3話 真実
山梨県、富士の樹海に隣接するように『徳間研究所』はあった。 徳間研究所は細菌研究の表面を持つ裏で、特殊能力の開発をしていた。
政界の一部の人間と繋がりを持つ研究所所長徳間 昭三は、国家予算を武器に空間転移能力を秘めた多能性幹細胞の生成に成功する。 だがそれだけでは終わる筈もなく、その細胞を培養して人型のクローンを創りあげたのだった。
人型のクローンが許される筈もなかったが、政府は極秘でその研究を支持した。 クローン達は日々の測定や実験等を積み重ね、人間と変わりなく生活できると証明される。 やがて春翔より先に培養された4体のクローンのうちの2体が、研究所を閉鎖に追い込んでいくことになる。
2年が経ち、5体目となる春翔が培養カプセルに入った頃、ある事件が起きた。 外国人を含む政府関係者3人と身元不明の男性の転落死亡事故というものだ。 東京都内の高層ビルから転落したとされ、マスコミ等は屋上からの4人の揉み合いによる事故と報道していたが、不可解な点がいくつもある事故だった。
真相は徳馬研究所から連れ出されたクローンが、テレポート能力を使って40階の部屋から3人を巻き込んで屋外へ跳んだ飛び降り自殺。
この事故以前にも何件かの同様の転落事故が相次いで起こっていて、その全てが自殺したクローンのチカラを利用されたものだったのだ。
一連の事故が自分の開発したテレポート能力が起因だと知った徳間昭三は、生涯をかけて開発した能力が悪用されたことに絶望し、全ての研究データを削除して残る3人のクローン達と共に消息を絶つ。
責任者を失い、テレポート能力が危険であると判断した政府は研究そのものを凍結し、徳馬研究所は閉鎖となったのである。
まだ培養カプセル内に残されていた春翔は廃棄処分ということだったが、研究員だった飛島 純一によって、処分したと見せかけてカプセルから取り出されたのだった。
政府はテレポート保持者が現存することを知らない。 依然、徳間昭三は行方不明で、春翔の父親役である飛島純一は関係者から隠れ住むように神橋市で春翔と暮らしている。
春翔が今まで外でテレポートを使ったのは2回。 一つは線路に落ちた子供を助けた時と、小学生の時に美紀を助ける為だった。