プロローグ2
「あなははあなははな」
鼻の詰まったような声で理解不可能な言葉を使い、酒場の前に座っていた小汚い白髪のおじいさんが兄貴に話しかけた。
「なんだよ?」
「あはなはああは」
「えっ?」
白髪のおじいさんは兄貴の腕を掴んで笑いながら親指で酒場の中を指した。
恐らく「お腹が空いているのだろう付いてきなさい」そういっているのだ。夢の中のせいかおじいさんの感情も読むことができる。けどそれはおじいさんから危険なにおいも感じ取る。
「いや、いいから離してくれよ」
兄貴もそれを感じ取れている。しかしおじいさんは強引に兄貴を酒場の中まで引っ張り込んだ。
酒場の中は意外と狭く入ってすぐ扉の横に野菜や果物が入った箱が山盛りに積まれていた。
「はあなはななあはあ」
おじいさんは何かを伝えてくる。「協力しろ」そう言っているのだと理解できた。何に協力するのかそれはすぐに察した。
このおじいさんは僕に……いや兄貴に食べ物をあげようとしているがこんな乞食の様なおじいさんがお金を持っているはずがない。とすれば今からここにある食料を盗むつもりなのだ。どうやって盗むつもりなのか頭のいいおじいさんには到底見えない、嫌な予感がした。
「あはなあなはあはは」
おじいさんは陽気に酒場のマスターに話しかける。そして話ながら布袋をズボンから取りだし横に積まれてある箱から玉ねぎを一つ掴むと堂々と袋の中に入れた。
(えっ! こんなの普通にバレてるじゃないか)
しかしおじいさんはマスターにみられながらも次々と玉ねぎを袋の中に入れていく。案の定マスターは大声で警察を呼んだ。当然だ、許されるわけがない。しかし問題は兄貴まで共犯扱いされている事だ。
警察が店の奥から二人出てきた。
するとおじいさんは兄貴の腕を掴み店の外へ走り出した。酒場をでるとそこには僕と兄貴の家があった。真夜中の家の前で兄貴は立ち尽くしていた。しかしゆっくりしている時間は無かった。遠くからパトカーがサイレンを鳴らして近づいてくる。おじいさんはすぐに走り出し交差点を曲がって行く。兄貴もこのままでは自分が捕まることを知っていた。
そこで自分が裸足なことに気づき急ぎ家の駐車場に置かれているボロ棚からサンダルを履いておじいさんの後を追うようにどこか暗闇の街の中へと消えていった。