9.連休最終日は課題とともに
ゴールデンウィーク最終日。
今日は我が家に新村と萩原が来ての宿題片付けである。もっと早くしろ?やだね!
「俺古典やるわ」
鞄の中から課題と必携を取り出す。各自得意科目をやって写し合おう作戦である。
「じゃあオレ英語」
萩原が課題と電子辞書を取り出した横で、新村が腕を組む。
「えーそしたら俺は・・・現文」
「いや、数学あんだろ。現文なんか頼らんでも出来るわ」
「ちっ。お前ら一番嫌なもの残すなよなー」
だって嫌なんだもの。
黙々と課題をこなし、流石に飽きてきた頃、萩原が口を開いた。
「オレさー、去年円藤さんの噂を多々耳にしたんだけど、あれって実話?」
「あいつは噂が多すぎる。どれの事?」
「痴漢を鮮やかに撃退した。中学の修学旅行でナンパとスカウトされまくった。ストーカー男がいつの間にか存在ごと消滅した。蕾に微笑んだら花が開いた等々」
「最後のなんだそれ」
「信者の噂。で?どうなのさ」
「最後の以外は・・・まあ、大体合ってる。」
「へぇ」
「確か、電車で痴漢に遭って、そいつの肩を外して現行犯逮捕。修学旅行のは班行動の時にされてたし、ストーカーは・・・生きてはいると思うよ多分。」
「うわ~なんか噂より怖くなった。」
怖いよ。痴漢は、俺はその場にいなかったから後から聞いた話だけど、すんげえ良い笑顔で恐ろしい言葉を言ったらしいし、ナンパの断り方も手酷かった。ストーカーは・・・
二年前、流石の満も困るくらいのストーカーが出現した。盗撮された写真が毎日毎日郵便受けに届いて、後半には背中が寒くなるような手紙付きだった。警察に届けてみても巡回が増えるくらいで、どうにもならずに囮作戦を決行することになったのだ。
それまでも俺は一緒に帰っていたのだが、その日から満と腕を組んで下校した。ラブラブカップル嫉妬大作戦(命名月子)である。
翌日、俺宛てに脅迫文が届いた。翌々日、家の前に仏花が供えられていた。翌々々日、鶏の死骸が置かれていた。そしてついに、奴は現れたのである。
下校中の俺と満。突進してきた発狂男。光るナイフ。そして―――そいつは和兄に蹴り倒された。
この作戦をするに当たって、後方に和兄と月姉を配置していたのだ。
拳と脚で散々に脅されたそいつはその場にへたりこみ、最後ににやりと笑った月姉に、妙な色の液体を無理矢理飲ませられていた・・・。奴の顔は真っ青。俺の顔も真っ青。
その後そいつは走って逃げて行き、その後も出没していないからどうなったかは分からない。月姉が殺人なんかしないって信じてる!
・・・あそこは三兄妹そろった時が、一番怖い。
「ファンクラブもあるらしいけど・・・」
「あー、なんか地下組織っぽいんだよね。それに満の成せる業か、牽制し合うことが無いんだよ。だから平和。傍目にはあることも感じさせないし。恋愛までは行かずともお慕いしております的な人達の集まり。」
だから圧倒的に女子が多い。
「まさしく高嶺の花だね~」
「本当凄いんだな、円藤さんて。まあ、あの美貌で成績優秀スポーツ万能しかも性格も良いから当然っちゃあ当然か。」
「性格が良いんじゃない。イイ性格してるんだよ・・・。」
「んー、でも誰からも嫌われてないし~」
そうですね。
満は努力している部分もあるし、正々堂々と胸を張って生きているからか、妬む人は見たこと無いかも。恥ずかしくなるもんな。
俺?ええ、妬んで即効恥入った経験はありますよ。ちっちゃい時。嫉妬心てもう嫌。
大抵は嫉妬するより先に自分に対して諦めが来るんですけどね。ははっ。
◆
「てか、古文量多ッ」
机につっぷした俺。もうやだ。やってもやっても終わらない。
「しょっぱなからこの量じゃ先が思いやられるな~」
たは~、と萩原が俺のノートを眺めながら言う。
問題集を解くのはまだ良い・・・。ただ、問題集の復習と、授業の予習のやりかたが細かくて時間取られるんだ・・・。
「担任だから、気ぃ抜けねえしな・・・」
新村の言葉に、俺達はうんうん肯く。
「お前ら感謝しろよー」
「「あざーっす」」
その軽い感謝の言葉を受け、俺は再びペンを走らせた。
先生!嫌いじゃないけど嫌いになっちゃいそう!
なんやかんやでまだ明るいうちに課題は終わり、男が集まってやることと言ったら決まってるだろ?
ゲームだよ!
「おっしゃあ、7連鎖~」
「おー、すげー」
「あっ!おじゃまぷよはいらん!!」
はい、みなさん大好き落ち物ゲームのあれですね!
頭を使った後だと脳みそが柔らかくなっているのか、大分連鎖しやすいように思います。
八人グループ対戦。コンピューター五人。コンピューター強過ぎ。
「うあー先生いるよ・・・俺、先生と相性悪いんだよなあ」
「勝てる!今度こそ勝てるぞ!」
「あっ、ちょっ、・・・あぁ」
日が落ちて部屋が暗くなったのに気付くまで続いたそれは、圧倒的にコンピューターの方が勝ちが多かった・・・。
◆
二人が帰った後の我が家では、親父が飯を食ってから戻るために、いつもより早めの夕食を迎えた。
「なんかなー、あんまり遊べなかったなあ」
「道場行ったじゃねーか」
遊びでは無かったが。まじきつかった。
「一回だけだろ。しかしこの煮物美味いな」
「ありがと」
褒められて微笑む母。
うむ、今日の料理はハズレが無いな。
「お前はちゃんと、体力落ちない様に基礎連だけでも続けろよー?」
「へいへい」
確かにね、俺も最近だらけてたとは思うので、ちょっとは頑張りますか。ちょっとはね。
他にもぐだぐだ言って、親父は母さんの作ったお惣菜のタッパーを大量に持つと、すげースピードを出して赴任先へと戻って行った。捕まるんじゃないか、あれ。
ま、嵐は過ぎにけり。平穏な朝が戻って来るぞ。
・・・結局、瞼の裏で落ちてくる奴らを連鎖するのに忙しくて、翌朝寝坊しかけました。
満は美人という設定なのに、光太郎視点だと日常と化していてなかなか書けないもどかしさ。