黒衣の暗殺者-霧の時計塔。仮
突発的物語1
灰と黒色の色のスコープが小さく揺れた。
毎度おなじみを告げる音が訪れる予兆の一つのためだ。
そうして――。
ゴーン、ゴーン。
霧の立ち込める街の中を、
大きく重い鐘の音が駆けていく。
辺りにある建物を除いて、人のいる気配が外にはなく、
昼時の、広々とした街であるにも関わらず人が歩行している様子もなかった。
街路と空を交互に眺める赤い眼はどんよりとした空を覆う雲とは違い透き通ったように綺麗で。
そんな透き通った眼とは裏腹に、幾度となく、眺めている傍観者からはため息が溢れている。
時計塔の鐘が鳴り終わり、響きの余韻が終わりを告げようかという時に、
端の方、街路の細い路地裏の路で縛り上げられている人間の姿がかすかに見えた。
昼過ぎの物乞いや恐喝なれば、なんとも悪趣味だがこちらが手を出す必要はない。
――けれど。
それが小さな子どもであったのなら、仕事というよりはボランティアになるわけで。
【当然】となり見過ごすわけにも行かなくなるのだ。
それが今のワタシの信条、近いの一つとしてある限り。
――はあ。と一つため息を吐いて屋根上から身体を起こして、横目で街路を見るのをやめて、
黒なのか灰色なのか、妙に古びたコートを整えて、
眼前、とまではいかないにしろ、
眼に入ってしまった縛り上げられている人間に向かって、
時計塔の屋根から民家の建物へ、民家の建物から民家の建物へ。
慣れてしまった飛びつきを、流れるようにこなして移動する。
途中、いつも立ち寄るポテトフライの店の屋根を渡るときは、
ちょっとばかり慎重に、そっと移動してみたりもする。
肝心の店は今日は休みのようでシャッターや窓が開いていたりはしなかったので、
ここのポテトフライペッパーホット味は口から唾液が溢れるほどに病みつきになる味だという事を想像しながら、空いていないという事に心なしかつまらない感情を抱いて、また屋根から屋根へと移っていく。
もうしばらくで最初に観た景色に到着するというところで、
先ほどとは違って頬に血の付いた少年か少女かを発見したので。
思惑通り、子どもであったことに心底安堵した。
――子どもでなければいけない訳じゃない、むしろ助けた後の事を考えると大人の方が金銀財宝、家々等々受け取れることもあるかもしれないが、この街の大人は用心深く、また冷めている。
助けた後に変な逆恨みを受ける方が多いのだ。
いつかのへんぴな女性は別だったが。
さてさて、どう移動しようか。
――後二つ、手前の屋根を越せばあちらから姿をみられる事間違いなしの状況へと変わって行く。
スコープで隙間から覗き見たところ、少年か少女は、
小さなナイフか何かで脅しのための切り傷を二つ負わされている。
小さな銃を持っていないとも限らないが、虐待であったにせよ誘拐であったにせよ。
ワタシのボランティアも、ましてや仕事もなんの変わりもない事を胸において、
コートのボタンを留めていく。
「さあ、宴の始まりだ。」
そう呟いた言葉が霧と共に辺りに沈んだころ、
黒衣の暗殺者はもう既に、子どもを救い出していた。
一撫でするほどの風が一瞬だけ吹いたと思えば、
彼の黒衣の暗殺者は、子どもを抱きかかえて、
また最初の時計塔の屋根へと腰かけていた。
あくびをしながら、けだるそうにする黒衣の暗殺者は、
子どもの縄を解いた後、ゆっくりと頭を撫でながら、子どもが落ち着くの待っている。
脳裏に浮かんだ誰かと自分を重ねながら。
「さてと、そんなに涙ばかり流しても綺麗なお顔が台無しだ。
何があったのかはまだ聞かないから、とりあえず握手をしよう。」そんなことを言われた気がする。
霧は何処までも晴れないまま、今日も黒衣は揺れ続けるだろう。
それがワタシの生き方である。




