02:再会に戸惑って…
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「久しぶり!」
振り返った先に、雰囲気の変わった《知り合い》がいた。
栗色に染められた髪は、明るい性格だったその人に良く似合っている。
「…こんばんは……水上さん…」
水上沙奈。僕が初めて、好きになった元クラスメイトだった。
「あれ、ちょっと雰囲気変わったねっ!てか、釣りするんだ!?意外!」
僕の顔と雑誌を交互に見ながら、無邪気な顔をするその人。
きっと僕が、かつて彼女が発した言葉を聞いていなければ……あんな事を知らなければ、わりとすんなり会話も出来たかもしれない。『つーか、あんなネクラありえないし!』
彼女の姿が視界に入れば入る程、あの言葉が、頭の中に小霊する。
「どしたの?なんか顔色悪いよ?大丈夫?」
「だ、大丈夫。こんな時間だから帰るね、それじゃ!」
「え?あ……」
雑誌を閉じ、携帯を見る振りをして店を出た僕。我ながら情けないと思う。
三年前、高校生だったあの頃の僕のまま……。
また、僕は逃げた。怖かった、辛かった。
結局、なんら変わらない。僕はまだ、臆病で、気弱な小心者。
翌日は雨。土曜日。
仕事は、あまり忙しくない。というのも、取引先の相手(会社)が休みだから、荷物も多くないのだ。
とはいえ、収集先の会社はこちらの都合に合わせてくれるなんて事もなく、指定時間帯にならないと、荷物は来ない。かといって、帰れるなんて事もない。
早い話がヒマなのだ。
「長月さん、はい!」
「お、サンキュ!」
というわけで、バイトの先輩である長月さんと、荷物が来るまで休憩中である。長月さんに差し出したのは無糖の缶コーヒーで、会社に置いてある自販機では、長月さんはこれしか飲まない。
「……志摩、昨日なんかあったか?」
不意に、缶から口を離した長月さんは俺を見た。
「なんか、今日のお前は妙に変だった。急に張り切って仕事を始めたと思ったら、ボーッとしたり、溜息ついたり」
長月さんの勘が鋭いのか、それとも僕の態度が周りに分かってしまいやすいのか、多分後者の方かもしれないが、また長月さんに気を遣わせていたらしい。
「話して楽になるなら、聞いてやる」
姉や兄のいない僕にとって、長月さんは3つしか年が離れていないせいか、なんでも相談出来る兄のような存在。最初こそ躊躇ったけど、昨日の夜の出来事を話した。
「……そうか」
「結局、何にも変わってないんだなぁって思ったんです。情けないですよね、ははっ……」
愚痴っぽい言葉になっても、長月さんは何も言わない。けど、少しだけスッキリしたように感じた。
「…まぁ、そんなすぐに変わるもんじゃないんじゃないか?志摩がその女の子に会ったのだって、急過ぎてビックリしたんだろ」
缶コーヒー片手に、いつの間にかタバコを吸う長月さんは、煙をプカァと吐きながら言う。
「ま、そんなに気にする事じゃねえよ。少なくとも、俺にはお前が一年前よりまともになったように見えるけどな」
「コーヒーごっそさん、話聞いてやったんだから、コーヒー代チャラにしてくれよ!」なんて冗談混じりに長月さんは笑った。
その後すぐに収集先からトラックが戻り、最後の荷物を仕分け終えた僕達は、仕事を終えた。
「飲みにですか?」
仕事を終えた僕に、居酒屋への誘い。発起人は事務員兼経理の野沢愛華さん。
ショートカットがお似合いの美人さんで、年は長月さんと同じ24歳。「ま〜たフラれたんすか?」
「うっさい!」
長月さんの言葉に反応するあたり、どうやらフラれたらしい。そもそも、発起人が女性というのはどうだろうか?
「俺はカミさんにどやされっからパス!」
一人脱落。
「私は…遠慮しとくわ」
二人脱落。
「あ、俺彼女とデート入ってんだ!悪いねぇ、今回は……」
三人脱落。
「今日土曜だろ、悪いが俺もパスしときます」
長月さんも脱落。この空間(事務室)にいるのは、全部で6人。つまり、返事をしていないのは僕だけ。
「あ〜、じゃあ僕は…」
「断るとか言わないわよねぇ?こーんな美人のお誘いを無下にして、一人で居酒屋に行かせるとかないよねぇ?」
すっごいタチが悪い。普段あまり話さない分、クールなイメージから想像出来ない威圧感と執拗さに、
「…ご、ご一緒させていただきます…」
敗北しました。
その後、帰り間際に長月さんが「気をつけろよ」という意味深な言葉を呟き、他の社員さんからは、同情気味に肩を叩かれ、僕に不安が募ったのは、言うまでもなかった。