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57話 有益な情報とは

「有益…… ですか? 」


 俺にとっても(・)というのは気になるが。 バレていたゆかり先輩との通信を切った後というのも嫌な予感がする。


「私の憶測も混じっているから、信じるかどうかはあなた次第だけれど 」


 前振りが長い! これも話術の一端なのかと思って冷静に努める。


「私が近江をクローンだと勘違いしたように、奴らもクローンが女性だと思っていたようなの。 奴らが現れた初日は、女子生徒中心に監視されていたのは知っているかしら? 」


「はい。 俺らは素通りだったけど、ゆかり先輩も絵里も質問されたと言っていました 」


 この人はこの数日でそこまで見ていたのかと少し怖くなる。


「あの横転事故から二週間経つのだけれど、手際が良すぎると思わない? 」


「えっ? 」


「つまり、近江の噂が立つ前からクローン生存の噂があったのだと私は考えているの 」


「それって、俺の姉が生きてるって事ですか!? 」


 彼女は目線を店内に向けて『静かに』と無言の言葉を掛けてくる。 つい声を荒げてしまった……


「ええそうよ。 そして先日、転落事故で助かったのも女子生徒。 この二つの事件の関連性を見て、奴らはシークレットサービスを派遣したのではないかしら 」


 確かにそうかもしれない。


「ということは徳間教授と他のクローンは国内にいる可能性が…… 」


「高いわね。 でも全員が生き残っていると限らない…… 残念ながらね 」


「なんでですか? 」


「大所帯過ぎるのよ。 行方不明になったクローンは3人。 お爺さんが若者3人を連れて歩くのは目立ち過ぎると思わない? かといってクローン単体で生きていくのは不可能に近い。 あなただって、飛島博士の助力があってこそ生きていけるでしょう? 」


 !? この人はどこまでを知ってるんだ!


「そう驚かないで。 父が遺した日記もあるけれど、私は徳間研究所に出入りしていたから 」


「なん…… だと…… 」


 お約束のセリフを口にしてしまう。 ホントに出るんだなこれ……


「って事は先輩は親父に会ったこともあるんですか? 」


「ええ、まだ小学生にもならない頃だけど。 飛島博士はお元気? 」


 『はい』とは答えたものの言葉が続かない。


「じゃあ俺の兄姉にも…… 」


「ええ、遊んでもらったこともある。 名前までは覚えていないのだけれど 」


 日記にも残っていなかったと彼女は寂しげに笑った。 


「男性のクローンはわからないけれど、女性のクローンは生きていると私はみているわ。 会えるかどうかは微妙だけれどね 」


 俺と同じように他のクローンも生きているのか。 なんだか胸の奥が熱くなってくる。


「少しはお役に立てたかしら? 」


「…… まさかそれと引き換えに協力しろって言うんじゃ! 」


 彼女はクスクスと笑い始める。 おかしな事は何も言ってない!


「復讐は諦めてはいないけれど、これをネタに協力しろとは言わないわ。 惜しいけれど別の方法を探すつもりよ 」


 ホッと胸を撫で下ろすが油断は出来ない。


「そう警戒しないで。 あなた達にも近江にも迷惑がかからない方法を探すから。 だからわざわざあの子に知られないように配慮したのよ? 」


「えっ? 」


「そうでしょう? あなたの姉が生きていると近江が知ったら、あの子の事だから必死になって探りを入れるわよ? 動けばバレる可能性も高くなるし、こちらだけでなく向こうにも危険が及びかねないのよ? 」


 …… そこまで考えているのか。 凄いなこの人。


「さあ、行きましょうか。 あまりあなたを独占すると、近江にも高坂さんにも恨まれてしまうわ 」


 目の前の伝票をスッと持って行って、彼女はあっという間に会計を済ませてしまった。 『すいません』とお礼を言うと、『私が誘ったのだから』と柔らかく笑う。


「あのっ! 」


 俺は本来の目的を正直に話すことにした。


「お父さんの日記なんですけど 」


「回収かしら? 」


 やはりバレてた。 『はい』と答えると、『いいわよ』と鞄から取り出して差し出してくる。


「遺品ではあるけれど、私個人には重すぎる代物だわ 」


「…… 預かります。 これをどうするかは親父に決めてもらいます 」


 俺にだって重すぎる代物だ。 だから元研究員として、研究所関係者として親父に責任を取ってもらう。 言葉にはしなかったが、去って行く彼女の背中に誓って頭を下げるのだった。 

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