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Willnica RPG  作者: altxo
1章
2/17

シノの変化

 魔力と体力を使い果たしたシノに乗って移動することはできないので、重い足取りで俺たちは帰路につく。


 目指すは数日前偶々立ち寄った村。その村では性質の悪い伝染病が充満していて、なんと人口の半分(といっても数十人程度)が寝込んでいるらしかった。


 昔からある病らしく、薬の製法は分かるのだが、ロックドラゴンの鱗だけがどうしても足りないそうだ。


 村長他村人数人に土下座しながら頼まれては、純正日本人な俺が断れるはずもなく、念入りに準備して鱗採集に向かったのだが……。


「うぅ、ぐす……。ロックドラゴンが寝付くまで数時間待った苦労は何だったんだ……。俺はさ、別に報酬が欲しいわけじゃなかったんだ。あの人たちを助けたくてさ、ただそれだけだったんだ。でも、でもさぁ、ああやって直前でとるのはどうかと思うんだよ。確かにあいつが村まで鱗を持っていけば、村の人たちは助かるよ? 俺なんていらないかもしれないよ? でも俺だってたまにはさ、感謝されたいわけよ。それをさ、それをさ、あいつが早いもん勝ちだとかいうんだよ? なあシノォ、慰めてくれぇ」


「はいはい。だらしないマスターですね。大丈夫ですよ、鱗は薬として使うものですから、たくさんあって困るものではないと思います。それを持って村まで行けば、きっと皆さん喜んでくれますよ」


 やっぱりシノは天使だった。木の陰で体育座りしながらいじけてる俺に優しい言葉をかけてくれる。しかも具体的な解決策とともに。これほどよくできたドラゴンはこの世界にはシノだけしかいない。


 そう、今だって俺の近くに寄ってきて抱きしめてよしよししてくれる。小さい手や体はシノがまだ子供であることを表している。しかし、しかしだ。シノに抱きしめられることにより感じる安心感。まるで直接人肌に触れているかのような温かさ。シノはこの年にして全身から母性愛というものを放出している。


 俺はシノを抱きしめ返した。そしてやっと違和感に気が付く。いくら子どもといってもシノの全長は5メートル近くある。俺の腕にすっぽり収まるほどの大きさではないのだ。


 涙で前がよく見えない眼をこすり、改めて状況を確認すると、目の前には雪のように白く輝く髪を持った全裸の美少女が存在していた。


 もう一度目をこすった。状況は変わらない。頬をつねる。うん、しっかり痛い。


「えっと、どちらさん?」


「大丈夫ですかマスター。シノですよ? 目でもおかしくなりましたか?」


「いやおかしくなってると思うんだが……」


 とりあえず目の前の少女はシノで間違いないらしい。俺は目のやり場に困りながらも、質問を続ける。


「えっと、何で?」


「決まってるじゃないですか。マスターと結婚するためです!」


 シノは胸を張って答えた。ちょ、やめて! そんな状態で胸なんて強調しないで!


「えっと、何で?」


「だってマスター、生きて帰ったら結婚するって言ってたじゃないですか。ハッ! まさかマスター、私以外の人と……」


 そういやそんなことも言った気がする。ていうかシノさん、上目使いやめて! うるうる増加させないで! おかしい。いつもなら何も言わなくてもすぐ俺の言いたいことを察してくれるのに。


「そ、そんなわけないじゃないか!」


「じゃあ私と結婚してくれます?」


「いや、それは、ええと……」


 俺が言いよどむと、シノは悲しそうな顔をして俺の眼をじっと見つめてくる。


「……私以外と結婚するんですか?」


「いや、しないよ、しないから! シノ以外とは結婚しないから!」


「ならいいです♪」


 なんだかとんでもないことを約束させられてしまったが、上機嫌なシノを見ていると次第にどうでもよくなってくるのだった。





「見えてきたな」


 あのあと何とかシノに服を着てもらって(シノの裸を俺以外の男に見せたくないからと100回くらい言わされた)、歩いて村に向かうと辺りは薄暗くなっていた。途中で、「あ、マスターの、オトコノヒトのにおいがします……」とか「あ、この服おっぱいが擦れて……。ん……」とか言ってきたがすべて無視した。俺の鋼の精神力を自分自身で褒めてあげたい。


 村の入り口をくぐると、俺の予想を大きく外れた熱烈な歓迎が待っていた。


「よかっただぁ。村の危機だったとはいえ、あんたみたいな若い人に一人で龍の相手をさせんのはよくないんじゃないかって意見もあってなぁ。あの坊ちゃんが先に帰ってきてからは村中大騒ぎでねぇ。いやぁ、無事帰ってきてくれてよかっただぁ」


「いえ、俺は冒険者として当然のことをしたまでですから。それとこれ、欠けた状態ですが俺もとってきたので……」


 俺がロックドラゴンの鱗を渡すと、その村人は泣きながら何度もお礼を言ってくれた。ああ、世の中にはこんなに心が綺麗な人たちがまだいるのか。涙腺がやばい。


「ほら、言った通りでしょう?」


 そう言ってシノが微笑みかけてくる。ここにも美しい女神がいた。


「さーて、今宵は宴だあよ! 村一番のごちそうを振舞ってやるだぁ、期待して待ってるだあよ!」





 通された宴の席とても広かった。最初から元気だった人、さっそく薬が効いて治ってきた人合わせて40人ほどが入ってもまだ半分ほどの空きがあった。おそらく村人全員が入れるようになっているのだろう。


 ちなみにシノはすでに寝ている。突然眠いと主張して、わずか数秒後にはすでに寝ていた。魔力枯渇と肉体疲労で相当疲れているだろうから、そのまま宿に連れて行った。


 席に着くと隣にあの少年が座っているのに気づく。少年は俺がいるのに気が付くと、少し悔しそうな表情をしながら話しかけてくる。


「よぉ。よかったな、この村のやつらが親切で。欠けている鱗を遅れて持ってきて喜んでくれるやつなんてそうそういないぞ」


「坊主みたいにやたらと心が捻じ曲がってないみたいだからな」


 フッフッフ。さっき村人さんの綺麗な心と女神の微笑みに触れた俺はこの程度では泣かないのさ。


「おい、その坊主っての止めろよ。俺にはちゃんとした名前があるんだが、そんなことも分からないのか? 馬鹿なの? 死ぬの?」


 ……泣いていいですか?


「俺の名前はヒロサマな。ヒロサマ様とかそういう堅苦しいのはなしでいいぞ。気楽にヒロサマって呼んでくれ」


「俺が何したっていうんだよおオオオオオオオオオオ!」


「知らん。そうか貴様は名乗り方が分からないのか。仕方がないな」


 ヒロとやらは「サーチ」と唱えて俺のステータスを調べた。


「なるほど。貴様はシンタローというのか。長いな、お前は今日からシンだ」


「もう参りました。許してください」


 俺は目の前に運ばれてくる料理をもそもそ食べることに集中することにした。しかしヒロはそれすらも許さない。


「そういやさぁ、お前より3時間ほど早く鱗を持っていったらさぁ、お礼だと言われてぇ、こんなにたくさん金貨もらっちゃったぁ」


 ヒロはポケットから金貨袋を取り出し、ジャラジャラと音をたてはじめた。こいつ、人をイラつかせることに関してはありえない才能があるな。きっとステータスを見ると、挑発Lv100とかついてるぞ。俺は完全にこいつを無視することにして(本当は何も言い返せない訳では、断じてない)、しばらく経つと村長(救世主)がやってきた。


「いやはや、今回はお二方とも、村をの危機を救っていただき、このご恩はどう返せばいいのかわからぬほどじゃ。一先ず、今宵の宴を楽しんでいってほしい」


「………」


「ありがとうございます」


「さて、冒険者殿……シンタローと申すのであったな? 実は坊ちゃんに差し上げた方の金貨で村のほとんどの金貨を使ってしまってのぅ。謝礼はしたいのじゃが、それは金貨でなくとも問題はないかの?」


「あ、俺はそこまで金の亡者ではないので金貨はいりません。ただ、連れの者の服が破けてしまったので、女性用の衣服を頂けると嬉しいのですが……。大丈夫でしょうか?」


 俺がそういうと、村長は何かを考えるように俺の目をじっと見た。


「……すみません。衣服がそこまで高価なものだとは知りませんでした。謝礼の方は何もいりません。大変申し訳ありませんでした」


 俺は村長に向けて頭を下げた。すると村長はいきなり大声で笑い出し、宴会場全体に聞こえるような大きな声で叫ぶ。


「この勇者様なら、文句はないよなぁ! そうだろう!?」


 村長がそう問いかけると、村人たちは次々と肯定の言葉を口にする。俺が混乱してると、一人の少女が目の前に現れ、鞘付きの剣を差し出してきた。


「勇者様、この剣は我が村に代々伝わる宝剣です。きっとあなた様の今後の冒険に役立つことでしょう。是非受け取ってください」


「いいんでしょうか? そんな大事なものを……」


「構わんよ。シンタロー殿、その剣をぜひ冒険の役に立ててほしい。なあに、その剣も、名もなき村の宝剣として永遠と眠るより、シンタロー殿と一緒に旅をした方が幸せじゃろう。それと、衣服も明日の朝までには用意させよう。今宵は存分に宴を楽しみ、しっかりと体を休ませてから出発するといいじゃろう」


 俺は渡された剣を鞘から抜いて、ステータス欄を確認する。


オルカーン

攻撃力:245

風属性攻撃力:100

全ステータス10%UP

名もなき村で長い間眠り続けていた宝剣。シルフの魂が封じられている。


 俺は剣のステータスを見て唖然とする。最高位の戦闘ギルド、デモンシュバルツのギルドリーダーが使う武器がやっと300を超えるという話を聞いたことがある。属性攻撃力を足せばその剣をも超えるような剣が、なぜこんな辺鄙な村に存在しているのか。


 とにかくお礼を言わなくてはと思い、剣を一度鞘にしまった。


「この剣は、大切に使わせていただきます。本当にありがとうございました」


 俺が村長に向かって再度頭を下げた瞬間、静かな村に、何かが爆発する音が響き渡った。 


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