Having a Good Times
桜はどうしてこんなにも美しいのか。そんな疑問を抱いてしまうほど、今僕の目に見ている桜は美しい。初めて会ったクラスメイトと話しているからか、見慣れた街が異国のように見える。こんな些細なことに気をとられていると、目的地はあっという間に着いた。
「ここだよ。雰囲気いいでしょ?」自分の店でもないのに自慢げに話す大野くんを無視して、僕は須藤くんに話しかけた。
「こんなところに喫茶店あったの知ってた?」
「いや、いま初めて知って驚いてる。」驚いているようには見えなかったが、本人が言うならそうなんだろう。表情に出さないタイプなのか、と勝手に納得しているうちにも須藤くんは店の様子を観察している。
「あれ?みんな俺のこと無視してない?」大野くんが分かったようだ。いまさらか。遅すぎる。
「やっと分かったか。いくら大野でも遅すぎるぞ。」僕の思いは須藤くんによって届けられた。彼とは気が合いそうだ。
「大野はほっといて早くお店入るよー」朝倉さんに少し急かされつつ、店に入った。
店内はいたるところに木を使っていて、落ち着いた雰囲気で居心地が良かった。
店員の案内で席に着き、小さめのメニューを見ていた時、僕はあることを思い出した。彼女の名前を聞いていなかった。
「そういえば、名前まだ聞いてなかったよね?」思ったときにはもう口に出していた。あ、という表情の彼女にみんなの視線が集まる。
「如月美空です。よろしくね」にこやかな笑顔を浮かべている。遊びに行こうと誘ったときとは違い、照れと嬉しさがはっきりと見て取れた。あの時の表情がさらに不思議に思えてくる。
「きれいな名前ね。良く似合っていると思う」宮内さんからの予想外な台詞に彼女の顔がさらに赤みを増す。
「雪乃がそんなこと言うなんて珍しい!私にも言ってくれてもいいのにー」
「言ってあげたいけど、紗月じゃ無理」
少しからかうような朝倉さんの言い方が気に障ったのか、冷たく返事をした。
「じゃあ、将也でいいよ。言ってごらん?」
「バカにしてるのか?バカのくせに」須藤くんも同じく冷たい返事をした。
「みんな冷たいなぁ。空くんなら言ってくれるよね?」期待に満ち溢れた目がこっちを向いている。かなりきつい。
「うーん・・・ごめん」考えてはみたが、上手い言葉が見つからない。朝倉さんの褒めるところはいっぱいあると思うが、言葉にできるものは一つも無かった。大野が僕の隣で初めからずっと言いたそうにしている。どうして聞かないのだろうか。早く聞いてやってくれ。それに気がついた須藤くんと宮内さんが、にやにやし始める。
「秀貴で我慢するか。言っていいよ?」朝倉さんも大野くんに関しては適当だ。
「元気で、めっちゃかわいいところが名前とぴったりだね!」満足気な顔をしている。全員のため息が聞こえそうだ。朝倉さんがなかなか聞こうとしなかった理由が分かった。
「うわーーー、秀貴に言われても全然嬉しくないし、むしろきもいわ」すがすがしいほどの豪速球だ。一気に空気が明るくなる。
「美空ちゃんならどう?」マジか。ここで振るのか。僕なら止めてくれよと言いたくなる場面だ。
「そうだなぁ。みんなを一瞬で笑顔に変えられるところかな?」
「そうだよね!!!やっぱりそうだよねー!!」今日一番の笑顔で彼女に抱きついた。まさか正解を出すとは、僕は素直に彼女を尊敬した。
その数十分後、僕たちは店を出るのだが、それまで朝倉さんは彼女にずっとくっついていた。もう十七時近かったので、そのまま解散した。それぞれ家の方向が別々なので、ここでお別れだと思っていたのだが、彼女と僕の方向が同じだった。わざわざ別れて帰る理由もないので、自然な流れで一緒に帰ることになった。