7話 やっちまった
現場をできる限り早く離れたくて、連続でチカラを使ったのが間違いだった。
俺のチカラは目視できる範囲でしか跳ぶことが出来ず、その場所が見えなければテレポートは出来ない。 地上に降りて誰かと鉢合わせになるのが怖くて、建物の屋上を転々と跳んで公園まで来たのだ。
「あぁ…… めまいがする…… 」
特訓で少し慣れたとはいえ、連続で跳ぶのは10回が限度。 誰もいない公園のベンチに寝転がり、目を閉じて陽の暖かさに身を任せる。 美紀はバスで向かってくるだろうからそれまで少し眠ることにした。
確実にバレた…… 今回は前回と違って大人が相手だし、よりによって自分の通う学校の超人気の生徒会長。 目と鼻の先で顔を見られたのだから、探されて詰め寄られても言い訳出来ない。
「どうしよう…… 」
目撃者はいたんだろうか。 近江先輩だけでなくそこから政府に情報が漏れたら、きっと俺は今の生活を続けられない。
俺だけならまだいい。 親父はもちろん処罰されるし、場合によっては美紀にも被害が及ぶ。
意識が朦朧とする中、考えると眠ることも出来ず…… 目元にかかったフワッと冷たい感触で目を開けた。
「大丈夫? 春君 」
「おぉ…… 早かったな、美紀 」
美紀は俺の頭の横に座って心配そうな表情で覗き込んでいる。
「すまん、やっちまった 」
「僕に謝る事じゃないよ。 一人の生徒を助けたんだもん、春君は間違ってないと思う 」
『なにやってるのさ!』と怒られるかと思ったが、意外に美紀は冷静で。 俺の頭を撫でる手は優しかった。
「美紀…… 」
「やだ 」
パシッとおでこを叩かれる。 まだ何も言ってないじゃないか。
「どうせ『危ないから俺に構うな』っていうつもりでしょ。 チカラがバレたって春君は春君なんだから、僕は傍を離れないよ 」
「お前な、国に拉致されるかもしれないんだぞ? そうなったら…… 」
「そうなったら僕は通報した連中を一人残さず許さないだろうね 」
こえぇ! こいつの薄ら笑う顔はマジこえぇ……
「少なくともあの場で生徒会長がテレポートしたって騒いでた人はいなかった。 勘のいい元関係者なら探りを入れてくるかもしれないけど、生徒会長がバラさない限り大丈夫だよ! 多分 」
フンと鼻息を荒くして美紀は拳を握りしめる。
「殺る? 始末しちゃう? 」
「バカ言うなよ、助けた意味がない 」
本当にやりかねない雰囲気に彼の肩を押さえると、『冗談だよ』とニコッと笑った。
「その顔、冗談に聞こえないんだよ 」
「とにかく! 生徒会長に口止めは必要だよね。 帰って作戦会議しようよ 」
「作戦…… ってなんだよ? 」
「あの生徒会長だよ? 口で勝負して勝てると思う? 」
才色兼備の近江ゆかり…… きっと言い訳をしたってお見通しなのだろう。 だがなぜあの状況になったのか、理由はかんがえておいたほうが良さそうだ。
「それじゃ俺の家に行くか。 親父も交えて話した方がいいと思う 」
「そうだね。 おじさん、どう思うかな…… 」
それは話してみないとわからない。 フラフラする意識を頬を叩いて持ち直し、美紀に肩を借りながら家路を急いだ。