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22話 棚沢シーワールド


 美紀の水族館デートは今週末に決まり、天気も気持ちのいい快晴。 俺は美紀と高坂と一緒に、水族館行きの路線バスで現地に向かっている。


「アシカ! イルカ! アッザラシペンギン! クッジラにシャチに…… 」


 美紀はすっかり遠足気分で、鼻歌まじりにお菓子をつまんでいる。


「さすがにクジラはいないわよ 」


 前の座席からすかさず突っ込みを入れる高坂にもめげず、美紀はノリノリだ。


「絵里ちゃんと出掛けるの久しぶりだね! 」


「そうね。 去年の中学卒業旅行以来かなぁ 」


 俺達は中学校の同級生であり、自宅もそれなりに近い。 中学時代はよくつるんで遊んでいたが、高校に入ってからは高坂にも友達が沢山出来て少し疎遠になっていた。


「どうしたの? 心配になっちゃった? 」


「心配? 冗談! 誰かさんが寂しくて死んでしまうからついてきてくれって泣くからよ 」


「俺は青いウサギかよ 」


「古っ! あんたサバよんでるんじゃないの? 」


 車内に二人の笑い声が響き、運転手さんに『お静かに』と怒られてしまった。


「あっ! 見えてきたよ! 」


 左右にカーブする海岸線の先に、海に張り出して作られた『棚沢シーワールド』だ。 どこかの水族館をもじったようなネーミングだが、隣町の棚沢市が誇る海獣をメインにした大きな水族館だ。


「ミキ、心配ってなによ? 」


 外の風景を見てしばらくの沈黙を高坂が破る。


「うん? 春君がドタキャンするかも…… とか? 」


 『そっちか』と彼女は呆れ顔。 サクサクとチョコスティックを頬張るみきにため息をつくと、箱から一本抜き取って口に運ぶ。


「そんな心配してないわよ。 こいつってちゃんと相手のこと考えてるし、いい加減なことってしないじゃない。 約束だって破ったことないでしょ 」


「じゃあ『そっち』ってどっち? 」


 逆に質問されて高坂は固まる。 そしてなぜ俺を睨むのだ?


「あたしより生徒会長の方が良かったんじゃないの? 」


「ゆかり先輩? 何でだよ? 」


 高坂は後ろ向きに座り、座席を抱き抱えるような格好で俺に冷ややかな目線を向けてきた。


「付き合ってるんじゃないの? あんた達 」


「は? 」


「だって噂になってるよ? 玄関前で公開告白したとか、わざわざ待ち合わせて一緒に登校してるとか、生徒会室でイチャイチャしてるとか 」


 ズルっと音が聞こえてきそうなくらい座席から滑り落ちてしまった。


「付き合ってないから。 なんだよその噂 」


 細めて怪しむ目を向けられたが、『そうなんだ』と呟いてプイと前を向く。


「…… ふーん、なるほど…… 」


「ん? なんか言ったか? 」


「別になにも! 」


 モグモグとチョコスティックを頬張る美紀が何か納得していたようだが、残りのチョコスティックをまとめて口に突っ込まれて誤魔化されてしまうのだった。





 バスは定刻に棚沢シーワールドに到着し、水族館入口に着いた時には既に三人組の姿があった。 美紀の姿を確認すると大きく手を振ってアピールする。


 美紀と高坂は駆け足で三人組の所へ行くが、俺には先にやることがある。 高坂の分の入場券を買いに真っ直ぐ券売所へ行き、集まったみんなが挨拶を交わす様子を遠くから眺める。 そんな俺にいち早く気付いたのは高坂だった。


「何やってるのよ、あの子達に挨拶もしないで 」


 駆け寄ってきて『やれやれ』と苦笑いの高坂。 


「俺はエビでいいんだよ。 彼女らが気にせずに楽しめれば一番だろ? 」


 買った入場券を高坂に渡すと、その入場券でおでこを叩かれた。


「なに子供の成長を遠くから見守る父親みたいな顔してるのよ。 そういうの嫌いじゃないけど、あんたも参加者なんだから楽しめばいいじゃん 」


 そう言って俺の手を引いて、皆の所へと引っ張っていく。


「ホントあんたはそういう所ヘタクソだよね。 皆への気遣いは上手いのに、自分は蚊帳の外みたいな! 全然変わらない 」


 怒られているのだが、こいつにしては口調は柔らかい。 そういえば前にもこんなことがあったっけ…… 無理矢理手を引いてクラスの輪の中に連れて行ってもらったおかげで、俺は孤立しないで済んだのだ。


「じゃあさ、あんたがあたしを楽しませてよ。 相手して欲しくてあたしを誘ったんでしょ? 責任取ってよね 」


 誘った意味合いは違うが、まあ似たようなものか。


「でも俺、デート経験なんてないぞ? エスコートなんてしたことないし 」


「別にデートだと思わなくていいでしょ。 期待もしてないから普段のあんたでいいのよ……  あ、ミキ呼んでるよ 」


 大きく手を振って手招きする美紀に、俺と高坂も手を振って応える。


「イベントまで時間ないってー! 早く来ないと置いてっちゃうよー! 」


 美紀は三人組と先に入口へ向かい水族館の中に消えていく。


「ありゃもう小学生だな 」


「ホントだね 」

 

 奴らはもう勝手に進ませておいて、俺達は美紀一行と少し距離を取るようにゆっくりその後に続くことにした。

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