31話 生徒会役員(ゆかりSIDE)
生徒会室に響くパソコンのキーボードを叩く複数の音を聞きながら、皆の作業状況を確認する。 プリンターが動作を始め、ホッチキスの金属音を聞いて私は皆に声を掛けた。
「一息つきましょうか 」
「「あふぅ…… 」」
ユリエさんと芹香ちゃんは既に満身創痍で、椅子の背もたれに体を預けて天井を見上げている。 勉強に疲れている放課後だけど、二人は文句一つ言わず生徒会の仕事をしてくれる頼もしい親友だ。
「あっ! 会長は座っててください! 私お茶持ってきます! 」
お茶の準備をしようと腰を上げると、もう1人の副会長である小柳 圭子ちゃんが、私の肩を押さえて給湯室に消えていった。
小柄で前髪をヘアピンで分けたショートカットが似合う活発な二年生で、周囲によく気配りができる性格だ。
「亮太君も一息つきませんか? 」
「お先にどうぞ 」
まだキーボードを叩いている新橋 亮太君にも声をかける。
下がってきた細身の眼鏡をクイっと直すインテリ系の彼は、もう1人の頼れる書記さんだ。 切れ長の目や高い鼻、身長も高くイケメン要素を満足しているけど、かなりの運動音痴と無愛想な面で損をしている同級生だ。
私を含めたこの5人が現陵州高校生徒会メンバーで、仕事仲間と同時に心を許せる友達である。
「今日はレモングラスにしてみましたぁ! 」
給湯室から戻ってきた桂子ちゃんが、5人分のティーセットを持ってきてくれる。
「そう言えば会長、聞きましたよ。 お付き合いされてる方がいるとかいないとか 」
桂子がティーカップに注ぎながらそんな事を聞いてきた。 春翔君の事だろうか。
「えっ? 仲良くはさせてもらってますけどお付き合いはしてませんよ? 」
「そうなんですか? まぁ、相手が飛島じゃあねぇって思いますけど 」
あら…… 春翔君だと知ってて聞いてきたんですね。
「どうして? 」
私の問いに、ユリエさんと芹香ちゃんも興味津々な様子。
「去年同じクラスでしたけど、パッとしないんですよねぇ。 何て言うか…… 並です。 並の下。 会長とは釣り合いません! 」
酷い言われようですよ春翔君……
「ミキちゃんにもどうしてなつかれてるのか私には不思議です 」
「ウチも圭と同じかなぁ。 ちょっとヌボーってしてるし 」
と芹香ちゃん。
「でも素早い一面もあったよね? 」
はい! 彼の個性とも言えるテレポートですよ! とは言えず。 春翔君の悩みが少し理解出来ました……
「とてもいい方ですよ? 他人を思いやる気持ちや、優しい…… 」
コンコン
弁解している途中で来客があった。 圭子ちゃんは『はーい!』とドアに走り、二人はそれからミキちゃんの話題に移っている。
「見た目だけで判断してはダメですのに…… 」
春翔君の話題に深く追及されても困るけど、彼が誤解されているのが釈然としなくてつい口に出してしまった。 誰も聞いてないのでいいんですけど。
「君が個人を擁護するのは珍しいな 」
少し冷めた紅茶を取りに来た亮太君に聞かれていました。
「亮太君はどう思います? 」
「興味ないね。 でも君が興味を持つ男なら、爪を隠した鷹なのかな? 」
その通り! とは言えないツラさ、ミキちゃんわかります!
「会長! 図書委員長の佐藤さんです 」
佐藤さんは先日寄付された本のお礼を伝えに来てくれたらしい。 『お茶でもどうですか?』と誘ってみたけど、『仕事が……』と少し挙動不審気味に入り口で頭を下げて帰ってしまった。
「私、何かしたのかしら…… 」
「会長のオーラはハンパないですからね、佐藤さんの顔見ました? 真っ赤だったじゃないですか! 」
もう…… 図書についてお話したかったこともあったのに。 春翔君が親しみ易いと思うのも、気兼ねなく私と話してくれるからでもある。
「圭ちゃん、ちょっと席を外しますね 」
立ち話なら大丈夫だろうと判断して、私は生徒会室を飛び出したのだった。