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マイペースあきら君の日常な非日常

あきら君は今日も通常運転でお送りいたします

作者: 小林晴幸

基本会話文だけで進みます。

会話はおかしいのですが、平和な日常…?

基本的にマイペースあきら君でお送りいたします。

 学校の通信簿で、毎年担任の先生に書かれた言葉がある。

 それはもう、示し合わせたのかと思ってしまうくらいに、毎年同じ言葉。

 

 ――『あきら君は少し他の人への興味関心が薄いように思えます。』


 余計なお世話だと思った、そんな長期休暇の一日目。




 ある日、三倉家の一室。

 ゲーム用にと両親から払い下げられたブラウン管に、座椅子と広げられた食料(おやつ)

 準備は万端、3時間はそこを離れない構えで用意は整った。

 アナログな画面の向こうで世界を救うべく迷宮の罠を潜り抜けていた日のこと。


 うん、つまりはいつも通りの日曜午後の昼下がり。

 (あきら)君の部屋に、3歳年上の(なぎ)さんが突撃してきた。


「あきらちゃんあきらちゃん、あきらちゃん!」

「はいはいはいはーい、どしたの」

「聞いてちょうだい!」

「聞いてるよ。あ、宝箱みっけ」

「私、さっき、バナナの皮で滑って転んで、電柱に後頭部ぶつけちゃって…っ」

「あ、レア装備ゲット。僧侶に装備させるかな…。ところで頭大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ。幸い、たんこぶが出来たくらい…」

「病院いけば? あ、メタルさんにエンカウントした」

「ううん、病院には行けないわ…私、それで、星の向こうに大変なものを………」

「あー…メタルさんに逃げられた。ところでその話、長くなる?」

「あのね、あきらちゃん! 驚かないで聞いてちょうだい!」

「むしろ僕が驚くくらいの話をしてほしいね。あ、また宝箱みっけ」

「こんなこと言うと頭がおかしいとか病院行けとか言われるかもしれないけど…」

「むしろさっき言ったよ。あ、モンスタートラップだった」


「実は私、頭を打ったショックで前世の記憶を思い出しちゃったのよーっ!!」


「ふーん。あ、ところでポテチ食べる? 手作りだけど」

「頂くわ! まあ、うす塩味じゃないのね。イタリアントマト味…?」

「ラムネもあるよ。あ、グレムリンだ」

「………あきらちゃん? 私、重大なカミングアウトしてると思うんだけど」

「グレムリンか…変な選択肢出てきたけどどうしよう」

「もうっ ちゃんと聞いてちょうだい!」

「聞いてるよ。それで?」

「そ、そうよね…あきらちゃんはきちんと話を聞ける子だものね。えっと、それでね? 私、前世を思い出しちゃったんだけど………その、この世界の人間じゃなかったみたいで」

「へえ。人間じゃなかったの」

「この世界のっていう枕詞も聞いてちょうだい! 私、異世界人だったのよ!」

「あ、グレムリンが仲間になった。ところで違う世界にも人間っているのかな」

「その言葉は思い上がりもいいところよ! 人がいるのは地球ばかりじゃないわ」

「遺伝子配列的に同じ肉体構造っていっていいの? グレムリン、ステータスいまいちだね」

「遺伝子配列…どうなのかしら。進化の過程なんて誰も解明していn…」


「あ、セーブポイント!」


「だからちゃんと話を聞いてちょうだい!?」

「うん、だから聞いてるよ。それで?」

「もう…っだから私、異世界の人間だったのよ」

「でも今は地球の日本人だね。上書きセーブするか、新たなデータを作るか…」

「………まあ、そうだけど。確かに今は地球の日本人だけど」

「やっぱり新規データ作ろ。ところでその話って、現世(いま)に何か関係あるの?」

「……………………………ない、わね」

「そう。あ、ボスの間発見」

「でも! でも、でも…! 私、前世では…っ」

「壁役の肉体強度足りるかな…」


「私、前世の人格を思い出して…っ 和の身体を乗っ取っちゃったのよ!?」


「気のせいだと思う」


「気のせい扱い!? でも、ほら! 今朝までの和とは違うでしょ!?」

「何を思い出しても、三倉和は三倉和でしょ。前世は前世、もう死んだ人。OK?」

「………あきらちゃん、あの?」

「既に死んだ人格が、今を生きてる三倉和の精神を乗っ取れるとは思わないけど」

「で、でも、現に私…っ」

「いきなり蘇った記憶に混乱してるんじゃない?乗っ取られるのとは違うでしょ」

「そうかしら…? そうなの、あきらちゃん…?」

「僕にわかる訳ないよね」

「あきらちゃぁぁあんっ!?」

「とりあえず僕に言えるのは、前世の人の時代はもう終わってることと、今の身体は三倉和のもので、三倉和の天下ってことだけだけど。記憶にしろ、知識にしろ、どんな情報が上書きされても三倉和は三倉和でしょ。にしてもボスだけあって防御力高いなぁ…」

「何だか…思い悩んでいた私って、なんなのかしら」

「混乱してたんじゃない? 戦士の武器、属性武器に変えるか…」

「ありがとう、あきらちゃん…! 何だかあきらちゃんに話してすっきりしたわ。私は私、今の私は三倉和…! そうよね、あきらちゃん!」


「ところで兄さん、なんで今日はオネェ喋りなの?」


「だから前世思い出したって言ったでしょーっ!? 前世は女だったのよ、お・ん・な!!」

「やったね、いま流行のTS転生じゃない。ボス、意外に水属性が効くね」

「お兄ちゃんがTS転生してたのに、その反応の薄さはなんなの…!?」

「アイシクルレイン、アイシクルレイン、アイシクルレイン…MP回復薬は、と…」

「あきらちゃん! お兄ちゃんよりもボス戦の方が大切なの!? あとそこはMP回復薬よりも踊り子に祝福のダンスをさせてHP・MPの持続回復を狙うべきでしょ!」

「祝福、祝福のダンス…ついでに僧侶に戦士のブーストかけ直させて、と」

「…って、そうじゃないでしょ! そうじゃないでしょ!? 私の話よ…っ!」

「聞いてるけど、それほど大事な話に思えないんだけど」

「お兄ちゃんの一大事なのよ!?」

「前世の記憶を思い出して廃人になったっていうんならともかく、キャラが変わっただけでしょ。僕の生活に変化はないし。あ、でも父さん達へのカミングアウトには付き合わないから」

「父さん達にカミングアウトできるはずないでしょ…!?」


「それで、今後どうするの?」


「えっ?」

「そのキャラで今後もいくの? 同級生にドン引きされると思うけど」

「そんなはずないでしょう…!? ちゃんと昨日までの私で押し通すわよ!!」

「ふぅん。あ、ボスが変形した」

「そのボス、確かあと二回くらい変形するから要注意よ…! って、違う!」

「薬草足りるかな…。ところで兄さん」

「え、なに、あきらちゃん」


「TS転生したっていうけど、もしかして性癖…」


「なんの心配してるのか知らないけど、私はちゃんと女の子が好きだからね!?」


「良かった、将来『この人が新しい義兄さんよ』とか言ってムキムキマッチョメンでも連れて来たらどうしようかと思った………それだけは、良かった」

「そんな展開私だって御免よ…っ 今の私は、男なんだから!!」

「ちなみに、頭を打ってから趣味趣向に変化は?」

「……ないわね。部屋に張った『あすかちゃん』のポスターは剥がす気ないわよ」

「それじゃあ、将来の展望に変更点とか」

「それもないわ。今の第一志望校を変える気はないし。部活も続ける気よ」

「ふぅん。あ、ボスがまた変形した」

「それが最後の変形よ! ここからが正念場…って、ほんと私の話に聞いて!?」

「アイシクルレイン、アイシクルレイン、アイシクルレイン…氷雪剣!」

「ここぞとばかりにMP攻撃乱発するわね…! じゃなくて、私の話は!?」

「兄さんは人格変わったっていうけど、僕にはやっぱりそうは思えない」

「その根拠は…?」

「だって兄さん、話し方が変わっただけじゃない」

「そう言われても、記憶が…考え方も変化してると思うわ」

「性癖は?」

「………」

「性癖とか、味の好みとか、趣味とか『好き』の基準変わった?」

「………………………変わって、ないわ」


「だったら、やっぱり今の兄さんは『三倉和』だ。前世に変な影響は受けても、根本的な部分は変わってないじゃない。前世が百合の人だったら話は別だけどね」


 そう言って、昭君は座卓に座り直すと、ブラウン管に真っ直ぐな瞳を向けた。

 彼の目は最後の抵抗とばかりに苛烈な攻撃を繰り返すボスにのみ注がれている。


 弟の真剣な横顔を、じっくりと見て。

 兄の和君は180cmに届く背をそっと屈める。

 緊張にぴんと張っていた背の強張りを、緩めて。

 何だか気の抜けたように肩を落とし、膝を崩して座る。

 

 その座り方は、正座を横に崩した女座りだったけれど。


 兄がするには気色悪い姿勢でも、彼の弟は嫌悪の目を向けることはない。

 いつもと変わらず、いつもと同じ。

 昭君はおにいちゃんの前世が女だと聞いても、今日も平常通りの通常運転で。


 変わらない弟の姿に、和君はほっと息を付いて安堵した。

 弟のマイペースさに、何だか救いを見出したような気がして………


「あ、お兄ちゃん、前世思い出しついでに魔法使えるようになったのよね!」

「え、ほんと? そりゃすごい」

 

 そんな先程よりもある意味衝撃的な話題にも、弟は変わらない。

 平然とした様子で、ちらりと横目で一回見てきただけだ。

 兄をそのまま『三倉和』として受け入れている。


 だけどやっぱり、変わらぬその様子に、兄は嬉しさで胸が弾んだから。


 つい、調子に乗った。


「そうよ~! 実際に、見せてあげましょうか!」

「え、悪い予感がするから遠慮する…」

「そんなこと言わない! 遠慮は無用よ…!」


 もう一度言おう。

 和君は、つい調子に乗った。


「え~いっ 『アイシクルレイン』…!!」

「あ」



 ……………………………

 ……………………

 ………


 その日の、夕方。


 彼らの前には、兄のやんちゃで大破した旧型TV。

 そしてあと一撃でボス撃破というところで妨害され、無言で怒りを堪える弟。

 それから家で暴れて物を壊した罰として、夕飯抜きの憂き目にあった兄の姿があった。





『あすかちゃん』

 和君の部屋に張られたポスターの美少女。


アナログブラウン管TV

 和君が目覚めちゃった現代日本では使いどころのない特技『アイシクルレイン』によって大破。15年のTV生に幕を閉じた。30~50cmの氷柱でざっくざく。

 よいこの皆さんは真似しないで下さい。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >「やったね、いま流行のTS転生じゃない。 ブラウン管が存在してる時代にTS転生は流行ってない気がする むしろTSという言葉すら存在してないような
[良い点] 和と言う、女の子っぽいけど男でも使える名前に騙された! 会話文による進行と言う形態をうまく使った形ですね☆ [気になる点] 今必要なのは氷結系ではなく、回復(復元)系です。 TVさん的にも…
[一言] アナログブラウン管TVさぁぁぁぁん!!!! 小型でないゲーム機に必須のTVさんを大破してしまうなんて・・・前世の人は魔王配下だったのか!?(笑) 親におこづかい前借りしてちゃんとTV買って…
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