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04:彼が私を避ける理由・前

過去編の第一部。視点は水上沙奈です。

ふとしたきっかけで、私は彼を裏切った。


「つーか、あんなネクラありえないし!」


放課後、わりと仲の良い友達との談笑中に、話題は彼、志摩渚の事になった。

志摩くんとは、わりかし仲が良くて意外と話も合う。別に好きだという感情はなくて、ただの《お友達》の関係だった。見た目はネクラっぽいけど、それは彼が大人しくて、あまり周りのクラスメイトに話しかける所を見た事がない友人達の、勝手な想像でしかない。よくよく見れば、小動物的な可愛さもある。


「てか、志摩って絶対沙奈に気があるよね!」

「はぁ?やめてよ〜!」

「だってさ、志摩が女子に話しかけるのって、沙奈だけじゃん!」


まぁ、友人の言葉に思い当たるふしもある。たしかに志摩くんは、クラスの女子の中じゃ、私としか喋った事がない……と思う。

別に悪い気もしなかったし、志摩くんと喋るといっても、だいたい話題を振るのは私の方。そう考えれば、志摩くんから話しかけてきたのって、あったっけ?


「付き合っちゃえば?」

「はぁ?」


唐突な友人の言葉に、私は眉をひそめた。

思えば、それが発端だった。ニヤニヤと笑う彼女達にも腹が立ったが、それ以上に恥ずかしかった。

好きという感情はなくても、志摩くんは周りが思っているよりも、それなりの魅力がある。だからこそ、ちょっと想像して、最低な言葉を吐いたんだ……。


「つーか、あんなネクラありえないし!」


その場はそこで友人達と笑って終わった。




翌日、おはようの挨拶とともに教室に入ってみれば、何時もと変わらない挨拶が返ってくる。

そこでふと、私の二つ前の席に座る志摩くんと目が合った。彼は同じクラスの男子と話していて、私の声に反応したのか、たまたま顔を上げたのだ。


「おはよ!」

「…お…はよ」


けど、彼はかすれた声で小さく挨拶をすると、すぐに反対方向、つまり教卓側の男子とお喋りを再開していた。

少しだけ、彼の元気がないとは思った私だったけど、すぐにいつもの友人らと談笑。その日は、そんな感じだった。

違和感を覚え始めたのは、あの日の会話から少し経った日。

その日は化学の実験で、化学室にいた私達。くじ運が良いのか悪いのか、化学室での席替えで私の班は、所謂オタクと呼ばれる男子の巣窟だった。女子は女子で、あまり会話をした事のないメンバー。

オタクという人種は嫌いじゃないが、話題にはついていけないし、他の女子も所謂文学少女。中々会話に華が咲かない。その中で志摩くんと一緒だというのは、かなりの救い。

会話のキャッチボールは成立するし、それなりに盛り上がる。

けど、その時はあまり話かけられなかった。いつもならオタクメンバーの団体から離れ、隅の方から実験を観察する志摩くんが、この時から実験台の中心で、他の人と会話をしながら実験を進めていた。

そんなわけで、意外と手持ち無沙汰。実験を隅の方で見ながら、手順や結果をノートに写すだけの私。

たまにはこんな日もあるか、なんて思ってたけど、今思えば、この日から志摩くんとの会話も少なくなっていった。




それは、志摩くんとあまり喋らなくなって一ヶ月、進路希望調査書の締め切りの日だった。

私は今通っている大学への進学を希望し、紙を提出。残っていたのは数人で、その中に志摩くんもいた。


「へぇ、志摩くんって就職?」


何気なく覗き込んだ彼の進路希望の欄には、丁寧な字で《就職》と書いてあった。ただ………


彼は黙って紙を手に隠し、教室を出ていった。(あ、あれ?私、避けられてる?)


「水上、ちょっと……」


呆然とした私を呼んだのは、志摩くんと仲の良い月島くん。

彼は四つ年上のお姉様系彼女を持つ、中々のイケメンであり、自称(通称?)家政夫男子だ。

そんな月島くんが小声で私を呼ぶあたり、何かしらの事だろう。手招きされて、私は教室を出た。


「どしたの?」

「……あ、いや……渚の事なんだけど……」


渚……志摩くんの事である。けど、いつもの月島くんと違い、あまり言いにくそうで、歯切れが悪い。


「少し前だけど、水上達が放課後になんか話してる時の事、覚えてるか?」

「放課後?」


放課後の事といえば、最近は残る事もなく、真っすぐに帰っていた私。よくよく思い出せば、一ヶ月ちょっと前に、三人くらいの友達と放課後トークに華を咲かせた記憶がある。


「…ああ、思い出した!けど、それがどしたの?」

「……あの日さ、俺が志摩と帰ってる途中、玄関前で志摩が教室に忘れ物したんだよ。んで、俺と志摩が教室に入ろうと思った時に、水上達の声が聞こえてさ……………その、聞いちまったんだよ。水上が志摩の事でからかわれた時の言葉を……」


『つーか、あんなネクラありえないし!』


月島くんの話の中で、ほんの些細で何気なく口走った言葉が、頭の中に浮かび上がる。


「え、いや、あれは…」

「……最近、志摩が水上の事を避けてるって思った事、ないか?」

「……ある……」


思えばあの日の翌日から、志摩くんの態度がよそよそしくなった。

そんな事を考える私に、月島くんは小さく呟いた。


「……志摩ってさ、本気で水上の事が好きだったんだよ。けど、あの言葉だろ……正直、俺は水上にムカついた。けど、あいつって優しいだろ?ムカついて教室に乗り込もうとした俺に言ったんだよ……『僕は大丈夫だから、月島が怒ってくれただけで充分だから』って。だから、ホントはこんな事を言うつもりもなかった………けど、最近のお前ら見てると苛々すんだよ。水上に話しかけられた後の志摩の顔、知ってるか?悲しそうな顔して、俺の顔見て無理して笑うんだよ………あいつは俺にとっちゃ親友だ。だからもう、志摩に関わんな……」


この時程、私は自分を最低な人間だと思った事はない。月島くんに言われて気付いた、《言葉の重さ》と《後悔》。


「…ごめんなさい…」

「謝る相手は、俺じゃないだろ……」


志摩くんの耳に届かない謝罪を拾った月島くんの言葉は、とても痛かった………。

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