33話 お迎え
メールを受け取った俺は、すぐに親父に本條恵の事を聞いてみた。 親父はその名前は聞き覚えがないらしいが、『空間転移』という言葉には目を細めていた。 錠剤の分析準備をしておくと地下室に降りていく真剣な顔は、久々に見たかもしれない。
バス停までゆかり先輩を迎えに行き、家に戻る間で錠剤を手に入れた経緯を聞く。 街灯も少なく、すれ違う人がいない街外れの田舎道は好都合だった。
「そうですか…… お父様がご存知ないとなると、急いで来て良かったです 」
「えっ? 」
「本條の姓の人物が徳間研究所の関係者である線が消えたんです。 その他にチカラを知っているとなると、関わった政府関係者か全く予測出来ない人物か、です 」
おおすげぇ! 頭の回転が速いとはこういうことなのか!
「とにかく、この薬の分析結果次第で今後が変わります。 急ぎましょう! 」
彼女の真剣な表情に俺も気持ちが引き締まる。 走れば後10分くらいで家に着ける…… 彼女の重そうな鞄を預り、俺達は夜道を走ったのだった。
戻った俺達を玄関前で出迎えた親父は、ゆかり先輩と挨拶もそこそこに錠剤を受け取って地下室へと降りていった。 分析が終わるまでこのまま待つと言う彼女を、リビングに招いて麦茶とタオルを手渡す。
「ありがとうございます。 鞄を持って貰ったので私は平気ですよ 」
彼女の肩下げの鞄は本当に重かった。 これを毎日持って歩くのはツラいだろう。
「何が入ってるんです? 」
「女の子の秘密です 」
微笑んでそう言われると何も聞けない。 化粧品? いや、彼女はメイクしてないし……
「嘘です。 ノートパソコンと勉強道具一式ですよ。 学校帰りに図書館やカフェで勉強や生徒会の事務作業をすることもありますので 」
ああ、それでか…… あまり生活感のない彼女の家を思い出す。 出張が多いと言っていたお父さんとはあまり……
「あっ、心配しないで下さいね。 私の場合、少し人の気配がある方が勉強しやすいというだけですから! 」
苦笑いするあたり、俺の考えを読んだらしい。 この人やっぱりテレパス持ちなんじゃね?
「あたたかいお家ですね 」
「暑かったですか!? 今エアコン…… 」
「違いますよ! そうじゃなくて、包み込んでくれるような雰囲気のお家だなと 」
彼女はぐるっと部屋を見渡して笑顔を見せる。 そうなのか? 掃除もろくにしてないし、物は散らかってるし。 親父の趣味の植物はあちこちにあって緑が多いくらいだが。
「これ! 苺ですか? 」
縁側にこれでもかと並べたプランターに芽が出た苺を見つけて、彼女は目を輝かせていた。
「親父の趣味なんですよ。 裏庭にも大量に植えてるし、地下室にも足の踏み場がないくらい 」
「地下室があるんですか!? 古民家風と思っていましたが、流石研究者ですね。 秘密基地みたい 」
「地下では俺のようなクローンが作られていて、実は世を脅かす秘密結社かも…… 」
「素敵ですね! 世のため人のためにチカラを日々研究してらっしゃるのですね! 」
ダークな冗談を素で返してくるので苦笑いで返すしかない。 でもチカラを打ち明けたあの日の、超能力に憧れていたという話が嘘じゃないと伝わってくる。
「単なる苺オタクの髭オヤジですよ 」
「おいおい、それはないんじゃないかハル 」
地下室から戻ってきた親父は、書類を片手にリビングの入り口に腕をついて苦笑いしていた。




