プロローグ1
「これは夢だ……」
夢には二つの種類がある。
一つは夢を現実だと思ってみる夢、もう一つはこれは夢だと理解して見ている夢だ。
今僕は夢を見ているがそれが夢だと理解していた。不思議な感覚。今そこに僕はいないのに僕はそこにいた。ただしそれは僕ではなく兄貴の姿で僕はいた。だからといって兄貴じゃないわけではない、僕は兄貴の考えを理解できている、兄貴と一体になった感覚……
「なんだ、ここは」
兄貴は教室の中にいた。ここは見覚えがある、小学校だ。教室の窓から外を眺めると校庭が見えた。校庭から先は果てしない草原となっていた。兄貴は怯えている。それは恐らく校庭にいる怪物のせいだ。空は黒い雲で覆い尽くし雷が光り校舎の影に怪物が目を光らせ潜んでいるのが見えた。見えたというより感じて理解までできる。夢だからだ。
「怪物じゃねえか! ふざけんなよ」
兄貴はすぐに教室を出て廊下を走り、階段を下り、下駄箱を突っ切り、校舎の外へ出た。
「ひっ!」
後ろから怪物は追いかけてくる。怪物は黒い影に覆われて姿は見えないが獣の様な走り方で追いかけてくる。兄貴は学校の横に酒場があるのを見つけた。
まるで西部劇に出てきそうな酒場だ、茶色い木材でできた壁に両開きの扉、店からは明かりが漏れ人の気配がした。兄貴は急いでその店の前まで走った、怪物に追いつかれる前に。店の中にはいる必要はなかった。ここは夢の中安心することができる場所に怪物は存在できない、店の前で立ち止まり膝に手を付け乱れた呼吸を整える。
「はぁ、はぁ」
この世界はなんなのか、不安が募り早く目を覚まし現実に戻りたいという兄貴の想いが自分の想いの様に共感する。