49話 空間転移(絵里SIDE)
生徒会室を出ると既に夕暮れ。 すっかり遅くなってしまった…… 『カァー』とカラスに見送られて校門を出る。
近江先輩の熱意は凄かった。 あれを聞かされたら、直感的に敵わないと感じたのも頷けてしまう。
「いや、あたしだって負けてない! 」
あたしも言いたい事は全部吐き出した。 途中から先輩に向かってタメ口だったのは反省しなきゃならないけど。
結局、空間転移能力についてはよく分からなかった。 だって会長、座標とか質量とか小難しい数学的な事を言うんだもん…… 要はテレポートでしょ。 マジックでよくある瞬間移動ってやつ。 春翔の場合、そのタネがない本物ってだけの話だ。
「あのショッピングモールの事故の当事者だったんだ…… 」
トラックの下敷きになりそうだった所を春翔が助けてくれたと言ってた。 世間にバレてはいけないチカラを惜しみなく使って、リスクを背負ってまで跳んでくれたと。 その時アイツはどんな思いで…… いや、アイツなら何も考えないで跳んだんだよね、きっと。
「あーあ、素直に謝ればよかったなぁ…… 」
今日一日、話しかけるタイミングはいくらでもあった。 昨日はゴメンねと切り出せなかった自分が情けなくなる。 近江会長みたいに、飾らずストレートに。 それが出来なかったのは、長年一緒にいた甘えなんだ。 どこかで春翔の方から声を掛けてくれると期待していたのかもしれない。
でもアイツは来なかった。 それだけこの件は真剣なんだと気付いた。 だからあたしの方から行かなきゃ!
そう思って電話をかけてみたが繋がらず。 何回も何回もかけてみたけどダメで、メールで『電話ください』と送っておいた。 メールで謝らず、面と向かって言わなきゃならない大事な事だ。
バスを降りて、家までの道をゆっくりと歩く。 足首はまだ少し痛いけど、この調子なら今月末までには完治できそうと予想を立ててみた。 足が治ったら、今度は二人だけで水族館に行きたいな…… そんなことを考えるとついニヤけてしまう。 まだ仲直りもしてないのに。
「そういえば『徳間研究所』だっけ? 」
春翔のおじさんもそこの元研究員で、血が繋がった父親じゃない。 母親がいないのは知っていたけど、出生を知ってやっと理解できた。 もっと早く言ってくれればいいのに…… と文句を言ってみる。
スマホで徳間研究所を調べながら家路の大きな橋を渡る。 歩きながらだけど、まぁいいよね。
「あれぇ? 」
いくら検索しても、徳間に関連するものは出てきても研究所の名前がない。 れっきとした研究所なら名前くらいヒットしてもいいはず…… と、夢中で検索している時だった。
「あっ! 」
不意に体に強い衝撃を受けて橋の欄干に突き飛ばされた。 右足の踏ん張りがきかず景色が上下逆転する。
「え…… 」
一気に近づいてくる川。 そう、あたしは橋から落ちたのだ。 誰に突き落とされたかなんて知らない…… それよりもこの川は水深が浅く、あたしは頭から落ちている。
これからなのに…… 春翔に謝ろうと思ってたのに!
スローモーションで流れる景色に愚痴り、死を覚悟して目を閉じた瞬間だった。
パシュン!
何かが破裂したような音と共に体を強く抱きしめられる感触。 もう一度破裂音が聞こえたかと思うと、ドシンと地面に叩きつけられる衝撃を受けた。
痛くはなかった。 死んだ時って、こんなもんなんだよねきっと。 痛みを感じる間もなく、あたしは地面に叩きつけられてそのまま…… ん? 地面?
「あたたた…… 」
聞き慣れた声に目を開けると、キツく目を閉じて痛がっているアイツの顔がそこにあった。
「…… はる…… と? 」
「シッ!! 」
あたしを抱きかかえたまま、春翔は橋げたに目線を向けた。 その瞬間、目の前にコンクリートの壁が現れてもの凄い吐き気に襲われる。
「うっ…… 」
なにこれ…… 思わず春翔の肩で吐いてしまった。 耐えがたい吐き気と眩暈と頭痛…… なに!? なにこれ!!
「ごめ! うぇ…… 」
「いいから。いいから! 」
吐き続けるあたしの背中を、アイツの手が優しく撫でてくれる。 肩で吐いちゃったのに…… 汚いのに。
「間に合ってよかった…… 」
ボソッと呟いた春翔の声に、涙が溢れて止まらなかった。




