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44話 護衛のハルト

 朝早くに起きた日には眠くなるものだ。 今日成長遅延薬を飲んでは間違いなく逝ってしまうと考えて飲んでないが、ウトウトする癖がついてしまったのか午前の授業の後半は半分覚えていない。


 昼休みになり、俺は蘇我に声をかけた。 目的はゆかり先輩の護衛を頼む為だ。


「飛島ぁ! マジかよぉぉ!! 」


 ゆかり先輩がお呼びだぞと伝えると、例のごとく襟首を掴まれてこんにゃくにされる。 ユサユサと揺さぶり続ける蘇我の目はキラキラ期待に輝いてかなり気持ち悪い。


「飛島ぁ! オレヤベーよ! 」


「わかったから揺するのやめろ! 」


 最初はおとなしく揺さぶられていたが、いい加減気持ち悪くなって蘇我の手を振り解いた。


「お、オレはどうしたらいいんだ? 」


 崩れた襟を直して俺は蘇我の耳を引っ張り寄せて小声で話す。


「生徒会室に連れていくから先輩に聞けよ。 それとこれは内密な話なんだからあまり騒ぐなよ? ゆかり先輩にも迷惑かかるぞ 」


 蘇我はピタッと動きを止めて自分の襟元を整える。 『わかった』と凛々しい表情を作っているつもりだろうが、鼻の下が伸びて気持ち悪い。 ため息をついて後を追おうとすると、今度は絵里がヒョコヒョコと寄ってきて耳打ちしてきた。


「蘇我に何言ったの? なんか気持ち悪いんだけど 」


「ゆかり先輩が読んでるって伝えただけだよ 」


「へぇ…… アイツに用なんて信じられないけど! 」


 絵里は俺をジト目で睨んでくる。 『何を企んでるの?』という顔だ。 話を逸らさねば…… 


「それよりお前、足の具合どうなんだよ? 」


 すると絵里はニッコリ笑って、挫いた足でトントンと床を蹴って見せる。 まだ包帯を巻いてはいるが調子は良さそうだ。


「もう平気! 心配してくれてたんだ 」


「まだヒョコヒョコ歩いてるのに何が平気なんだよ。 痛いんだろ? 無理するな 」


 プーっと頬を膨らませる絵里。


「じゃあさ、学校終わったら病院行くの付き合ってよ 」


「えっ? 今日? 」


「経過観察なのよ。 それともなに? あたしより近江会長とのデートの方が大事? 」


 そんな約束はしてない。 まあ…… 後はゆかり先輩が上手くやるだろうからいいか。 こいつの怪我の具合も気になるし。


「わかったよ。 とりあえず蘇我と生徒会室行ってくる 」


 絵里の肩をポンと叩き、少し離れてしまった蘇我を追いかけた。




 生徒会室のドアをノックすると、ドアを開けたのは美紀だった。 美紀には生徒会室で昼食を取りながら、ゆかり先輩に本條先輩との事を先に説明してもらっていたのだ。


「ちょっと遅いよ春君! 」


「わりい、コイツにこんにゃくにされてた 」


 俺の言葉にゆかり先輩が吹き出している。 想像力豊かだな……


「こんにちは春翔君 」


「は、はひ! こんにゃちわでゴサマス! 」


 早朝から会っていたにも関わらず先輩が挨拶をしてくるのは、蘇我に対するアリバイ作りなのだろうか。 それよりも突然俺の後ろにいた蘇我が奇声に近い返事をした事にビックリして振り向く。 ああ…… なるほど。


「こいつもハルトなんですよ。 蘇我悠人 」


「そうでしたか。 お呼びしてごめんなさい蘇我君 」


「いえ! 身に余る光栄でございます! 」


 『ございます』って…… 普段のこいつからでるはずのない言葉に、美紀と二人で失笑する。


 ゆかり先輩に案内されておとなしくソファに座る蘇我は、ガチガチに緊張して挙動不審もいいところだ。 人選を間違えたかもしれない。


「蘇我、あまり緊張するなよ。 ゆかり先輩怖がってるぞ 」


「いえ、怖い訳ではなく……  どうしたのかなと 」


 蘇我はハッと我に返って『すいません!』と頭を下げた。 勢い余ってテーブルに頭を打ち付け、カチャンとティーカップが鳴る。


「まさかオレが近江ゆかり先輩と話せる日が来るとは思わず…… 感動してて何をすればいいのやら! もう夢みたいッス! 」


 ゆかり先輩はキョトンとしていたが、突然クスクスと笑い出してアップルティーを一口。


「私だって一生徒ですからいつでも気軽に話し掛けてくださって結構ですのに 」


 蘇我はクスクスと笑うゆかり先輩に見とれ、ゆかり先輩もどう切り出したらいいのか迷っている様子。 なんだか大企業の社長令嬢とのお見合いを見てるみたいだ。


「先輩…… お時間が…… 」


 それらしい言葉で急かしてみる。 苦笑いで返してきた彼女は、ひとつ咳払いをしてやっと本題に入った。


「蘇我君、私の勝手なお願いなんですが聞いていただけますか? 」


「了解しました! お任せください! 」


 蘇我はビシッと敬礼をして鼻息を荒くする。 こりゃダメだ…… 美紀もそう感じたらしく、俺達は揃って右手で顔を押さえてうつむいた。


「あの……  まだ何も言ってないのですけれど 」


「近江先輩のお願いとあらば絶対に断りません! 」


 蘇我は胸を張って言い切る。


「お前舞い上がりすぎだ。 死んでって言われたら死ぬのかよ? 」


「死ねる! ナメんな! 」


 ホントに人選を間違えた。 得意気に胸を張る蘇我に圧倒されて苦笑いするゆかり先輩に代わって、仕方なく俺が用件を伝えることにした。


「ゆかり先輩は最近ストーカーまがいの被害に遭ってて困ってるんだ。 お前にボディーガード的なことを頼みたいんだよ 」


「あぁ!?  どこのどいつだよ! 簀巻(すま)きにして神橋川に沈めてやんよ!  」


  強面の蘇我が怒ると結構な迫力だ。


「知っててもゆかり先輩は捕まえようとは思ってねぇよ。 出来るだけ周りを騒がせたくないっていう気持ちを察してくれ  」


 途端に蘇我は浮かない顔をする。 なんかマズい事言ったか……


「犯人捕まえりゃ怯えることもボディガードも必要ねぇだろ。 まさかお前、犯人を知ってるんじゃねぇよな? 」


 鋭っ! バカっぽい顔してるのに頭の回転は速いんだな。


「はい、知っています 」


 そう答えたのはゆかり先輩だった。 

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