Let's First Lesson
なぜかいつもより早く目が覚めた僕は15分くらい早く登校していた。15分早いからか、同じ方向へ歩く顔ぶれがいつもと違う。(いつもと言っても、ほんの数日のことだが)僕と同じ赤い制服が列をなして、ゆっくりと同じようなスピードで歩いている。その中に一つだけ明らかに速い赤があった。朝倉さんだ。理由は分からないが、全速力で走っている。その後ろをやや速いぐらいのスピードで、大野が追いかけている。少し気にはなったが、二人を追いかける気にはならなかった。
「おはよう。早いな。」朝だからだろう、昨日よりもさらに声が低く小さい。
「あ、須藤くん。おはよう。さっき朝倉さんと大野くんが走ってたけど、あの二人何か会ったの?」
「ああ、またやってたのか。」呆れるように答える。何度もやっているのだろうか。
「あれ何のつもりなの?」
「ただの競争だよ。大野の家から出発して、学校まで走ってきてる。大野は嫌がってるが、紗月が止めさせてくれないらしい。朝から走るなんて考えられないな。」僕も同意見だ。学校まで競争なんて小学校で卒業してしまった。
「朝倉さん元気だね。」
「それだけが取り柄みたいなやつだからな。まあ、その元気がすごいんだけど。」褒めているのか、いないのか。それすら分からなかった。
そんな話をしているともう教室の前だった。中にはすでに三分の二ぐらいの生徒が来ていた。それでも、走ってきたのはあの二人だけだろう。バテている大野くんはスルーして自分の席へ向かった。
「おはよ!」隣の彼女はもう来ていた。
「おなよう。早いね。普段からこの時間?」
「今日は早く来てみたんだよ。朝永くんは?」
「僕も一緒かな。」とりあえず隣の彼女と仲良くなれた気がして、心の中で小さくガッツポーズをした。
「おはよう、君たち同じ中学?」前の席の男子だが、これが彼とのはじめての会話だった。それなのに、この言葉が出てくるということは、なかなか良いメンタルを持っているみたいだ。
「ううん、違うけど、どうかした?」彼女の頭の上に、疑問符が浮かんでいるのが見えそうなほど不思議そうな表情をしていた。
「そうなんだ。仲良さそうだから、中学から一緒だったのかなぁと思って」仲が良さそうだと思ってくれるのは全く構わないが、直接言われるのは少し恥ずかしい。こんなことをはじめての会話に選ぶとは、よほど気になったのだろう。僕は彼の名前を知らないので、ひとまず彼の名前は<チャラ眼鏡くん>にしておこう。即興で作った仮の名前にしては、特徴をしっかりととらえていて、上出来だろう。そんなことを考えて一人で笑いそうになっているとチャイムが鳴った。
先生の入室とほぼ同時に教室が静かになる。この静かになる瞬間が僕は少し好きだ。なんとなく一体感を感じるからだが、今までの人生で共感を得たことは無い。いくつかの連絡事項を伝えた後、15分の休憩があって、その後初めての授業を受けた。1時間目は数学だった。得意でも不得意でもない僕にとっては、感想というものを持ちづらかった。なので他の人の反応を見ようと、横に視線を向けた。彼女は数学が苦手なのだろう。まだ黒板に残っている文字を眺めて固まっている。
4時間目まで終わったが、彼女の得意教科は見つからなかった。最後まで彼女は黒板をまっすぐに見つめていた。