75話 ピンチを救ったのは
翌日、クラスでは来週末に控えた陵州祭に向けての学級会議が開かれていた。 だいぶマシにはなってきたが、成長遅延薬の副作用で眠気に襲われ、何を議題にしているかも頭に入って来ない。
「これじゃモヤッとした出し物にしかならない! 」
そう叫んでいたのはクラス委員長の二宮 詩子だ。 普段は大人しく、みんなの雑用係ばりのメガネっ子なのだが、ゆかり先輩の頑張る姿に感化されて何かが目覚めたらしい。
「でもいいんちょ、今更クラスの出し物の変更なんて出来るの? 」
「だよなぁ、だから隣のクラスと被ってる喫茶店なんてやめればよかったんだよ 」
ぶちぶちと不満の声に、クラスが不穏の空気が漂い始める。 そんな時だった。
「あの…… 」
ウチのクラスに遠慮がちに顔を出したのは、隣のクラスの委員長の榎本だ。 下の名前は知らない。 彼も二宮と同じタイプのようで、いかにも気の弱そうなヒョロヒョロ君だ。
「どうしたの? 真っ青な顔して 」
「あの…… 料理の上手な人を貸していただけないかと…… 」
は? それこそ何を今更…… 聞けば、メインの調理担当の数人が集まって自宅で練習していた時に、生のホタテで食中毒をやらかしてしまったらしい。 生のホタテって…… 学園祭的にNGなメニューじゃね?
「春君! 」
榎本におぶさるようにして美紀も顔を出した。
「お願い! 春君の腕なら全然問題ないよ! 僕と一緒に調理担当に回って! 」
「いや、俺だってウチのクラスの裏方が…… 」
「それだ! 」
キラーンと二宮のメガネが光った。
「2クラス合同でメイド喫茶をやりましょう! 」
ウチのクラスはメイド喫茶を隣に取られて悔しがっていたし、調理担当を失った美紀のクラスはその補填が出来る。 まぁ悪くはないが……
「「「うおおぉぉ! 」」」
「「「きゃー!! 」」」
突然クラス中が歓喜に沸く。 そこまで嬉しい事なのか?
「ミキちゃんのメイド姿が間近で!! 」
「どうせやるならメイドでご主人様! でしょ! 」
「えっ!? 僕がメイドさんやるの!? 」
あっ、そう。 そういうものなのか。 メイド喫茶自体にあまり興味のない俺にはわからない世界だ。
「ん? 」
突然静まり返ったクラス。 その視線が俺に集中している。
「…… なんだ? なんなんだ? 」
「飛島、お前生徒会長と仲良かったよな? 」
「変更できるか…… ううん、出し物の変更をお願いしてよ! 」
『とっびしま! とっびしま!』と、集まってきた隣のクラスの連中にまでコールを浴びる。 呆気に取られてつい絵里に助けを求めると、やれやれといった様子で俺の側に来た。
「言ってみるしかないんじゃない? 近江会長に 」
「う…… ん、お前のメイド服姿も悪くないよな 」
「はっ? 」
絵里は普段から短いスカートは履かない。 これはいいかも!
「ばっ!? あたしは裏方に回るわよ! 美紀の方が絶対可愛いって! 」
「「「えーり! えーり! 」」」
飛島コールから絵里コールへと変わっていく。
「何の騒ぎかしら? …… って。 あらハルト君、奇遇ね 」
廊下に押し寄せていた隣のクラスの連中を割って、本條先輩が顔を覗かせていた。 先輩は生徒会について行けずにダウンした実行委員長の代役に就任したばかりだ。
「いや、今から2クラス合同の出し物に変更なんてできるのかなぁ…… なんて 」
先輩は俺を見て、絵里を見て、美紀を見てクラスを一瞥する。
「いいわよ? 私もミキちゃんのメイド姿が見てみたいわ 」
「「「うおぉぉ!! 」」」
再びクラスが歓喜に沸く。
「何かあったのかしら? 」
先輩は俺と絵里の間にわざわざ顔を突っ込んできて、小声で事情を聞いてくる。 近いですって! 絶対わざとやってるな!
事情を話すと『ゆかりには話を通しておくわ』とすんなり帰っていく。
「ゆかり先輩は大丈夫ですか!? 」
「ええ、あなた達の心遣いが届いたみたいよ。 明日の事があるから今日も早めに帰らせるわ 」
澄まし顔で肩越しに手を振る先輩はスマートでカッコいいと思った。 顔色もよく、親父と会話して吹っ切れた事が後押ししているのかもしれない。
「飛島ぁ! あの美人は誰なんだよぉ! 」
本條先輩が去った瞬間に、クラスの男子達に吊るし上げられる。 ゆかり先輩以来、俺はこの役回りばっかりだな……




