03 夢の世界??
「…………」
その子は田んぼのすぐ上にある原っぱで自転車から降りてゆっくりと座った。
「はぁ、はぁ……ねえ、教えて欲しいんだけど」
「…………」
息を切らしながら僕は聞いてみるが全く返事もない。
するとその子は急に何かを言い出した。
きょうは ポカポカ いい天気
こんな日は のんびり つりでもしながら
のんびりしたい
のんびり、を二回言った。……遠まわしに僕のことが邪魔だと言いたいのかな?
するとその子は急に釣り針に餌をつけていた。いつの間にかその子の腕には釣竿が握られていて。目の間に合った田んぼが野池になっていた。
「ねえ、君さ……」
「……えっ、何!」
僕が驚いて池を見ていると、その子は話しかけてきた。
「なんで君はここにいるの」
その子は無表情に竿先を眺めながら言った。
「君はこの世界のことを知っているんだよね! 教えてよ! どうしてこんなぼやけた世界に居るの? それに今君はどうやって田んぼを池にしたの?」
僕は分からないことだらけだった。
「君うるさいね。入ってこないでくれる私の世界に」
「えっ、でも……家に帰りたいんだ」
「好きなところに行けば? 全部君の家になるよ」
「そうじゃなくて、自分の家に帰りたいんだ」
「…………」
その子は少し黙り込んで少ししてから話してくれた。
「この世界は私たちの夢の世界……」
「夢の世界?」
夢? やっぱり僕は夢を見ているのか?
「勘違いしないで、夢は夢でも架空のものじゃなくて叶えたい夢のことよ」
「夢? 僕はこんな世界に行きたいなんて考えたこともないけど」
「君はアレを読まなかったの?」
「アレ?」
その子は僕を一目だけ見て無表情なまま言った。
「そう、残念だったわね」
「どうしてさ?」
「アレを読んでいたら君の夢も叶ったのに」
「夢が叶う? わからないよ、君の言っていることは何もわからない」
僕はその子の話すことが理解できなかった。不安から少しでも早く家に帰りたいのに。
「教えてよ! どうすれば元の世界に帰れるの?」
必死に言ってもその子はあくまで無表情なまま返事もしてくれない。