6話 事故
ガシャン!!
俺達の真横で大きな衝突音が聞こえた。 びっくりして振り向くと、箱型の10トンクラスの大型トラックが斜めに傾きながら俺達の横を通り過ぎていった。
「なっ!? 」
「「「きゃあぁ!! 」」」
悲鳴が上がったその先では、前面が潰れた軽自動車が煙を噴いていた。 トラックと軽自動車が交差点の中で事故を起こしたのだ。
「!? 」
強制的に進路を変えられたトラックの先には近江先輩がいた。 彼女も事故の衝突音に気付いて、その場に立ち尽くしている。
「逃げろぉ!! 」
と誰かが叫んだ瞬間、傾いていたトラックの車体が横断歩道側に更に傾いた。 運転手が彼女を避けようとハンドルを切ったのだ。 トラックは彼女をギリギリで逸れていったが、車体の傾きは止まらず彼女に覆い被さろうとしていた。
ガサガサ! ドサッ!
気が付いた時には、俺は芝生の上に近江先輩を押し倒していた。
「…… 」
「あ…… 」
目を丸くして言葉を失っている彼女と、目と鼻の先で見つめ合うことしばし。
「「「きゃああぁ!! 」」」
「女の子が下敷きに!! 」」」
後ろの方で人々の悲鳴が聞こえた。 その声に顔を上げると、密集した小枝が顔や頭に刺さる。 わけがわからず、とりあえず周りの状況を確認しようと草藪から顔を出すと、どうやらここはショッピングモールの遊歩道に整備された植木らしかった。
そうか…… 俺はトラックに潰されそうになった近江先輩を抱えて跳んだんだ……
バレたかも…… 大通りの交差点のど真ん中で、チカラを使ってしまった事実に血の気が引いていく。
「…… あの…… 」
「ひゃい!? 」
しかも誰もが知っている超人気の生徒会長を押し倒し、植木の中で今も馬乗りの状態。 心臓はバクバク、額には汗が噴き出る。
「ここは? あなたは? 確か私は、交差点の事故に巻き込まれて…… 」
「ご、ごめんなさい! ! 」
即座に離れようとしたが、植木の細かい木に引っかかって身動きが取れない。 頭は真っ白になり、無我夢中で空を見上げた。 と、ショッピングモールの屋上の給水設備が目に留まる。
「あの…… 」
「先輩! 目を閉じていて下さい! 」
「は、はい! 」
素直に従ってくれた彼女が目を閉じた瞬間、俺は給水設備の上へと跳んだのだった。
「ああ…… バレた…… ヤベェ…… 」
給水設備の鉄製の屋根で仰向けになり、青空を見上げる。 なんてこった…… これじゃ日々の秘密の特訓の意味がない。 人前でチカラを使わないようにと訓練していたのに、こうもあっさりと使ってしまった自分が情けなくなってくる。
「仕方ないじゃん。 多分跳ばなかったら近江先輩は死んでた…… 」
ボソッと呟き、自分を励ましてみる。 そうだよ、あの状況で彼女を救えたのは俺だけだったんだから。
今も交差点の方では悲鳴やら怒声やらで大騒ぎになっている。 目撃した人達が、トラックの下敷きになった筈の女子高生を助けようとしているのだろう。
ショッピングモールの屋上は駐車場になっているが、まさか給水設備の上に人がいるとは思うまい。 少し落ち着こうと仰向けのまま目を閉じたその時、胸ポケットのスマホに着信があった。 ビクッと飛び起きて画面を確認すると、相手は美紀だった。
「びっくりさせん…… 」
ー こっちがびっくりだよ! 今どこにいるのさ!? ー
音割れする怒鳴り声に思わずスマホを耳から離す。
「ショッピングモールの屋上に逃げた。 お前は大丈夫なのかよ? 」
ー よかった…… 君がぶん投げたパフェまみれだけど、僕も大丈夫だよ。 生徒会長会長は? ー
「ああ…… それなんだけどさ…… 」
俺はバレたかもしれないと、美紀にざっくりと話した。
ー そっか。 でもやっちゃったことはもう仕方ないんだから、ヤケになっちゃダメだよ? とりあえずどこかで落ち合おうよ! ー
「了解。 あの公園で待ってるよ 」
通話を切って屋上の駐車場を覗き見ると、欄干に沿って人だかりが出来ていた。 人目が事故現場に向いているうちに、俺は高い建物の上にテレポートして待ち合わせ場所に向かった。