Again that Sights
人の感覚とは曖昧なもので、気持ちや状態によって大きく変化する。いつだって同じように進んでいるはずの時間を早く感じたり、遅く感じたりする。今日の僕は完全に前者だった。50分あるはずの授業が10分ほどに感じた。それほどに僕の感覚を狂わせるなにかが、彼女にあったのだろう。そのことに驚いた。もともと僕は他人に興味を持つタイプではなかったのに、今日は彼女の反応が気になって仕方が無かった。次はどんな反応をしているのだろう。それを考えていると、授業はあっという間だった。
「ねえ、授業分かった?」彼女は感情が顔に出やすいので、不安なのがすぐに分かった。
「まあまあかな、一回目だからまだなんとも言えないけど」
「そっかー。まあ、一回目だからまだこれからだよね!」自分を励ましているようにしか聞こえない。フォローしておくべきか迷ったが、僕は間逆の選択をした。
「今日の授業ほとんど全部固まってたよ?大丈夫?」甘やかしてはダメだ、厳しくしようなどと保護者のような気持ちだった。
「え!?まさか見てたの!?やめてよ!!恥ずかしいじゃん!」大声で騒いでいる今の状況のほうが、よっぽど恥ずかしい。そもそも僕に見られたのも彼女が固まっているのが悪い。普通に授業を受けていたら、僕も見なかったのに。
「だって反応がおもしろかったから、つい、、、」僕は悪くないという思いを込めたつもりだったが、届かなかったみたいだ。
「ついじゃないよ!!ひどい!声かけてくれればよかったのに!」なぜか僕が悪いみたいになってしまった。
「まあまあ、落ち着こうよ美空ちゃん」こういう時に話に入ってきてくれる、さすが朝倉さんだ。
「聞いてよ、紗月ちゃん!この人ひどいんだよ」マジか。朝倉さんが来ても彼女は止まらなかった。
「言わなくていいよー 全部聞こえてるから」この一言で僕たちは初めて気づいた。教室で話していたのは僕たち二人だけだった。他の生徒たちは顔を見合わせてクスクス笑っている。さすがに恥ずかしかったのだろう、彼女は急に大人しくなった。
昨日と同じメンバーで一緒に帰ることになったわけだが、彼女の僕を見る目が少し冷たい。
「黙ってずっと見ててごめん!」みんなと別れて二人になったタイミングで謝罪した。
「いや、大丈夫。私の方こそごめんね。いろいろと恥ずかしくて」いつもの彼女だった。これで一安心だ。
「じゃあ、私こっちだから。また明日ね」
「あ、うん。また明日」そう答えたあとで気づいた。彼女は笑っていたのだ。あの時と同じどこか切ない表情で――――。