41話 スーパーマ…… ン?
沈みきった太陽が僅かに空をオレンジ色に染めている光景を、俺はゆかり先輩を隣にしばらく眺めていた。 本條恵が俺達を追って校舎内を探し回るかとも思ったが、用務員さんの巡回がある事と下手に動き回らない方がいいというゆかり先輩のアドバイスに従った。
「ありがとう、また助けられました 」
大泣きしてやっと落ち着いた彼女は、暗がりでもわかるくらい鼻の頭を真っ赤にしたまま微笑む。
「これっきりにして下さいよ? 生徒会室のカーテンが開いていたからよかったものの…… 」
「うん? どうしてです? 」
俺のテレポートは目視出来る場所にしか跳べない。 親父曰く『視野で捉えた大気と座標を交換する』らしく、見えない先はイメージが出来ても飛ぶことは出来ない。 自分と同じ体積を入れ替えるから障害物がある座標にも跳べず、大気中であっても雨の中も跳べない。 論理的には水の中なら跳べそうだが、試したことはない。
「眩暈は平気ですか? 」
彼女は『はい』と笑顔を見せたが、そんな筈はない。 『テレポート酔い』といういわゆる乗り物酔いで、三半規管が狂ってしまうせいだろうと親父は言っていた。 俺も美紀と訓練し始めた頃は酷かったものだ。
「万能そうに思えて、色々制約はあるんですね 」
「スーパーマンじゃないですよ? 」
もう冗談を言っても大丈夫なくらい落ち着いて、『私のスーパーマンです!』とにこやかに返されてしまった。
「そろそろ大丈夫でしょうか…… ずっとここにいる訳にもいきません 」
すっかり陽も落ちて少し肌寒くなってきた。 初夏とはいえ夜はまだ寒く、ゆかり先輩も俺に身を寄せていた。
「そうですね…… あ…… 」
俺の部屋から直で跳んできたから、当然のごとく靴を履いていない。
「それじゃ行きますか! 先輩、捕まって下さい 」
「まさかまた跳ぶんですか!? ダメですよ! 万が一見られでもしたら…… 」
「闇夜のカラスです。 新月ですし、誰も空なんて見ませんって! 」
「…… はい! 」
開き直ったのか、彼女は笑顔になって俺の腕に手を回してくる。 手をつなげば大丈夫なんだが…… 俺は彼女の腰に腕を回し、落とさないようしっかり抱き抱えて、真っ暗闇の空へと跳んだのだった。
「親父、すまん 」
自宅に戻った時には親父も帰ってきていて、先ほどあった本條恵の一件を話した。
「お前もやっぱり男だな。 うんうん、わかるぞ! 」
「何がわかるんだよ! 」
そんな冗談を言ってる場合じゃないだろうに。
「まあバレたものは仕方がない。 後はなるようにしかならんよ 」
「ごめんなさい。 私の勝手な行動で取り返しの付かない…… 」
頭を深く下げて謝る彼女を親父はパンと手を打って制止する。
「大丈夫。 噂話になれば怖い部分もあるが、二階堂君の娘だろう? 信憑性を疑われて自滅するだろう 」
意味が分からない。 ゆかり先輩は頷いていたので助けを求めてみる。
「本條さんは、多能性幹細胞について他の研究機関や関係しそうな所に探りを入れていたようなんです。 でもどこにも相手にされず、賄賂を渡してまで得た情報が『服用』という手段だった。 つまり研究機関でも『徳間の研究』は禁句なのでしょう 」
「ご名答。 ゆかり君には新作の苺ジャムをプレゼントしよう 」
「嬉しい! ありがとうございます! 」
なにやら二人で盛り上がっているようだが。 そんな悠長な事でいいのか?
「多分、服用を進めた研究者は本人に証拠隠滅させようとしたんだろう。 あわよくばそれで痛い目を見れば、もう関与することもないとも考えたのかもしれん 」
「無責任だな。 ちゃんと教えてやればこんなことにはならなかったのに 」
「それは難しかったのかもしれません。 亡くなった父親の復讐が彼女の目的ですから、その研究者さんも困り果てた挙げ句…… と思います 」
「それだけ徳間の研究は衝撃的だったんだよ 」
俺は手を開いて自分の手を見る。 このチカラ…… やはり誕生させてはならないものだったんじゃないのか? だとしたら俺の存在そのものも……
「そうじゃありません、春翔君! 」
「えっ? 」
「チカラがいけないのではなく、チカラを使う人側の問題なんです 」
相変わらずのテレパス! この人にはホント敵わない。
「大きな力は時として不幸を招きます。 ほら、火薬だってそうでしょう? 正しく使えば夜空を彩る花火になりますが、使い方を誤れば暴発して大惨事です。 戦争の兵器にもなってしまう 」
「そういう事だ。 そうだな…… 少し二階堂君について話しておこうか 」
親父は空になったコーヒーカップを無言で俺に突き付け、『おかわり』を要求してきた。 仕方ない…… テレポートの連発でヘトヘトだったが、聞いておかなければならない長くなりそうな話に覚悟を決めるのだった。




