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Willnica RPG  作者: altxo
1章
3/17

殺さない死神

「おい、何が起きた!?」


「今確認するだぁ!」


 村人の一人は、爆発音が聞こえると爆発音が聞こえるとすぐに外を確認しに行った。俺とヒロもそれに続く。


「何が起きたってさぁ。そんなの決まってんじゃん。爆薬を使って、なおかつこんな辺鄙な村を襲うやつらなんて、冒険者以外にいるかよ」


 村の入り口付近で燃え盛る炎を見ながら、ヒロは静かに言った。そして、腰にぶら下がっていた脇差のようなものを鞘から抜く。


「敵は7人だな。回復役が少なくとも2名はいそうだ。俺がそいつらを先に殺るから、シンは壁役を頼む。攻撃するなとは言わないけど、過度な出血はさせないようにしてくれ。とどめは全部俺が刺す」


「あ、ああ」


 俺は有無を言わさぬ口調に、頷くことしかできない。なぜこれから殺す相手に攻撃を控えなくちゃいけないのかとか、聞きたいことはいくつもあったが、ヒロが纏う空気がそれを許さなかった。


 俺はオルカーンの刀身に風が纏わりつくイメージをする。すると、初期魔法とは思えないほどの力強い手応えが返ってくる。元々持っている風属性攻撃力のおかげだろうか。


「皆さんは、宴会場の中で隠れていてください。冒険者の不始末は、冒険者が贖います」


「マスター! 大丈夫ですか!?」


 シノも起きたようで、俺達の方に駆け寄ってくる。


「シノ、俺達は2人だけで大丈夫だから、燃やされた家の中に人がいないか見てきてくれ! 村人の安全が第一だ!」


「分かりました、マスターも油断しないでください!」


「行かせると思うのか!」


 いかにも三下といった雰囲気をまとった男がシノに斬りかかるが、シノは男の斬撃を軽々と躱し、風を使って周囲に土煙を起こした。土煙が収まると、もうすでにシノは姿を消していた。


「な、消えただと!」


「おぉ、シンの相棒は随分と高性能だな」


「お、よく分かったな。それが分かるとは、ヒロに対する評価も改めなくてはならないな」


「俺の名前はヒロサマだ。忘れるなよ」


「ヒロでいいじゃないか。愛称ってやつだよ」


 軽口を叩き合いながらも、俺は敵の職をサーチで確認する。パイレーツ、パラディンの前衛職2人。クレリック、ドルイドの回復職2人。ソーサラーの魔法攻撃職が2人。エンチャンターの魔法補助職が1人。ユニーク職はいないようだが、全員レベルは30だった。随分と用意のいいPTだなおい。


 ちなみに全員アカネ(このゲームではアカネ以外を殺したときのみステータスの名前が赤くなる)だった。ヒロがとどめを刺すと言っていたのは、俺がアカネにならないように気遣ってくれていたのかと思ったが、それは違ったらしい。


「ぴったり7人だな。伏兵はいないのか?」


「さあ? 少なくとも半径100m以内にはいないよ。もし俺の感知できる範囲外にいたとしても、増援が来る前にさっさと殺っちまえばいいだけだろ」


「それもそうだな。この程度なら、壁役は任せろ」


「ほぉ、このPT相手に1人で壁役が務まると……。大した自信だな」


 そう言ってヒロはニヤニヤと笑う。不思議とその表情は嫌じゃなかった。


「当たり前だろ。こういう三下の屑野郎どもに負けるほど、俺は弱くねえよ」


「言ってくれるじゃねえか、クソガキィ!」


 さっきシノに斬りかかってあっさり避けられた三下パイレーツは、怒鳴りながら一歩前に出た。俺はその隙をついて三下との距離を一気に詰める。三下は慌てて剣を構えるが、もう遅い。


 狙うは三下の持つ剣だ。うまくいけば剣を弾き飛ばすこともできるかもしれないし、そうでなくても長い硬直時間を与えることもできるだろう。そう思っていたのだが……。


 何かがバキーンッっと折れる音がした。


「………」


「………」


「やるなぁ」


 武器破壊というのは何も珍しい現象ではない。定期的に鍛冶屋に持っていかないとすぐ劣化して壊れるし、手入れを怠らなくても長い間使っていれば壊れることもある。


 恐らくだが、三下が使用していたのは30級製作武器だろう。破片を見たところ、真新しくそこまで劣化していない手入れの行き届いた武器であったことが伺える。それを一撃で粉砕されたショックで、三下は呆然としている。他の仲間も同様で、一瞬だけであるがPT全体に隙ができた。


「……魔力充填完了。加速開始」


 その一瞬をヒロは逃さなかった。そう、本当に一瞬の間に、ドルイドのHPは0になった。信じられないことに、外傷などは全く見当たらない。しかし、そんなことは関係ないとでも言うようにドルイドは青い光とともに姿を消した。GAMEOVERという青い文字が、今さっきまでドルイドが存在していた場所にふざけたように流れる。


「クールタイムは1分だから、それまでよろしく」


 ヒロは目にもとまらぬ速さで俺の近くまで戻ってきて、次の死者が出るまでのカウントダウンを宣言した。





 最初に我に返ったのはエンチャンターだった。彼はバフをかけ直し、PT全員に指示を出す。


「慌てるな! まだ数では俺たちの方が多い! 相手はどちらも前衛職だ! 範囲魔法を連発して確実にダメージを与えろ! 壁は死ぬ気で守れ! 30秒以内に仕留めるぞ!」


 エンチャンターは一気にそれだけ捲し立てると、未だ呆然と立ち尽くすパイレーツの方を向いた。


「おい、しっかりしろ! ……ちっ、使えねえな。あまり使いたくなかったが……。狂戦士の呪い! どうせ俺が使っても意味ねえんだ、このエストックを使え!」


 エストックを渡されたパイレーツは、涎をだらだら垂らしながら俺に突進してきた。


「汚ねえなおい! 近寄るなぁ!」


 俺はそう叫びながら、オルカーンでエストックの根元から叩き斬る。元の剣よりも細いだけあって、予想通り武器破壊は成功したのだが、狂戦士の呪いのおかげか全くひるむ様子がなく、素手でつかみかかってきた。


「サンダーブレイク!」


「ファイアブラスト!」


 その隙を突かれて、ソーサラー2人の魔法攻撃が俺を直撃する。HPが半分も一気に削られる。まずい!


「止まれ! こいつがどうなってもいいのか!?」


 ヒロはエンチャンターの首元に脇差の刃を這わせていた。その隙に俺は気づかれないように自分にヒールを打ち、パラディンへと近づき、巨大な盾にオルカーンを叩き付ける。すると、盾は粉々に砕けて持ち主ともども吹き飛ばし、パラディンは意識を失ったようだ。恐るべしオルカーン。


「クールタイムだからって動けねえわけねえだろバーカ。さすがにリーダー格は見捨てちゃまずいってかぁ? いいぜ、あと5秒ほどそのままにしてろよ!」


 その言葉にまたあの攻撃がくることを悟ったソーサラーと、今までヒールを打つ準備だけをしていたクレリックまでも、攻撃対象をヒロに移す。


「ファイアーバード!」


「ライトアロー!」


 その攻撃をヒロはエンチャンターを盾にすることで防ごうとするが、ファイアバードは追尾型の魔法攻撃だったのか、直撃をくらってしまう。


「……ッ! クソッ!」


「ヒール!」


 すかさず俺はヒロにヒールを打つ。ヒロを含めこの場にいる全員が驚き、その合間にヒロは体勢を立て直す。次の瞬間、ヒロはクレリックに死の宣告をした。


「加速開始!」


 俺は急いで何が起こったか確認しようとしたが、見えたのはクレリックの驚愕の表情と、GAMEOVERを告げる青い文字だけだった。


「はあああああっ!」


 今は戦いに集中すべきかと思い直した俺は、剣の刃が向かないようにして、フラフラになりながらも未だ突進してくるパイレーツに思いっきり剣を叩き付けた。大分遠くまで吹っ飛んだな。これでしばらくはおとなしくしているだろう。


 形勢逆転だ。数は同じだが、こちらはヒールが使える。どう転んでも負けることはないだろう。それでもまだあきらめきれないのか、ソーサラー2人は最後の悪あがきに魔法を唱えた。


「ファ、ファイアアロー!」


「サンダースラスト!」


「風よ、我が主を害するものを打ち消せ!」


 しかし、その魔法すらシノが生み出す風によって打ち消された。さらに、ソーサラーの周囲にだけ、触れれば皮膚が削り取られるような暴風を吹かせ、2人が何もできないようにする。


「マスター、村人の安全は確保しました。炎に焼かれたり、煙を吸いすぎた人が何人かいましたが、すべて回復させておきました」


「助かったよ。さすが俺の相棒だ」


「あとでご褒美くださいね♪」


「ご褒美の内容聞くのが怖いんだけど……」


「大丈夫ですよ。マスターは気持ちよくなるだけでいいんですから♪」


「あーあーあー、きーこーえーなーいー」


「お前らさぁ、よくこれだけの戦闘した後にそこまで気楽にイチャイチャできるなぁ……」


「よかったじゃないですかマスター。今までは飛龍相手に話しかけたり突っ込みしている変人だったのが、イチャイチャしているカップルに大幅にランクアップですよ!」


「今更だけどそんなこと思い出させないでくれ……」


 俺達を呆れ顔で見つめながら、ヒロは気を失ったパイレーツの近くへと移動する。そして、男の皮膚の上を、当たるか当たらないかの位置で何度もすばやく斬る。というより、男の皮膚には傷一つついてないので撫でるといった表現の方が適切かもしれない。


 そのまま数十回ほど斬りつけると、男は青い光とともに消えた。同様に、エンチャンターとパラディンもGAMEOVERにする。俺は目の前で起こる現象が信じられず、目を疑いながらも、浮かんできた1つの可能性について聞いた。


「なあ、もしかしてヒロが、新しい死神なのか?」


「……加速開始」


 ソーサラーの1人をGAMEOVERにしてから、ヒロは自嘲気味に微笑んだ。


「そうさ、俺が死神だ」

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