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結婚式で逢いましょう  作者: ゴリエ
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 出席か欠席かをこんなに悩んだ結婚式は、後にも先にもきっとないだろうと秀和は思った。

 カバンから探り出した白い封筒の表面には、自宅の住所と「秋山秀和様」と丁寧に毛筆で書かれた文字。その封筒から手触りの良い白色の上質紙を取り出し、じっと眺めた。目的地会場までの地図が記されている。今いる駅を出てから、会場まで徒歩約三分。おそらく迷うことはないだろう。

 もうずいぶん前に、出席に丸をつけて返信ハガキを送ってしまっているのだ。いまさら欠席するわけにはいかない。

 遅刻はしないだろうが、あまり余裕を持って到着するとは言えない時間になっていた。駅構内の本屋で無意味に時間をつぶしてしまったからだ。

 本当は、もっと早い時刻に自宅を出たはずなのに、会場に着くことに途中で怖気づいてしまった。おそらくは、会場ではもう高校の同級生たちのプチ同窓会が始まっているはずだ。

 会場に向かうにも、一人で来ているのは自分くらいかもしれない、と秀和は思った。

 いや、もしかしたら、自分以外にもう一人。

 彼女が出席なら、たぶん彼女も一人で来るだろう。秀和は、高校の同級生だった湯川真子の顔を思い浮かべた。

 彼女はこの結婚式に来るだろうか。

 秀和が招待された時点で、きっと彼女の元にも招待状は届いているものだと推測できた。自分と新郎新婦の交友関係の距離感を考えたとき、湯川真子とそれほど相違があるとは思えなかったからだ。

 ただ、湯川真子は秀和と同じか、もしくはそれ以上にこの結婚式の出欠について悩んだはずだ。

 しかし、それでも彼女は来るだろう。何の根拠もないが、それだけは確信が持てた。


 静かな小道を一人歩きながら、煮え切らない気持ちを抱えたまま、秀和は会場にたどり着いた。中に入らずとも外観だけで大まかな広さが想定できる、こじんまりとした印象のフレンチレストランだった。

 扉を開けると、すぐに中の喧騒な雰囲気に飲み込まれてしまった。静かな外とはあまりにも違う世界に、すでに酔いそうになる。お世辞にも広いとは言えない会場内のキャパシティを超える大勢の人間が、羽目をはずしたようにぺちゃくちゃと仲間内で楽しそうに喋っていた。入り口付近を陣取って騒いでいる連中は、通行の邪魔でしかない。

 よくよく眺めれば知っている顔も多かったが、その中の誰ともそれほど親しくない秀和にとっては、むしろ顔見知りなことが逆に好ましくなかった。下手に挨拶を交わしたところで、他に喋ることが特に思いつかない。社交辞令に社交辞令を重ねるだけの会話しか成り立ちそうもないのは、想像に難くなかった。

 なるべく人目を避けるようにして受付を済ませ、慣れない手つきで祝儀を渡し、受け取った席辞表を確認しながら自分の席を探すことにした。

 席辞表には、ざっと六十~七十名ほどの名前が連ねてあったが、会場が小さいので実際よりも多人数に感じた。

 自分の名前を見つけると同時に、すぐに気になる名前も飛び込んできて、秀和の心臓が高鳴った。

(よりによって隣か)

 これは偶然なのかそれとも配慮されたものなのか、新郎新婦に問いただしたい気持ちだったが、あいにく彼らはまだ会場内には姿を見せていなかった。

 緊張した面持ちで自分の席に着くと、六人がけの長方形のテーブルには、もう自分以外の面々はすでに揃っていた。

「秋山じゃないか。久しぶり」

 高校三年生のときに同じクラスだった若宮だった。

「久しぶり」

「お~、秋山、変わってないな」

「秋山君だぁ。久しぶり~」

「遅いよー」

 同じテーブルの前園、そして女子の川下や中谷がそれぞれ気さくに話しかけてきた。

「ちょっと寝坊しちゃって」

 当たり障りのない嘘で誤魔化し、秀和は平静を装いながら着席した。右隣にはずっと熱を感じていた。もちろん、自分の右半身が勝手に熱くなっているだけだ。

「秋山君、久しぶりだね」

 そう話しかけられて、飛び上がるくらいに心臓が跳ねた。

 秀和の右隣に湯川真子は座っていた。

「うん。久しぶり、湯川」

 湯川真子に話しかけられる。たったそれだけのことが、びっくりするほど心臓に悪くて、びっくりするほど嬉しいことなのだと、秀和は懐かしい気持ちで思い出していた。

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