01:何気なかったその日
すみません、設定に不備があったので修正しました(謝)
僕の名前は、志摩渚。高校卒業後に就職した会社が倒産し、不況の煽りをくらって、就職浪人中の21歳。現在はフリーター。
かつては出版会社でパソコンと睨めっこしていた仕事から一転し、現在は運送会社でピッキング(荷物の仕分け)作業を主とするバイト。当然重労働も多々。
慣れない作業に戸惑い、先輩社員の人から怒鳴られる日々で、弱音を吐いて辞めたくなった時もあった。
そんな僕に声をかけてくれたのが、バイトの先輩である長月静次さん。
(辞めたいなら辞めてもいい。俺は止めない)
長月さんに飲みに誘われた時、開口一番に言われた言葉。
(ここのバイトはキツい。俺も辞めたいと思った事はある。けど、辞めてしまえば俺は負け犬、逃げたくないから、俺は辞めなかった)
普段は仕事以外の事なんか話さない長月さんが、僕に教えてくれた言葉。
(別に、俺の考えを押し付けるつもりはない。ただ、何となくお前に言っておいたほうがいいと思っただけだ)
ジョッキに残ったビールを飲み干した長月さんは、そう言うと先に帰ってしまった。
そんなきっかけがあったからこそ、僕は辞めなかったのかもしれない。
バイトを始めて一年、未だ就職のめどはついていないけど、何となく心にゆとりが出来たように思う。
春間近の、三月の初め。食品(生鮮品以外のレトルトや嗜好品・菓子類)から農作業に使うビニールのロールまで、中小企業でありながらなんでも運ぶこの会社にも、季節柄とも言える新入生用の学業用具が増えてくる季節がやって来た。
作業的には、他の荷物が減る分、ある意味楽でもある。この日もまた、これといった問題も無く、午後1時から始まるバイトも、7時過ぎには全行程が終了。
「お疲れ様でした!」
なんて声をかけてみて、自分の声が少し大きかった事に心の中で苦笑する。
「お疲れ、ほれ」
「あ、ありがとうございます!」
僕より少し遅く事務所に入って来た長月さんから缶コーヒーを貰い、礼を言って外に出れば、首筋に触れる冷たい風。
「っ寒…!」
ちょっぴり小走りで駐車場に向かい車に乗れば、ハンドルもヒヤリと冷たい。
エンジンをかけて車を走らせたのだが、素直に帰る気にもなれず、とりあえず近くのパチンコ屋ヘ。
あまりギャンブルに好感が持てない僕。それでもたまに寄ってしまうのは、独り暮らしの寂しさからかもしれない。
店に入って思うのは、大音量の音楽や電子音。それとタバコの臭い。
不快ではあるが、慣れてしまえば気にもならない。月に一度、来るか来ないかの僕が《通い慣れた》なんて言うのはおかしいかもしれないが、店員さんの出入りがあまり激しくないせいか、顔なじみになった人もいる。今回もまた、愛想の良い若い男の店員さんは僕を見つけ、「一ヶ月ぶりですね!」などと笑う。
はてさて、とりあえず座ったのは業界でも有名な○物語。CMでもよくやっている機種を前に、のんびりと打ち始める。
で、結果は………とりあえず一万円程度の勝ち。
だけど、僕にとってはあまり勝ち負けにはこだわらない。常にパチンコで使うお金は一定金額で、独り暮らしに差し障りのない額に決めている。
世の中には《パチンコ中毒》なる言葉もあって、一種のギャンブル狂の事らしい。尤もそれは、金に貪欲な遊び好きな人にみられる傾向であって、時間潰しとしか考えていない僕は、そんな人の気持ちはわからないけど。
まぁ勝った事は素直に嬉しいとして、次に寄ったのは24時間営業の本屋。最近まで多忙だった僕の唯一の趣味が《魚釣り》。今回寄ったのは他でもない。そろそろ肉体的にも時間的にもゆとりが出てきたし、釣り雑誌で情報を!ていうところだ。
ちょっとした余談だが、バイト先の社員さんで釣りをする人は多い。
長月さんに飲みに誘われた後日、社員同士の何気ない会話の中で出てきた《釣り》という単語に、思わず口を挟んでしまって以来、徐々に打ち解けていった記憶がある。
苦手だと思っていた気難しそうな人でも、思い切って自分から話しかけてみれば、意外と会話に共通点があったり。
結局、本質を見ずに勝手に苦手だと思い込んでいた自分は、本当に小心者だと実感したわけだけど。
そんな話はさておき、趣味のコーナーに向かってみて、自分のお目当ての雑誌で情報収集。
所詮素人の釣りだから、磯や船なんてものじゃなく、気軽に防波堤から楽しめる釣り場を探していた僕。
それなりの情報を目にし、読んでいた矢先に肩を叩かれた。