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43話 後始末

 朝5時半に学校に到着した俺達は寝起きの用務員さんに早速怒られ、ゆかり先輩は外靴の代わりに履いていた上靴をスリッパに履き替えて生徒会室へと向かった。


「あ…… 」


 会長席の上には画面の割れたスマホが置かれ、電源が切れている状態だった。


「おそらく本條さんでしょうね 」


 壊れたスマホはゆかり先輩のもの。 落とした時に壊れたのか本條先輩に壊されたのかはわからないが、机の上に置いてあるということは本條先輩がスマホを見つけた証拠だ。


「とりあえず片づけましょうか 」


 散らばった書類を拾い、傾いたスチールラックを元に戻す。 窓際の白い壁には、くっきりとカッターナイフで削った跡が残っていた。


「マジかよ…… 」


 コンクリートの壁がえぐれるほどの威力。 躊躇なくカッターを振り下ろしたのだとわかる。


「我を忘れていたようですから。 他言無用ですよ、春翔君 」


 ゆかり先輩は修正液でその傷を埋めていく。 それでいいのか? それで本條先輩を許せるのか?


「お気持ちはわかります。 ですが憎しみを持って彼女に向き合えば、それこそ最悪の事態になると思うんです。 ですから春翔君…… 」


「わかってますよ 」


 壁の傷を見ていた俺の気持ちを読んだんだろう。 許す事は出来ないが…… 深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


「朝練の生徒達も登校してきたようですね 」


 開けた窓から運動系の部活の掛け声が聞こえてくる。 そうか、朝練より早く学校に来るためにあんなに朝早かったのか。 思わずあくびをすると、彼女にクスッと笑われた。


「まだ時間はありますから、少し横になってはどうですか? といってもまたソファなんですが 」


「ああ…… はい。 それじゃ 」


 お言葉に甘えてソファに座ろうとすると、彼女はそれよりも速くソファに腰を下ろす。 いや…… それじゃ横になれませんが。


「どうぞ! 」


 太ももをパンパン叩いて彼女は笑顔を向けてくる。 それはもしや膝枕というやつですか!?


「いやそれはちょっと…… 」


「…… お嫌でしたか? 」


「嫌だなんてとんでもない! ですが…… 」


「なら問題ありません。 ほら! 先輩命令です、生徒会長命令です。 いらして下さい! 」


 例の眼力に圧されてオドオドしながら膝を借りる。 あったけぇ! やわらけぇ! これは犯罪級だろ!


「寝心地はどうでしょう? 自信はありませんが 」


「最高っす! 昇天しちゃいそうです! 」


 フフッと笑った彼女は『よかった』と呟いて俺の頭を撫で始める。 ヤバイヤバイ! あ…… なんだか眠気が……


「…… 私、本條さんに憧れているんです 」


「えっ? 」


 ウトウトし始めた頃に、彼女はそんなことを口にした。


「格好いいんですよ、彼女。 知的でクールで、それでいて凛としていて…… 今の彼女からは想像出来ないかもしれませんが、何かの信念を持った目は本当に格好よかった 」


「眼力なら先輩だって凄いじゃないですか 」


「彼女を真似たに過ぎません。 生徒会長も本当は私などではなく、彼女が就任するべきだったと思っています 」


「いっ!? 本條恵がですか! 」


 『先輩、ですよ』と鼻の頭を軽く押される。


「昔の本條先輩を知りませんが、先輩がそこまで言うのなら凄い人…… なのかな 」


 『ええ』と微笑んで再び頭を撫でる。 気持ちいいぞ……


「彼女に憧れて、彼女に追いつきたくて。 あの薬を飲み始めた頃なのでしょう、突然変わってしまった彼女に愕然としました。 ならば今度は私が彼女を引っ張って行きたい…… そういう思いで、今の私がいるんです 」


 本條先輩がいなければ、このゆかり先輩もいなかったのか。 複雑……


「ごめんなさい、お休みになれませんね 」


 思い立ったように彼女は鼻歌を口ずさみ始めた。 子守唄のように静かに、優しく……


  んっ!?


 ゆかり先輩の弱点発見…… 彼女は音楽が苦手らしい。


「ん? どうしました? 」


 本人はその事には気付いていない様子。 『なんでもないですよ』と答えたのが間違いだったかも…… その後も子守唄は続き、太ももの気持ち良さとの狭間で俺は苦しむことになったのだった。

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