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82話 ハプニングのその先で

 あれから坂下の姿は見なくなり、陵州祭本番当日を迎えた。 陵州祭は土曜、日曜と二日間行われ、日曜日の夜には隣町の花火師の協力で300発の花火大会が高校近くの河川敷で行われる。


 ゆかり先輩達生徒会が頑張ってくれたおかげで今年は大々的に開催される学園祭に、付近住民だけでなく他の高校からの来場者もあるらしい。


「頑張ろうね、春君! 」


「お前のメイドコスに期待だな 」


 『違うよ!』とバスの中で全力否定するも、美紀はまんざらでもなさそう。 このまま前園先輩達が望む男の娘まっしぐらにかもしれない。


「あっ! おはようございます春翔君! 」


 バスを降りると、向かい側のバス停からゆかり先輩が俺に手を振っていた。 学校に向かうには逆車線…… 何してるんだ?


「どうしたんです? 」


「ちょっと食材の手配に手違いが出てまして。 急遽仕入れ先に…… 」


 話を車の流れで遮られる。 道路を渡って話を聞くと、ウチのクラスに入る筈だった卵が予定の半分しか届かなかったそうだ。


「でも先輩、開祭の挨拶があるんじゃ…… 」


「それまでには戻ってきますよ。 間に合わなければ頼もしい実行委員長が代弁してくれますし 」


 本條先輩か。 ゆかりファンの生徒達は納得しないだろうに。


「俺達も付き合いますよ! ウチのクラスの事ですし 」


「ありがとうございます! あなた方のクラスには頑張って貰わねばなりません! 」


 彼女は今日の陵州祭の更に先のクリスマスイベントを視野に入れている。 もしかしたら彼女はその場で俺に…… とは思い上がりすぎだろうか。


 俺と美紀は再びバスに乗り込み、ゆかり先輩と一緒に仕入れ先のあるショッピングモール横の商店街に向かったのだった。




「あーあ、僕も春君と調理担当がよかったなぁ。 こう…… お客さんの胃袋をギュっとね! 」


 店の人とゆかり先輩が話をしている間、俺と美紀は店の外で待機する。


「お前はメイド服で『お帰りなさいご主人様!』って言う方がお客さんの心をギュッとできると思うぞ? 」


「出来ないよ! 僕は男の子! 」


 そんな他愛もない話をしていると、ゆかり先輩が一枚のメモを片手に店から出てきた。


「他の仕入れ先を教えてもらいました。 すぐ近くなので行きましょう! 」



 

 生徒会が日々外回りの活動を続けてくれていたおかげで、急遽の食材の調達にも関わらず商店街の各店舗さんが協力してくれることになった。 ショッピングモールという大型施設が近くに出来てしまったせいで昔からの商店街は客足が遠のいていたらしく。 だがゆかり先輩を初めとして、陵州高校生徒会は地域活性化の為に色々と商店街に貢献していたのだとスーパーマーケットの店長は話していた。


「一時はどうなるかと思いましたが…… 明日は大丈夫ですね 」


「さすがゆかり先輩ですね。 っと、早く戻らないと開祭宣言に間に合わなくなっちゃいますよ! 」


 間もなく8時半…… 開祭宣言は陵州祭の開祭は9時からだ。


「はい! その前におトイレ行ってきますね 」


 ゆかり先輩は帰り道に見つけた公園のトイレに走っていく。 その間にタクシーを捕まえようと道路を見回した時だった。


「うんー? 」


 美紀が奇妙な唸り声を上げて公園を凝視している。 なんだ?


「どうした? 」


「春君、アイツらちょっとヤバくない? 」


 美紀に言われて見ると、公園のトイレに三人の男達が集まっている。 どの男達も柄が悪そうな感じで、黒のタンクトップの男の腕には派手なタトゥーが入っていた。


「ゆかり先輩、大丈夫…… か!? 」


 美紀の直感は当たりだったらしい。 トイレから出てきたゆかり先輩をその男達が取り囲んだのだ。


「春君! 」


 俺よりも先に美紀は彼女の救出に走る。 休日で時間がまだ早いせいか公園内には人影はなく、こんな時に限って蘇我は側にいない。


「何してるのさ! 」


 先行した美紀が駆け寄ると、二人の男がスッと立ちはだかった。 後ろの一人はゆかり先輩の背後に立って、彼女の口を塞ぎ薄ら笑っていた。


「春翔君…… 」


 美紀が冷や汗を流す。 ちらっと見えた後ろの男の右手にはキラッと光るもの…… ナイフかよ!


「テメェがハルトかよ? 」


 !? 俺を知っているような口ぶり…… 思い出した、コイツ海でボートにしがみついてた金髪だ。 ということは坂下の男…… ホントに助けるんじゃなかった!


「その人を離せよ。 関係ないだろ 」


「うるせぇ、大アリなんだよ。 ちょうどいいな…… テメェにも少し痛い目に遭ってもらおうか! 」


 突然金髪男が殴りかかってきた。が、美紀の拳をかわし続けてきた俺には遅く、チカラを使うまでもなく避けてやる。


「テメェさえいなきゃ唯は俺の女だったんだよ! 」


 よく言う…… 溺れてる彼女を助けもしなかったくせに。 単なる逆恨みじゃないか。


「うあっ!! 」


 横にいた美紀がタトゥータンクトップのパンチを受けて後退った。 まるでボクサーのような構え…… 美紀が押されるなんて今まで見たことがない!


「こいつボクサー崩れだよ! 」


 一撃が重たいのか、美紀は当たらないように右へ左へ避ける。


「くそっ! コイツすばしっこいな! エイジ、その女さっさと連れて行け! 」


 タトゥータンクトップが叫ぶと、ナイフ男はゆかり先輩を肩に担いで走り出した。 白昼堂々の誘拐かよ! その先には黒のワンボックスカーが木陰で待機しているようだった。


 マズい! 車で逃げられたら追いつけない!


 金髪をスルーしてナイフ男を追いかけようとすると、金髪男が立ち塞がるように向かってきた。


「お前の相手は俺だぁ! 」


「邪魔なんだよ! 」


 振りかぶってきた腕を受け止めて奴の脇に右腕を滑り込ませて深く沈み、奴の体重が腰に乗ったところで一本背負いを決めてやった。


 金髪男が声を上げる間もなく地面に叩き伏せ、すぐさまゆかり先輩を追ったその時だった。


「痛ぇ!! 」


 ゆかり先輩がバッグの中身をばら撒きながら、手に取ったボールペンでナイフ男の背中を突いたのだ。


「このクソ(あま)ぁ! 」


「きゃあ! 」


 ナイフ男は仰け反りながらもゆかり先輩を投げ飛ばした。 その投げ飛ばした先は車道…… そこには黒のワンボックスカーが走り込んできていたのだ。


  パシュン!


  ドン





 無我夢中だった。 ゆかり先輩を抱き抱え、その後はよく覚えていない。


「春翔君! 春翔君!! 」


 泣き叫ぶようなゆかり先輩の俺を呼ぶ声を遠くに聞き、俺は意識を手放さざるを得なかった。 

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