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08:些細だけど大きな事

もう、四月も終わりを迎えている。長月さんの助言から、野沢さんが求人募集要項を練り直し、二人の社員候補生が雇われた。

二人とも女性だけど、仕事の飲み込みが早くて助かる!と、野沢さんは嬉々としていた。


「なーんか、志摩くんの表情が生き生きしてる」

「……だな」

「そうですか?」


長月さんと休憩室で休んでいたら、新人さんより先に休憩をもらった野沢さん。僕の顔をじぃ〜っと凝視した後にそんな言葉を口にすれば、長月さんも短く続く。


「ま、いい事じゃないっすか?変に暗〜い顔されてるより」

「ってか、何か良い事でもあった?」

「……そうですね。良い事っていうより、吹っ切れた感じです」

「「?」」




外に出れば、服から露出した手や顔に受ける風。

昔は心地良いと思う事が無かった。けど、今はこうして心地良いと感じている。それはきっと、心の中に本当の《ゆとり》が出来たからだろう……。










「よっしゃあ、生追加〜っ!!もちろん大ジョッキよろしく〜!!!!」

「の、野沢さん。ほどほどに……」

「(だ、だから野沢さん誘うのは止めとけつったんだよ……)」

「聞こえてんぞ〜な・が・つ・き♪」

「ヒッ!?」


仕事を終えた僕達(僕・長月さん・野沢さん)は、水上さんの働いている居酒屋にいる。そして店に来て30分もしないうちに、野沢さんの絡み酒が始まり、1時間経った今、わりとお酒に強い長月さんが、べろべろに酔った野沢さんに絡まれているところ。


「ごめんね、うるさくして」

「あ、ううん。いつもの事だし、お客さんも慣れてるから!!」


ビールを持って来た水上さんは、苦笑混じりに言う。というか、いつもなんだ……。


「でも、来てくれて嬉しい。もう来てくれないと思ったから」

「……ごめんね」


きっと、全てがいたずらのような偶然だったのかもしれない。偶然の重なった結果、僕は四年という時間を誤解したままだったし、水上さんもまた、苦しんでいたんだ。

だから素直に言えた「ごめんね」って言葉。

きっと、伝わったんだと思ったのは……


「っうん!あ、あはっ……ご、ごめんね!」


にっこりと笑った水上さんの頬に伝う、一筋の雫。

僕の頑なな態度のせいで、彼女は罪悪感に苛まれていたのだ。


「こんな事……言える立場じゃないけど、もう一度僕の「た、助けて!!」せんか?」


肝心な言葉を遮ったのは、長月さんの悲鳴……


「長月くん!キミがぜーんぶ悪いんだーっ!!」


ガッチリと長月さんの首に野沢さんの腕が食い込んでます。っていうより、やばいような……


「お、墜ち……」

「の、野沢さん!?落ち着いてっ!!」


その後は長月さんから何とか野沢さんを引きはがし、長月さんは一命(?)を取り留めた。


「長月のばかぁ……」

「ひ、人を殺しかけといてバカ呼ばわりかよ!?」


ゲホゲホッと咳をし涙目の長月さん。だけど野沢さんには聞こえていない。だって野沢さん、そりゃもう意地悪したくなる程に、気持ち良さそうに眠っていたから。










居酒屋を出て駐車場に向かう途中、水上さんは見送りだと言って着いて来た。


「……さっきは大変だったからうやむやになっちゃったけど、私ももう一度、志摩くんの友達になりたい……です」










あれだけの騒ぎの中でも、僕の《言葉》は水上さんに届いていたようだった。

残すはあと一話となりました。ここまでお付き合い頂いた皆様ヘ。じれじれで拙い文章にお付き合い下さって、本当にありがとうございます!このまま最後までお付き合いをお願いします!!

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