17話 書庫内で
受付カウンターを素通りし、閲覧ホールを抜けた通路の脇にある一室に案内された。 中に入ると、壁に所狭しと組まれた金属製の棚にびっしりと本が積まれている。 部屋の中央にも山積みになった本があり、それが今回の廃棄対象だと説明を受けた。
「他は触らないでね。 わからなくなっちゃうから 」
乱雑に積まれているように見えるが、三浦さんはこれで全て整頓してあると言う。
「片付けが苦手…… なのかな? 」
ゆかり先輩に耳打ちすると、クスッと笑って肯定していた。 ムッとする三浦さんに怒られる前に、早速俺達は本の選定に入る。
「終わったら声を掛けてね。 ごゆっくりー 」
と、三浦さんは微妙な雰囲気の俺達を残して書庫を出ていってしまった。 首に掛けていた携帯電話の呼び出し音がひっきりなしになっていたところを見ると、司書の仕事はとても忙しいらしい。
「司書さんと聞いたのでおば…… 年配の方かなと思ってたんですけど、若い人だったんですね 」
「ええ。 綺麗な人でしょう? あまり見惚れちゃダメですよ? 」
書庫にゆかり先輩と二人きりの状況。 さっきの顔はやはりヤキモチだったらしく、彼女は『ゴメンナサイ』と苦笑いして自己完結していた。
「司書さんって聞いただけでそんなイメージありますよね。 几帳面で本に詳しくないと出来ませんけど、智美さん努力家ですから。 年配の司書さんに負けていませんよ 」
「なんというか、頼りがいがありそうな人ですね 」
『はい、とっても』と、彼女は自分の事のように喜ぶ。
「 智美さんとのお付き合いは、私が小学生の頃からなんです。 とても面倒見のいい方で、父が出張で家に一人ぼっちの時は、よく近所に住む彼女に泣きついていました 」
三浦さんの話に花が咲く。 彼女は手を動かしながらニコニコと話すが、俺にそんな器用な事ができる筈もなく手が止まってしまう。
「あっ…… ごめんなさい! 本を選べませんね 」
苦笑いを向けた彼女は、それでも三浦さんの話が止まらない。
「ただお酒をよく飲むんですけど、お酒グセがちょっと悪くてよく絡まれます。 先日もだいぶ飲んだみたいで…… あなたのことを散々問い詰められました 」
問い詰められたと聞いて少し肩に力が入る。 まさか……
「あ…… チカラのことは一切触れてませんよ? 智美さん、少し口が軽いところありますから 」
「勘弁してください 」
これ以上チカラを知る人が増えるのは困る。 昨日生徒会室でバレそうになった時、冷静な彼女が三人に説教して有耶無耶にしてしまったのも、そう思っているからだと思う。 今二人きりの状況は好都合だ。
「先輩、昨日はありがとうございました 」
最初はキョトンとしていた彼女だが、何の事かと気付くと『いいえ』と柔らかく微笑む。
「春翔君が跳んでくれたおかげで、あの二人は大火傷をせずに済んだんです。 本当は本人達がお礼を言うべきなのでしょうが、チカラの事を話す訳にもいかず勘ぐられても困りますので 」
さすがと言うべきだ。 俺達だけだったらきっと逃げられなかった。
「先輩、聞いてもいいですか? 」
この際、俺は思い切って彼女の素性を聞いてみることにした。 実は意志伝達を持つクローンなんじゃないのか。 徳間研究所と関係があるんじゃないのか。 自分となんとなく似ている家庭環境かもと言うと、彼女は手を止めて俺に向き直った。
「そうだったらいいのに、とは軽々しく言ってはいけませんね。 残念ながら私は両親がいて、徳間研究所とは繋がりもありません 」
そうだよな。 もしゆかり先輩がクローンであるならば、一回目に生徒会室に呼ばれた時点で告白してくれているだろう。
「母は私が生まれてすぐに他界しましたが、代わりに父が男手ひとつで私を育ててくれました 」
「すみません…… 立ち入った事を聞いてしまって 」
『いいえ』と彼女は柔らかい笑顔をくれる。
「春翔君のご兄弟、見つかるといいですね。 私もお会いしてみたい 」
「探してもいないですけどね。 俺自身あった事もないし、このチカラは悪いものだと思ってましたから 」
「違います、それは間違っています! 」
あ…… 地雷踏んだかも……
「チカラそのものが悪いのではなくて、悪用しようとする人達が悪いんですよ? 私はその人達を許しません! 」
それからゆかり先輩の『チカラとはなんたるか』の講義が始まった。 想いを熱く語る彼女の手は止まり、選別作業は一向に進まない。
「なーに? ゆかり、ここは講堂じゃないわよ? 」
「「はい!? 」」
突然の三浦さんの声に俺と先輩は飛び跳ねて驚く。 いつからそこにいたんだ?
「もう少し静かにね。 ここは部外者立ち入り禁止なんだから 」
少しニヤけた表情で三浦さんはドアを閉める。
「ごめんなさい…… 私ったら…… 」
「はは…… 作業終わらせましょうか 」
それからは俺もゆかり先輩も黙々と選別作業を進めて、気が付けば12時を回っていたのだった。




