家焙煎と苺の新種開発。 自慢じゃないが、某コーヒー店の物よりも美味い。


「危険だと判断したらこの街から出て行くだけだ。 気にせず普段通りの生活を送ればいい 」


「すまん。 せっかくこの地に落ち着いてるのに迷惑かけて 」


「お前の行動は世間的には非常識だが、私は誇っていいものだと思っている。 徳間博士が聞けば泣いて喜ぶ 」


 親父はそう笑うが、内心は穏やかではない筈だ。 ここで長年思っていたことを聞いてみることにした。


「親父、なんで俺が開発されたんだ? 」


「春翔、開発されたというものじゃない。 お前は生まれてきたんだよ 」


 結構真面目に怒られた。


「徳間教授はな、お前達が持つチカラが世の助けになることを信じて研究を続けたんだ 」


 彼は元々、難病を患っていた妻を救いたくて細胞の研究を始めたのだと親父は言う。 偶然にも多能性幹細胞を発見し、その細胞は彼の求めていたものとは違う空間転移という能力だったが、彼は我が子の誕生のように喜んだそうだ。


 だが研究費が底を突き掛けた頃、そこに政府の人間が関与するようになる。 俺の兄姉達はその見返りとして、政府に引き取られていったらしい。


「俺の兄姉はどうなったんだ? 」


「依然として行方知れずだ。 私も身を隠すので精一杯だったが、捜索した限りでは見つからなかった。 もしかしたらもう…… というのは酷だな 」


「いや…… 」


 親父は寂しそうな笑顔を俺に向けていた。 もうこの世にはいないという言葉は確かに酷だが、記憶にもない人に対して寂しいとは思わない。


  君はひとりじゃないからね!


 俺の頭の中には、美紀のあの声が響いていた

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