【中】
それから、何ヶ月かがたって僕は佐川先輩といることが多くなった。学校にいる大半は大体隣に先輩がいる。そのおかげか僕は最近あまり虐められないようになった。というかむしろ僕まで恐れられるようになったのは気のせいだろうか・・・。なんか避けられてる?そんなかんじだよ・・・。誰も近付かないってかんじ。それもまぁあの人の影響かな・・・・。それに、あの人って意外とやさしいんだ。怖いのは顔だけ・・・。睨まなきゃかっこいい人だと思うんだけどな・・・。でもやっぱり、あの人といると喧嘩に遭遇することもあるわけで・・・そういう場面になると僕はあの人の後ろに隠れるんだけど・・・怖いよ。殴られる痛さってわかってるから余計になんか怖い。でも、やっぱりたよりになるなぁなんておもったり・・・。だって、僕が委員会で遅くなっても待っててくれたり、今も少しいじめられる僕を助けてくれたり・・・。先輩の横にいるとすごく安心できるんだ。こんなの学校に通ってて初めてだよ。
「何笑ってんだ?」
そういえばいま、先輩と下校中だった・・・。
「な・・・なんでもないですよぉ?」
「へんなやつ。」
「へ・・・へんですか・・・。」
ちょっと落ち込む。なんでだろ・・・虐めてくる人に悪口言われ手もまたかぁ・・・って思うだけなのに・・・変とか言われただけでもちょっと落ち込むなぁ・・・。
「あ、僕今日病院行く日でした!!すみませんが、これで失礼します!!!」
「え・・・あ・・・あぁ・・・・。」
たたたっと、宏人は病院に向かって走っていく。
「ああやって走って転んでけがするんだからなぁ・・・ガキなんだから気をつけろっての・・・。」
そう言って笑った涼は、そのまま家へと帰っていく。そんな光景を見ていた人物たちがいたとも知らずに・・・。
「おい、あの佐川の連れ、さらってこい。」
「へい。」
数人が宏人が向かった方へと向かっていった。
ここどこだっけ?そうだ・・・たしか病院から出たら・・・男の人っちに取り囲まれちゃって・・・それで殴られて・・・気を失って・・・・。
「ん・・・・・ここ・・・どこ・・・?」
起きるとそこは薄暗い所。病院を出たのが5時くらいだったかな・・・。なんか埃っぽいけど・・・どこなんだろう・・・。しかも、なんか手首痛いし・・・って、なんか柱につながれてる!?鎖ぐるぐる巻かれてるし・・・痛いわけだ・・・。がしゃがしゃ手を動かしても取れる気配はない。
「よぉ、気分はどうだ?」
そこに入ってきたのはまばゆい金髪の男。いや、よく見ると歳はそんなに変わらないのかもしれない。それより、僕はこんな人見覚えがないんだけどな・・・。僕をいじめていた人たちの中にこんな人いなかった。うわ・・・なんかぞろぞろ5人くらい後ろから出てきたし・・・ちょっと怖いよ。さっき声をかけてきた金髪の青年がクイッと宏人のあごの下に手を入れて顔を上げさせる。
「なんでここにいんのかわかんねーって顔してんなぁ?」
「っ・・・・。」
怖いよ。すごい怖いよこの人やばいよぉ・・・・。思わず恐怖で目が潤む。それを見て金髪の青年がクククッと笑う。
「いいねぇ、その反応。いたぶりがいがあるってもんだ。」
「っ・・・僕に・・・何の用・・・?」
「お前はただのだしだ。」
「だし?」
「佐川を呼び出すためのなぁ!!」
「先輩?でも・・・・先輩が来るわけない・・・・。」
「そうかあ?これがあればどうだろうなぁ?」
そう言ってその男がちらつかせたのは、宏人の携帯。
「それ・・・僕の・・・・返して!!」
「こいつで、連絡すればあいつくるだろうなぁ?」
「やめて・・・なんでそんなことするの?」
「あいつむかつくんだよ。2年のくせに生意気言いやがって。最強の不良だと?ふざけんなよ?」
こわい。怖すぎるよこの人・・・・。先輩のこと言ってるのに、目が怖い。放ってる気配が怖すぎるよ・・・。うぇええええ・・・逃げ出したい。そんなことを思ってたら携帯を操作する音が聞こえてきた。先輩に電話する気なんだろうか・・・。助けてほしいけど・・・でも来たら先輩・・・どうなっちゃうんだろ・・・・。
そのころ佐川は自宅のマンションにいた。私服に着替えて夕飯まで仮眠をとる。夕飯と言ったって独り暮らしだからレトルトかなんかだが・・・。ウトウトし始めたところに携帯がブルブル震えた。
「ったく・・・誰だこんなときに・・・って、あいつ?こんな時間までまだ外にいたのか?」
家に帰ってるなら電話してくる必要ないだろう。というか、家にいて電話しなきゃいけない状況が思いつかない。枕から頭をあげて携帯を取り、再び横になってから通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『・・・・・・・・・・・・・・・。』
「・・・・・もしもし・・・おい?」
『くっくくく、俺はだれでしょう?』
それは絶対に宏人の声ではなかった。それを悟り、佐川は身体を起こす。自然と眉間にしわが入る。
「てめぇ、誰だ?なんで相沢の携帯持ってやがる?」
『俺が誰だかわかれば教えてやっても良いぜ?』
「ざけんな。いますぐ吐け。」
『おいおい、そんなこと言っていいのかなぁ?こっちにはこの携帯の持ち主がいるんだぜ?』
「チッ・・・きったねーまねしてんじゃねーぞ黒田。」
『お、俺の名前知ってんの?』
「むかつくくそ3年だなって覚えてただけだし。テメェ、なんで相沢さらってんだ?」
『お前を誘い出そうと思ってなぁ?お前むかつくから、直々に話してやろうと思ってさぁ。でもお前、普通に呼び出しても来ねーじゃん?だから、この子がいればくるかなってな。』
『だめです先輩・・・来ちゃだめ・・・・ぎゃ・・・・っく・・・げほっ・・・・けほ・・・。』
「相沢!?おい、なにしやがった!!」
『余計なことしゃべろうとしたから、黙らせただけだって。なに?声荒げるほどこの子大事?じゃ、早く来るんだなぁ?駅裏の廃工場だ。早く来ねーと、この子、俺が食っちまうぞ?』
「なっ・・・何考えてやがんだ!!わかったよ、今から行くから、そいつには手ぇ出すなよ?」
そう言って携帯を切った佐川はそのまま家を飛び出した。
切れた電話を折りたたんだ黒田は、再びくくっと笑った。その傍らで、先ほどお腹に蹴りをいれられてせき込んでいる宏人。今まで蹴られたり殴られたりした中でも一番痛いかもしれない。しかも、先輩がここに来てしまうという事が、頭を悩ませる。来たらどうなってしまうんだろう・・・。
「まだ痛むか?腹?」
「・・・・・・・・・・・。」
にやつきながら聞いてくるその男を宏人はにらんだ。精一杯のにらみだ。
「おおっこわ。でも、そう言う顔されると歪ませたくなるねぇ?」
「え・・・?」
「泣いてる顔とか可愛い感じするもんなぁ?あいつもそれ目当てでお前を傍に置いてるんだろ?だから、こんな傷だらけの痣だらけなんだよなぁ!!」
そう言って黒田は宏人のYシャツをはぎ取った。いじめを受けてまだ治りかけの傷やあざがさらけ出される。
「や・・・・・。」
「それ、全部あいつだろ?」
「ちが・・・・先輩はこんなことしないし・・・・僕を殴ったりなんか一度もしてない・・・。」
「あいつがそんなわけねーだろうが?どうせ、お前を安心させて油断した時を見計らってんだろ?そっからぼこるつもりなんだよ。」
「う・・・うそだ・・・・そんなわけ・・・・・。」
「ないって言えるほどお前はあいつのこと知ってんの?」
そこで、宏人は言葉に詰まる。確かに、なにも知らないと言えばそうだ。だけど、何故か違う気がするのも確かなのだ。
「今まで痛い思いしかしてこなかったんだろう?だったら、俺が気持ちいことしてやろうか?」
「え・・・・なにいって・・・・?」
すると、徐々に黒田が宏人の方に近付いてくる。やだ。怖いよ。だって、目が・・・いじめをしてくる人たちの目と同じなんだもん。怖い・・・やだ・・・いやだ・・・。ひんやりとした感覚が、宏人の肌に伝わってきた。黒田の手が、宏人の肌の上を滑る。そして、殴られて黒ずんでいたところをぐっと強く押す。
「いったい・・・やだ・・・いやだぁ!!」
さらに別のところにある痣も同じように押してくる。じんわりとした痛みが宏人に伝わってくる。そのたびに殴られた時の記憶が鮮明に蘇ってくる。やだ・・・いやだ・・・痛いよ・・・・先輩・・・・。
「せんぱ・・・・・さが・・・わせん・・ぱ・・・・・・・。」
頬を涙が伝う。どうしても浮かんでくるのは、頼れるあの人だけ・・・。
そんな時だった。廃工場の入口が大きな音を立てて開いた。そして、息を切らして現れたのは、先ほど宏人が思い浮かべた人の姿。
「相沢!!!」
「さ・・・がわ・・・先輩・・・・?」
「ずいぶん早く来たもんだなぁ?」
「てめぇ・・・・俺はともかくそいつは関係ないだろうが。」
「そうはいってもなぁ?この子が誘ってくんだから仕方ないだろう?」
「さ・・・誘ってなんかない・・・・。」
「黒田・・・お前やっぱむかつく。」
それから後の事はほんとに一瞬のような感じで、気がつくと先輩が傍にいて、僕らしかいなかった。先輩は少し息が上がってたみたいだけど、丁寧に僕の手を拘束している鎖をはずしてくれた。そして次の瞬間には僕は先輩の腕の中に包まれてた。
「せ・・・・せんぱ・・・・・・?」
「まじわりぃ・・・俺のせいで・・・・。」
「え・・・・え・・・?」
「野郎になにもされなかったか?」
「べ・・別に大したことは・・・・・ちょっと触られただけですし・・・痣を・・・。」
「触られた・・・・。」
宏人からは佐川の顔をうかがう事は出来ないが、その声は少し不満気味だった。
「せ・・・せんぱい?何か怒ってますか?ぼ・・・僕なんか・・・しました・・・?」
挙動不審にそう訊ねてくる宏人をさらに強く抱きしめる。
「相沢・・・俺のこと怖いか?」
「ふえ?怖くは・・・ないです・・・。」
「さっきの俺見てもか?」
さっきのというのは黒田達をぼこしてた時のことだ。
「それは・・・ちょっと怖いですけど・・・でも・・・助けてくれましたから・・・・。」
「俺、お前が誰かほかの奴に触られんの嫌だ。」
「え?」
「お前が他の誰かに傷つけられんのもいやだ。もちろん俺もお前を傷つけたりはしない。」
「先輩?」
「俺、お前のことが・・・・好きだ。」
その言葉に、僕の心臓は大きく跳ね上がった。
次回はもちろん【下】となっております。