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5話 交差点

 土曜日。 午前授業が終わった後、俺と美紀は制服のままショッピングモールへ足を運んだ。 何か目的があったわけではないが、雲一つなくよく晴れた空だし、少し気晴らしに出掛けようと美紀が強引に誘ってきたのだ。


  あのお店の新作パフェが食べたいなぁ


 強いてここへ来た理由を挙げるとするなら、美紀が言ったあのセリフだろうか。 まるで彼女からのデートのお誘いのようなセリフだが、あいつはれっきとした男だ。 違和感がないのは認めるけど……


 今日は制服のブレザーとスラックス姿だから見間違えることはないが、私服の美紀は端から見ればボーイッシュな女の子だ。 さらに美紀の可愛さは学校外でも目立つようで、すれ違う人達からの視線を結構浴びる。


「流石に土曜日の午後は人多いね 」 


 腰ほどの高さの植木が整備されたショッピングモールの遊歩道をゆっくり歩きながら、美紀は辺りを嬉しそうにキョロキョロしている。 あまり注目はされたくないけど、こいつが楽しそうにしている姿は俺も嬉しかった。


「例のパフェ屋さんは大通りの方にあるんだって。 売り切れてなきゃいいなぁ 」


 大通りの角を曲がり、四車線の道路が交差する大きな交差点を越えて、数人が店舗外にまで並ぶカフェに俺達も並び順番待ちをする。 やっと 順番が回ってきて店長おすすめのパフェを2つ注文すると、店員がメニュー欄に売り切れの札を掛けた。


「いやー、僕たちで売り切れだったんだね。 危なかったー! 」


 満面の笑みでパフェを両手にしっかり握り、店舗の自動ドアをくぐる。


「どうせならショッピングモールの緑のあるとこで食べようよ! 」


「お…… おう 」


 美紀は立ち食いをしない派らしい。 アイスが溶けてしまいそうだが、鼻唄混じりにテンポよく歩く彼は目的地まで口をつけようとはしない。


「ホントに嬉しそうだな 」


「嬉しいよ。 ここのパフェ凄く人気があってね、一度食べてみたかったんだけど前回来たときはもう売り切れてたんだよね 」


 皮肉のつもりだったんだけど…… 素直な感想を聞かされ、俺は苦笑いする。


「あ…… もしかして今の、男の子のクセにパフェで大喜びするなよ! ってやつ? 」


 今気づいたのか……


「いいじゃん!  男の子だって甘いモノ好きなんだよ。 悪いことじゃないし、嬉しいものは嬉しいんだから 」


 ホント、女の子なら彼女にしたいくらい可愛い奴だ。 ニコニコで今にもよだれを垂らしそうな顔もまた可愛い。


 そんな他愛もない話をしているうちに、俺達はショッピングモール前のさっき通った四車線道路の交差点に辿り着いた。 信号は赤なので当然青信号まで待つことにする。


「あれ? 」


 美紀が何かに気付いたようで、目の前に掲げて持っていたパフェを横にずらして目を細めた。 その視線を追って交差点の向かいを見ると、大袋をいくつも抱えたウチの学校の女子生徒が信号待ちをしていた。


「向かいの交差点に立ってるのって、ウチの学校の生徒会長だよね? 」


「んあ? 」


 確かに生徒会長の近江(おうみ) ゆかり先輩だ。


「綺麗な女性(ひと)だよねぇ…… 遠巻きでもすぐわかっちゃうくらい 」


 優しそうな少し垂れた目、バランスの取れた顔立ち、柔らかそうな腰まである髪。 見た目は線が細く見えるものの、説得力やリーダーシップで彼女の右に出るものはウチの学校にはいないだろう。


 噂では学校の成績も良く、運動神経も悪くはなく…… 才色兼備とはこういうことなんだなと思わされる。 よく学園ドラマに出てくる憧れの的みたいな存在だが、かと言ってプライドの高いお嬢様という訳でもなく、気取らない性格も人気が高い。


「あんな人が彼女ならなぁ…… 」


「えっ? 」


 気が付くと美紀は俺を下から覗き見ていた。 俺の気持ちを代弁したらしい。


「いやいや、そんなんじゃなくてさ…… 」


「ふぅーん…… 」


「…… お前も負けてないぞ? 」


 ニヤニヤしている美紀を褒めてやると、プーっと頬を膨らまして怒ったような素振りを見せた。


「それ褒め言葉じゃないよね? 僕、女の子じゃないし! 」


 よくこいつが女の子だったら凄く可愛いんじゃないかと思う。 実際、隣で信号待ちしていた若めの男性が美紀に見とれていたのを俺は見逃さなかった。


 美紀を茶化しているうちに信号は青になり、ゾロゾロと人波が動き出す。 俺達もその波に合わせて歩き出すが、近江先輩は両手に持っていた大きな紙袋が重たいのか、持ち直すのに手間取ってまだ横断歩道に足を踏み入れていなかった。


 ここの青信号の時間は比較的長く、多少歩くのが遅くても十分間に合う。 が、彼女は人波に乗れずにやっと横断歩道を渡り始めた頃には結構な時間が過ぎていた。


「美紀 」


「いいよ! 」


 名前だけ呼ぶと、俺の気持ちを察して二つ返事で返してくれる。 俺達が近江先輩を手伝おうと横断歩道を走り始めたその時だった。

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