12話 美紀VS生徒会長
「だから発言には気を付けてって言ったじゃん! 」
生徒会室から解放されて教室に戻ってきた俺は、待っていた美紀に手を引かれて再び生徒会室へと向かっていた。
実質白状してしまった事を話すと、『口止めは?』と聞かれた。 してない。 いや、近江先輩が口外するとは思えなかった。 別れ際の彼女の『大丈夫です』という一言の影響が大きい。
「あてになんかならないよ! 女の子はおしゃべりなんだからね! 」
美紀はその小さな体に見合わない力で俺を引っ張り、引きずられるように生徒会室の前に連れて来られた。
「失礼します! 」
言うや否やドアを勢い良く開け、ズンズンと中に入っていく。
「会長! お話があります! 」
「ミキちゃん! ようこそ生徒会室へ 」
机に山積みの書類の中から顔を出した彼女は、一瞬はビックリしていたがすぐに笑顔で応対する。 いきなりあだ名を呼ばれて面食らっていたのは美紀の方だった。
「…… 僕を知っているとは流石ですね 」
「もちろんですよ。 あなたはこの凌州高校のアイドルですから 」
アイドルと言われて照れるかと思ったが、 美紀は『フン!』と鼻を鳴らして腰に手を当てる。
「僕の事はどうでもいいです! 単刀直にゅ…… 」
「お茶でもいかがですか? 今用意しますね 」
ニコっと微笑んで席を立つ彼女に、『イヤイヤ』と彼は噛みつく。 だがその瞬間、ビクッと体を震わせて一歩後ずさった。
「落ち着いて話をしましょうと言っているのです。 とても大事なお話なのでしょう? 」
笑みの中に彼を見据える鋭い視線。 近江先輩は少し怒っているように見える。
「…… 只者じゃないね。 踏み込めなかったよ…… 」
彼は給湯室に消えていった彼女を目で追い、冷や汗を浮かべてボソッと呟いた。
「踏み込むって、お前まさか力ずくで口止めするつもりじゃないよな? 」
「威圧して畳み掛けようと思ったけど、先制出来なかったな…… 」
美紀は端からやる気だ。 場合によっては強硬手段を取りそうな彼を止めなければならないだろう。
「またカモミールなんですけど、春翔君飽きてないかしら? 」
「いえ、すごく美味しかったんでまた飲みたいです! 」
ヒョコっと給湯室から顔を出した彼女に慌てて答えると、脇腹に肘を入れられてしまった。
「なんだよ!? 」
「もう名前で呼ばれてるんだね! 状況わかってる!? 」
これがヤキモチなら可愛いが、美紀は俺の正体がバレる瀬戸際と考えてるらしい。 その雰囲気に俺もまた気が引き締まった。
「蒸らしが終わるまで少し待ってくださいね 」
ティーセットを手に戻ってきた彼女は、手際よく茶葉をポッドに入れてお湯を注ぎ蓋をする。 さっきはこんな準備をしなかったから、あらかじめ用意していたんだと気付いた。 美紀が目論んだ再訪問の不意打ちは見事に失敗したのだ。
「会長は春君をどう思っているんですか? 」
ガラスポッドの茶葉が開いていくのを見ながら、美紀が先制攻撃を仕掛ける。 チカラがバレてる以上、どの程度を考えているのか曖昧な質問で探りを入れるつもりなのだ。
「好きですよ 」
蒸らしの終わったカモミールティーをカップに注ぎながら彼女はサラッとそう言った。
「…… え? 」
「ですから、好きですよ。 お慕いしていると言った方がいいですか? 」
ボンと音が出そうな程俺の顔は瞬時に熱くなり、頭のてっぺんや耳からは大量の湯気が出ているに違いない。 頭の中は彼女の言葉が反芻して、もう何も考えられなかった。
「いや、そうじゃなくて! チカラの事を聞いたんですよね? 変だとか特殊だとか思わないんですか? 」
「春翔君にもお話しましたが…… 」
彼女の目つきが変わった。 凛として美紀を見つめる目は真っ直ぐで、反論など許さないといった力強さだ。
「私は春翔君のチカラを知って、そのチカラに命を救われたことに感動しました。 素晴らしい能力だとも思っています。 それをなぜ気味悪がらねばならないのです? 」
「それは…… 」
「もっと誇っていいと思っています。 ですが彼はそれを誇示しようとしない…… 出来ない理由があるからです。 先ほどその理由を聞いて、私はもっと彼を好きになりました。 その彼を追い詰めるようなことを私がすると思いますか? 」
美紀が何かを言おうとする度に、彼女は言葉を続けて押し黙らせる。 先を読んで言葉を連ねる説得に美紀は何も喋れないでいた。
「超能力は文字通り、人智を超えた能力です。 科学的に証明できない事を否定する人達など放っておけばいい。 私は彼が望まない限り、彼の能力を露呈するようなことは絶対しません。 むしろ守って差し上げたい 」
「仮に俺が人間じゃなくてもですか? 」
彼女を信じて…… 無意識に出た言葉だった。
「春君!? 」
さすがに美紀もビックリしたようで、俺をまん丸な目で凝視する。
「変わりません。 あなたが人間でないと言うのならそうでしょうが、私を救ってくれた飛島春翔はあなたなのですから 」
スッと心の枷が外れたような気がした。 気が付けば俺は、彼女を見つめたまま涙を流していたのだった。




