表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Restrict  作者: 幸来
2/10

第1話 ~思い出~ 

物心ついたころから、あたしは女扱いされていなかった。

友達には勿論、男子からも完全に男扱いされてて、親にまでも性別否定されてきた。


いや、その理由が解からないわけではない。

確かに、あたしは言葉遣いも悪いし、物事なんでも大雑把で、喧嘩も強いし、

男に媚び売るどころか、「女と子供に優しい」をモットーに生きてきた。

そして何より、この性格。

自分で言うのもなんだが、持ち前の明るさと、人当たりの良さ。

面白い話もできるし、偏見の目を向けることもない。

むしろ、幼い頃から、いじめられていた子を助けていた、ヒーローのようなものだった。


ウルトラマンと仮面ライダーになりたいと、語っていたあの頃。

その積りに積もった男らしさのせいで、今、目の前で悲劇が起きていたりする。


「有希!おはよう!」

「おーっす!おはよう、咲!」


さきは、あたしの幼馴染で、家が近く、家族ぐるみの付き合いだ。

女子っぽい、ふわふわの髪の毛を下の方で2つに縛ってて、

大きなくりくりした瞳も、一つの特徴だ。

生まれたときから、いつの間にか一緒に居た咲は、何でか知らないけど

あたしの行動やら、気持ちをよく分かっている。

咲は、あたしの大切な親友だ。


「あ!有希だ!おはよう!…一緒に学校行っていい?」

「お!おはよう、稔!良いに決まってんじゃん!ほら、行くよ!」


みのりは、小学校1年生の時からの、友達・・

昔っから、あたしの後ばっか追ってくるようなヤツで、何かといじめられている。

あたしは、その度に、稔を助けてきたものだ。

稔は、茶髪のショートヘアで、顔立ちは整っている方ではないと思われる。

…でも、そんなこと本人には言えないわけで。


「あ~ぁ、もう中学生かぁ~…。」

「6年間、あっという間だったよねー。」

あたしが、そんな言葉を漏らすと、稔はニコニコしながら相槌を打つ。

…可愛い奴だな、こいつ。


あたしは、何も思わず、稔を頭をくしゃくしゃと撫でた。

その時、稔が、顔を赤らめ、言を発していなかったとも気づかずに。


あたしたちが通うことになる「飯田中学校」は、小さな学校で、

小学校2校が、合併しただけの中学校だった。

まぁでも、吹奏楽が強いとか何とかで、わざわざ遠くから来てる子もいるみたいだけど。


「デーブ!」

「目障りなんだよ、ブタ!帰れ!」

校門の入り口付近で、男子が数名、輪を作っている。

その中心には、背の低い、いわゆる「チビデブ」の女子がいた。

貞子のような長い黒い髪をしていて、カタカタと小刻みに震えている。

「うわぁ…大丈夫かな、あの子。」

咲が可哀そうなものを見るような目で、その光景を見つめている。

あたしは「女と子供に優しい」というモットーを思い出す。

すると、いつの間にか、足が勝手に動いていた。


「…お前ら、何やってんだ。」

一人の男子の肩をぐいっと引き寄せ、あたしは目を見た。

そいつの肩を握る右手に、やけに力が入る。

「いっ、痛いっ、何すんだ、よ!」

男子が必死に、あたしの右手を振りほどこうと、体を揺さぶる。

だけど、そんなことじゃ、あたしの手を振りほどけない。

今まで、一度だって男子に負けたことがない。

体力テストだって、男子よりずばぬけて、成績がいい。

並の男子が、あたしに勝てるはずがない。


「…何?何って分からないの?その子に謝れよ。」

「は、はぁっ!?だ、誰だよ、お前!」

「お前?生意気な口きいて、お前何様だ?」

グググッと、右手にさらに力を入れる。

「~!!!」

「…ほら、さっさと謝れよ。男のくせに、女いじめてどうすんだよ。」

「わ、わかったよ。わ、悪かった。許してくれ。」

男子があたしに脅えて、震える声で、その子に謝り始めた。

あたしは、さらに追い打ちをかけるように、そいつを蹴り飛ばし、言い放った。


「いいか?次、こんなことしてみろ。…息の根を止めてやるぞ。」


凍りつくような眼差しで、数名の男子を一人一人睨み付けていった。

男子共は、震えあがって、その場を跳び逃げていった。

「…大丈夫?怪我、ない?」

「……大丈夫、です。有難うございました。」

あたしは、そう言った同学年と思われる女子に笑いかけた。

すると、その子は、急に頬を赤らめて、パッと俯いた。

その子の名は美香みかというらしい。


この美香が、のちのち、あたしの人生を狂わせるとは、この時は思ってもみなかった。


「ねぇっ!あたしら、同じクラスだったよ!」


クラス発表の紙が貼られている、玄関から飛び出してきたのは和奈かずな

和奈は、稔と同じく、小学校のころからの付き合いで、仲良しグループの一人だ。

小学校の頃は、あたし、咲、稔、和奈、そして結衣とつるんでいた。


PiPiPi... PiPiPi...


スカートの隠しポケットから響いてきたバイブ音。


…また、あいつなの?


そうっと、隠しポケットから、買ってもらったばかりのケータイを取り出した。

「誰から?」

稔が、やたらと相手を気にしてくる。

それが、どういう意味なのかは、まだ気づけなかったけど。


ケータイを開くと画面には「結衣」と表されていた。

結衣ゆいというのは、小学校の頃の同級生で、心友だった。

だけど、今は心友とは呼べないかもしれない。

なぜならー…結衣はあたしに、恋愛感情を抱き、性的対象で見ているからだ。

それを知ったのは、小学校の卒業式の日。

この日、あたしは結衣にあることを宣告されたのだったー…。





これは、あたしが小学校6年生の時の話。

この頃のあたしは、恋の味も知らない、どこにでもいる平凡な小学生だった。


クラス替えが終わり、席は丁度クラスの中心で、隣はよう

斜め前は結衣というメンバーで、あたしは、新しいクラスにワクワクしていた。

葉は、普通に仲がいいクラスメイトで、今年は運命にも、総合班まで陽とペアだった。

総合班は、遠足とか掃除とか、何かとある度に使われる班。

つまり、1年のほとんどのイベントを一緒に過ごす、ペアだという事だ。



去年の6月。夕べから雨が降り続いていて、朝からあたしは気分が沈んでいた。

しかもこの日は身体測定の日で、生理が来てから身長が伸びなくなったあたしには、憂鬱だった。

「今日はサッカー出来ないなぁ。」

あたしは窓の外の、水溜りのできたグラウンドを見て、そう呟いた。

その瞬間、ふらりと足がすくんで、あたしはバタンと倒れてしまった。

「先生、有希が!」

稔の甲高い声が廊下中に響く。

先生の足音が近づいてくると同時に、先生の冷たい手はあたしの額に触れ、

「冷や汗かいてるじゃない!」と先生は言った。

あたしは、そのまま廊下に倒れ込んで、はぁはぁ息を切らしながら白い天井を見つめた。


しばらくすると、誰かが、あたしの顔を覗き込んできた。

「…大丈夫かぁ?」

それは、葉だった。

「お前が元気ないなんて珍しいなー!むしろ静かでいいかも!」

「はぁっ!?酷すぎでしょ!」

あたしはむくっと上半身を起こし、陽に対抗しようとした。

すると、葉はニカッと歯を見せて笑って

「やっぱ、有希はそうじゃねーとな!」

「え…っ?」

「元気な方がお前らしいよ。そんな姿、有希には似合わねーからさ。」

葉はそう言って、親指を突き立てると、廊下を歩いて戻っていった。

心の奥深くで、何かが花開いた気がした。


その数日後のことだった。

結衣は、有希に相談がある、と屋上に連れ出した。

あたしは、結衣に連れられて、普段は使ってはいけない屋上へと上って行った。

「ねぇ…有希。」

「ん?どうした、結衣。何か、あったのか?」

こんな表情の結衣を初めてみたあたしは、話を聞いてやろうと、目を見ていった。

「あのさ…私、葉が好きなの。…応援、してくれるよね?」


心臓がいつもより大きく、早く、どくんと音を立てた気がした。

…結衣が、葉を…好き?

この瞬間“初恋は叶わない”という言葉が、身に染みて感じられた。


「…うん!当たり前じゃん!頑張れ、結衣!」

「!ありがとう、有希!私、頑張るね!」


結衣は嬉しそうに笑って、廊下を歩いていた。

あたしはその横顔を見るたび、胸がきゅうっと締め付けられる気がした。

…自分で決めた道なのに。

…応援、してあげなくちゃいけないのに。

あたしは、自分の気持ちを押し殺すことで、精一杯になっていた。


「ねぇっ!有希、葉を引き留めて欲しいんだけど、いいかなぁ?」

「…うん、いいよ。どうしたの?」

あたしが、問いかけると、結衣はニコニコ笑って雑誌のページを開いた。

「これ見て!好きな人の背中にハートを書くと、両想いになれるんだって!」

「そうか。じゃあ、あたし引き留めておくから、行って来いよ。」

あたしは、精一杯の笑顔で結衣の背中を押した。


よくある漫画に出てくる主人公は、いつもこんな気持ちだったのか。

だったら、前までは馬鹿にできた少女漫画も、意味のある物に思えてくる。

それぐらい、あたしの中にある葉への気持ちは、強くなっていった。


そして12月。クリスマスイブの2日前。

結衣は、親の事情で小学校卒業を機に、隣県への引っ越しが決まっていた。

引っ越す前に、どうしても葉を手にしたいと、結衣は考えていた。

「有希!お願い!この手紙を葉に渡してくれない?」

結衣の手に握られている手紙は、白い封筒で赤いハートのシールで留められていた。

「…何?これ。」

「あの…ね、ラブレターなの。私、告白しようと思って…。」

結衣は、顔を赤くして、もじもじしながら言った。


…無理だよ。渡せないよ。

もし、渡して、葉がOKしちゃったら、あたしの気持ちはどこへ行くの?

想いも伝えられずに、2人を見守るなんて、できないよ。


「…そっか、分かった!じゃあ、あたし渡しとくよ!」

「ありがと、有希!」


思いとは裏腹に、あたしはその手紙を受け取って、微笑んだ。

痛い、辛い、苦しい、…でも、これは自分で選んだ道。

どれもこれも、拒絶しようと思えばできた。

でもできなかったのは…あたし自身の心が弱いから?


だけど次の日、葉は結衣を振った。

「俺なんかより、もっとお似合いの奴がきっと現れるよ。」

そういって、結衣の手紙を返したそうだ。


結衣は泣かなかった。

だからあたしも、余計なことは言わなかった。


ううん、言わなかったんじゃない、言えなかったんだ。

…心の片隅で、安心している自分がいたから。


その日の帰り道、和奈にあたしはふいに問いかけられた。

「ねぇ、有希って葉のこと好きなんじゃない?」

もう、言ってしまいたかった。

それが大きな間違いだったのだけれど、言いたくてしょうがなかった。

「うん。葉のこと…好きだよ。」



「お前、葉のこと好きなんだってなぁ!」

クラス中に、そのことが広まっていた。

和奈に話して2日後。もう、そんなに広まっていたなんて。

それを聞いた結衣の顔は、酷く歪んでいて、あたしは見ていられなかった。

…酷いよ、和奈。

結衣にまで、話さなくったっていいじゃんか。

「おい、葉~!あんな男女に好かれるとか、災難だったなぁ!」

そう葉に言う男子を見て、あたしは内心「うるせぇな」と思った。

だけど、それよりも、葉の返事が気になって、あたしは黙っていた。

…あの雨の日の葉だったら、きっと…。


「…ったく、キモ過ぎて吐きそうなんだけど。俺、ホモじゃねーっつーの。」

「ギャハハハハ!葉、最高!」


…なに、それ。

葉まで、あたしのこと、そんな風に言うの?

あたし、男じゃないよ、女だよ。

どうして、そんな残酷なことが言えるの。


あぁ、そういえば、今日はクリスマスイブだったね。

悲劇のヒロインって、こういうことを言ったりするのかな。



その日から、あたしは葉と話すことも、目を合わすことすらもなかった。

勿論、結衣とも、一緒に居ることはなくなった。


だけど、あたしはそれ以上に、心の傷を癒そうと、必死になっていた。

すぐそばに、恐怖が待っているとも知らずに…。



「…有希。」

そしてとうとう、卒業する日がやってきた。

あの日から葉とも結衣とも、一度も言葉を交わしていない。

「有希」と呼ぶ声に振り向いたところには、まさかの結衣がいた。

「…結衣。」

「あのね、私ー…!」


そう言おうとしたところで、結衣はあたしの体を押し倒した。

皆の前で、先生の前で、親の前で。

「ちょっ…結衣!?」

口をガッと塞がれ、ボタンをぷちっと一つちぎられた。

「やっ…やめてよ!!」


あたしは、力一杯結衣を突き飛ばした。

「な、何する…の…?」

不思議と女らしい言葉遣いになってしまう。

すると、結衣は急に青ざめた顔をして、涙を流しながら「ごめん」と謝り始めた。

「え…結衣…?」

「ごめん、ごめん、ごめんね、本当にごめんね!でもね…卒業する前に言いたいことがあったの。私、あの日から、ずっと有希が好きだったの。自分の気持ち隠して、応援してくれてたんだって思うと、愛おしくなってしょうがないの。好き…好きなの…。」


なんて答えればいいか分からなくて、あたしは「ありがとう」とだけ答えた。

メアドと電話番号の交換を済ませると、あたしは、その場を去った。


…怖かった。

結衣が、怖かった。

女なのに、あたしを恋愛対象で見てるって事…?

その前に、あたしは恋愛どころか、性的対象なわけ…?




あたしは、その日、自分がどれだけ危険な状況に立たされているのかを、改めて感じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ