06:少しだけ、けれど変わった春
三年ぶりに、二度の再会。本来なら、それが誰であろうと、たとえ相手が苦手な部類であろうと、時間が何かを変えてくれる………そう思っていた。
実際は、過去に触れる事が怖くて、真正面から向き合う事も出来なくて、ただただ、相手を突き放した僕。情けないとは思ったけど、未だ癒えてない《傷痕》を知る事もできた。
そんな再会から一月が流れ、満開の桜も散り始めた四月の半ば。
僕のバイト先の嵯峨美浦運輸では、業務体制を二体制(午前8時〜午後5時・午後1時〜午後10時)に変更する事が決まり、それに伴って社員を増やす事になった。
社員といっても、後制(午後1時〜午後10時)のバイトをしている僕と長月さんがバイトから昇格しただけだけど。
最初は三ヶ月間の研修を受けなきゃいけないけど、二人とも現場作業に元々着手していたという事もあって、研修はなかった。
まぁ三ヶ月間は『契約社員』扱いだけど。
仕事内容も、バイトでやってきた事と変わりないけど、加えて伝票整理等のちょっとした事務作業が増えた。
後制担当の事務員が野沢さんしかいないからである。前制の事務員は、パートの田辺さん(子持ち)と事務長で事足りるけど、実際に忙しいのは後制の方。
野沢さんは後制の事務責任者で、係長に昇格。とはいえ、野沢さん一人に事務の全てを任せるのはあまりに酷だから、長月さんと話しあい、新しい事務員が来るまでの間は、僕達がフォローする事になった。
「係長。伝票のデータ化と流通過程のグラフできました」
「係長はやめて。ってか、もう出来たの?」
仕分けを終えて、午後の荷物待ち。その間に事務所でターミナルに搬入されてきた荷物の伝票をパソコンに取り込み、グラフと表でまとめておいた。《係長》という言葉に慣れてないのか、野沢さんは照れ隠しに僕の肩をバシバシ叩く。ってか痛い。
とりあえず出来たデータをプリントして差し出すと、野沢さんは苦笑い。
「……志摩くんには、教える事無くなったなぁ……あ!そういえば、前の職場って事務職がメインだって言ってたっけ!?」
そう。野沢さんの言う通りだ。前は出版社に勤めていて、入社当日からパソコンを使っての仕事が多く、雑用やこの手の事務作業は慣れていた。もっとも、ようやく慣れ始めた頃には会社が……って事になったけど。
「うん、この調子でお願いね」
「そういえば、事務員の募集ってどうなってるんですか?」
この不景気で、求人倍率は高い。この会社にも、それなりに面接に来る人は多いはず。
「…う〜ん…やっぱり時間帯に関係あるのかわからないけど、あんまりね。それに、二人くらい面接には来てくれたんだけど……」
と、野沢さんは顔をしかめた。
「正直、期待出来なくてねぇ……一人は子持ちなんだけど、まだまだ手のかかる歳頃だし、もう一人は、なんか覇気が無くて」
「……いっそ来年卒業予定の大学生とか、どうっすか?今はバイト扱いで、卒業後にそのまま社員になれば、研修を受ける必要もないし」
今までコピー機を相手に悪戦苦闘していた長月さんが口を挟む。
「……いや、まあ素人考えっすけど」
「……長月くん……」
「え、いや、あくまで俺の個人的な感想だから…」
ガターン!!と椅子から立ち上がった野沢さんの顔は、髪に隠れて見えない。ってか声色の低さに、あんまり動じない長月さんが、ビビってる。ある意味レア。
「それよそれ!機械オンチの割に良い事言うじゃない!!下手に研修期間で無駄金払うよりも、最初にバイトとして雇っておけば、普通の新規社員よりもお得!しかも即応可能!!まさに一石二鳥だわっ!!」
「機械オンチは余計だ」
「まぁまぁ良いじゃない、細かい事は気にしない!トラックも帰って来た事だし、二人はターミナルをよろしく!!」
長月さんから何かヒントを得たようで、その後の野沢さんはご機嫌だった。
僕らもターミナルに集められた商品を積み終え、この日も定時までの時間を、事務所の手伝いに廻した。