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Willnica RPG  作者: altxo
番外編
16/17

傀儡と鍵と

「といっても、ただの高所落下ダメージだが」


 上空から落ちてきた何かは、ギガマンティスの右肩を貫通してそのまま突き刺さったままのようだった。


 ファロは西洋甲冑と共に、右の鎌の付け根が丸ごと貫かれてほとんど動かなくなったギガマンティスに斬りかかったと思ったら、突然振り返って私の名前を呼ぶ。


「こいつ、HPだけは高いみたいだから削るの手伝ってくれ」


「う、うん……」


 周囲にいたはずの大量のデスマンティスはいつの間にかどこかに消えていた。地面を揺らすほどの衝撃に怖気づいてしまったのだろう。


 正面や腹部はファロと西洋甲冑が無双しまくっているので、私は端っこの後ろ足付近まで移動して、そこを細々と斬りつける。自分がとてもいらない子に思えてきて泣けてきた。


 完全に動かなくなったのを確認してから、かろうじてつながっていた鎌の付け根を強引に裂いていく。そして、その裂け目から出てきたのは……ただの鴉だった。大きさや外見は地球にいるのと全く同じ。身体は金属でできているようで、表面が少し光っている。


「それ、何?」


「こいつは唯一の飛行型傀儡だ。ファイリード付近に待機させてたやつで、サニーとここを出るって決めたときから連れ戻そうとはしてたんだが、途中色々と邪魔が入ってな。飛行型だけどこんなに時間がかかった。念のために言っておくが出し惜しみはしてないぞ?」


「でも秘密にしてたじゃない……」


「ちょっと驚かせたかっただけだ。そんなに拗ねるなよ……」


 私がヴァルメスで地面をつついていると、鴉はちょんちょんと飛び跳ねながらこちらの方に向かってくる。つぶらな瞳がとってもキュートだった。


「かわいい~! ファロもこんなかわいいの作れたんだ! 恐れ入りますが、お名前を伺えますでしょうか!? ふんっ、言うのもはばかれるような贅沢な名だね! 今からお前の名前はクロだ! いいかい、クロだよ! ねえねえ、なでなでしていい? していいよね? いいのね? 許可なくてもなでなでしちゃう!」


 キュートすぎてテンションがおかしくなった。けど気にしない。今は撫でるのが先決だった。


「まあ、触るくらいならいいが……。ちなみにそいつの名前はレイブンだ」


 私が鴉に触れた瞬間、さっきまでピコピコ羽を動かしていたクロは力尽きたように一切動かなくなってしまった。


「あれ、動かなくなっちゃったよクロ。どうしちゃったのかなクロ。大丈夫クロ? ねえファロ、クロが大変だよクロが!」


「………。……そりゃ、俺が魔力の糸で動かしてるからな。触れられたら動けなくなるに決まってるだろ?」


「あーでもされるがままになってるクロもかーいーよー! なでなでーなでなでー」


「……そういえば一つ言い忘れてたことが」


「んー? なになにー?」


「邪魔って言うのはサニーが抱き着いてきた瞬間も含んでいる。っていうかレイブンが空飛んでるときに抱き着いてきてくれたおかげでちょうど真下にいた飛龍型モンスターにぶつかってそのまま追いかけられ続けたのがほとんどだな」


「あう……。ごめんなさい……」


「ま、そこは今後気を付けてくれればいい。とにかく、俺が許可したとき以外は俺に触れないように」


「じゃあ許可が出たときはいつでも抱き着いていいと!?」


「そうだな。許可は一生でないが」


「うぅ……。ひどいよファロ……」


「知るか」


 私のフラグをバッサリと切り捨てて切り刻んですりつぶして燃やして灰にしてから、ファロはギガマンティスの死骸に近づいていく。


「この鎌は……使えそうだな。足は無理か……。お、目玉が割といい値段で売れそう……。うーん、この羽はいい感じ……かな?」


 そう言いながら死骸を解体していくファロ。使えないと判断したものはどんどん放り投げていく。残った鎌などを一つ一つをポーチのようなものに詰め込んでいく。


「ねえ、この前も使ってたけど、それって何?」


「ん? これか?」


 ファロは私が指差したポーチのようなものを掲げた。ポーチだと断言できないのは、まるで四○元ポケットのように明らかに積載量オーバーな量を詰め込んでいるのを見たからだ。


「四○元ポケットだ」


「ええ!?」


 まさか本物だったとは……。


「というのは冗談で、別空間につなぐ入口だな。別空間と言っても限度がない訳じゃない。俺の場合は自宅にある倉庫が出口だ」


「……それは四○元ポケットと何が違うの?」


「限度があるだろ? おいとく場所もきちんと3次元だ」


「なるほど、分かりません」


「ま、特に気にすることでもないだろ」


 ファロは全ての素材を入れ終えて、3次元ポーチ(仮名)をポケットの中にしまおうとするが、私はそれを慌てて止める。


「ねえねえ、中は覗けるの!? 見せて見せて! すぐ返すから!」


「変な物入れるなよ……?」


 渋々といった様子ながらも渡してくれる。差し出されたポーチを受け取ろうとして、私がポーチに触れた瞬間、パチッと静電気が流れたような音がした。


「え?」


「あ……」


 反射的に腕を引っ込めるが、もう遅かった。ポーチは青い光を発したかと思うと、瞬時にそれは消え、追い打ちとばかりにビリビリに引き裂かれて破裂した。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい弁償しますすみませんでした本当にすみませんでした反省してます許してください……!」


「いや、魔術無効のこと忘れて安易に貸した俺が悪いから気にするな。それに1000ゴールドもするんだ。払おうとしても払えないだろ?」


「……い、いっせんごおるど?」


「もう一度聞くが、弁償できるのか?」


「すみません無理です……」


「だから言ったろ? 気にしなくていいって。どうしても気になるって言うなら出世払いで受け付けるが……。ってちゃんと話聞いてるか? 顔面蒼白だぞ」


「こうなったら体で支払うしか……」


「アホか! ……自分の身体はもっと大切にしろ」


 私が服を脱ごうとして上着に手をかけると、珍しく慌てた様子で急いでそれを止めるファロ。その様子を見て私は少し調子に乗ってしまう。


「あ、いい案思いつきました」


「聞くだけ聞こうか」


「結婚してください!」


「却下だ」


 自爆だった。それでも私は負けない。


「結婚すればお互いの借金は共有するものだと聞いたことがありますよ軍曹!」


「あのな、俺はな、別に、弁償、しなくて、いいと、言って、いるんだが、聞こえて、なかった、か?」


「でもそれじゃあ……」


 こんな風にふざけててもちゃんと反省しているのだ。特に金銭面では苦労しているので、罪悪感でちょっと押しつぶされそう。私が上目使いに見つめると、ファロはしっかりと私の目を見て、妥協案を提示してくれた。


「いいか、よく聞けよ? このポーチ自体は100ゴールドもあれば作ってもらえる。だから本当に、どうしようもなく、眠れないほど気になって仕方ないって言うんならその額だけ出世払いで受け取る。ここまではいいか?」


「……うん。あれ? でも何で1000ゴールドで買うの? 100ゴールドで作ってもらえるんだよね?」


「ああ。直接そいつに会えれば、な。そいつの二つ名はマスターキーの他に神出鬼没ってのがある。どこのギルドにも所属していなくて、どこにいるかは誰も知らない。見つけるのに労力がかかりすぎるから、10倍の値段でも買う人は結構いる」


「へー。じゃあ見つけたら大儲けだね!」


「そうでもない。普通は一人一つしか作ってくれないから、売るのは余程金に困ってるときしかお勧めしない。あいつは記憶力だけはいいからな……」


「四○元ポケットは皆欲しいもんね! どら○モンの道具の中でどれが欲しいって聞かれれば四○元ポケットって答えるくらいには!」


「それは意味が違うと思うが……。とにかくこのポーチは魔法道具の中でもかなり使い勝手がいいし、ないと困るな」


「……本当にすみませんでした」


「まあ大丈夫だ。一つだけ、ポーチがすぐに手に入る方法がある」


 若干苦笑しながら、半泣きの私の頭を優しく撫でてくれる。


「これだけは使いたくなかったんだが……。背に腹は代えられないか……」


 ファロは嫌そうな顔をしながら何かの葉っぱを取り出し、それを口に含んで息を吹き込んだ。


 耳元にキーンという甲高い音が聞こえて、私は慌てて耳を塞ぐ。


「これの構造は犬笛と同じで、普通の人間には聞こえない音を出すはずなんだが……。よく聞こえるな」


「んー。私ってほら、視力はたくさんあるし、聴力も結構あるから!」


「たくさんとか結構とか何なんだよ……」


「しょうがなかったんだよ? 測定不……ひゃうっ?!」


 空中から突然ドアが現れ、私は思わず声をあげてしまった。ドアはゆっくりと扉を開き、その中から全裸の少女が飛び出してきて、ファロに抱き着いた。


「ファロロンファロロンファロロンファロロンファ~ロ~ロ~ン~!! 逢いたかったよ~逢いたかったよ~! 何でもっと早く呼んでくれなかったのさ! いつでも飛んでくよって言ったのに! あ、さては照れてたな~このこのかわいいやつめ~」


 全身びしょ濡れで、ナチュラルブラウンの長い髪が全身に張り付いている。胸は……若干、若干少女の方が大きい。本当に少しだけ。視認で確認できるぎりぎりの差。人によっては分からないかもしれない。って言うか分からない。きっと一緒だ。身長は私の方が少し高い。何故か虚しくなった。


「だから呼びたくなかったんだ……」


「ファロロンhshs! ファロロンhshs! ファロロンhshs! ファロロンhshs! うん、やっぱりファロの胸の中が一番落ち着くよ~すりすり~すりすり~」


 少女はしばらくファロの胸の中に顔を突っ込んですりすりしていたが、突然顔をあげてファロに顔を近づけ、そのままキスをした。さらに舌を入れようとしている。べろちゅーだった。


 頭痛が痛い。怒りとか、寂しさとか、心臓の奥がズキッとするような恋する乙女特有の感情は何も浮かんでこない。頭の中がぐるぐるまわって、何も考えられなくなる。


 サニー は めのまえ が まっくら に なった !

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