8.休みの日は休みたい
前話に少し書き足しました。出来ればご覧ください。
昨日に引き続き、今日も布団を剥がされた。
「光太郎、道場行くぞ!」
「・・・ぅう」
御父上、今何時でしょうか。まだ布団の外は薄暗いように感じます。
「ほらさっさと起きろー」
「休みなのに・・・」
「休みだからだろうが。久々に身体動かしたいからさー、付き合えよー。あ、和人と満ちゃんも誘おうぜ。」
「うげ、明日動けなくなっても知らねえぞ。」
「そん時は母さんとのんびりするから良いもんね。」
良い大人がもんとかキモ。まあ、親父が帰って来ると聞いてから、道場へ一回は行く事になると思っていたからこれ以上は反対しない。
俺は枕元に置いていたケータイを開くと、早朝だからと言って躊躇いもせず満に誘いの電話をかけた。普段からの迷惑を考えたらお釣りがくる程度さ。
しかし、俺の期待(電話で起こされて不機嫌な満)を裏切って、コール一回で爽やかな声が聞こえてきた。
『おはよう』
「・・・おはよう。なんで起きてるの?」
『私と和兄が朝のストレッチを欠かしたことがあって?』
朝も早くからこいつらは・・・。健康的な日課だなおい!
「あのさ、今日暇?親父が道場行こうって言ってるんだけど」
『行く行く。て言うか、元おじさん帰って来てるなら道場行くと思ってたし』
ブルータス、お前もか。・・・ちょっと違うか。
俺、満、和兄、親父の四人は、準備を済ませるとすぐに表に集まった。・・・てか、俺が一番遅かったんだけども。
「和兄良かったの?折角の休日」
「勉強漬けで、気分転換したかったからなー」
さいですか。お疲れ様です。
「元おじさん、その包み何?」
満が指示したのは、親父が持つ道着の他の風呂敷包み。なんだか重そうだ。
「ん?ああ、握り飯。軽く練習したら朝飯だー」
あんたは何時から起きていたんだ。
準備運動代わりにランニングをして到着した道場は、十年間通った柔道場である。
ここの老師範がまだ若かりし頃子どもだった親父が通っていて、老師範の息子、今の師範とは幼馴染なんだそうだ。それで俺が三歳の時に初めて連れてこられたのだが、その時好奇心で着いてきた和兄と満も一緒に、小学校を卒業するまで通った。中学にあがり辞めてからも、今日みたいに親父に連れられたり満に連れられたりして、たまに稽古をつけてもらいには来ている。
十年間通って、俺はそこそこ技を掛けるのが上手くなった程度だが、満と和兄はとても強くなった。親父に至っては論外だ。年の功なんてもんじゃない。奴は人間じゃないんだ。満と和兄は華麗な投げ技を得意とするが、親父は寝技でがっしり固めてくる。あれから逃れるなんてマジ無理。
「力ー!おはよー!道場貸せー!」
親父が突然、道場の横に建っている師範の住居の玄関で大声を出した。吃驚して止めることもできなかった。本当だよ!
「ちか」
「うるっせええええ!ご近所迷惑だ馬鹿!」
おでこに青筋をひくひくさせて師範登場。
「で、道場使わして」
「ふざけんな馬鹿。突然来襲して何言ってんだ馬鹿。」
あー、やっぱり電話も何もしていないんですね、この馬鹿親父は。
「俺と力の仲じゃんかー。ほら、愛弟子三人も連れてきてやったし。」
「あ?おお、三人とも久しぶりだな。ちゃんと鍛えてたか?」
額から青筋を取り去って、師範はこちらに笑顔を向ける。・・・やめてっ、鍛えてないからこっち見ないで!
とりあえず、三人で師範に挨拶。挨拶は基本よ?
「師範~、私と和兄は大丈夫なんだけど、光太郎が最近だらけてるのよ」
「あ~?本当か光太郎?」
満~、なんで言っちゃうかな~!
「本当本当。だから師範!光太郎鍛えるためにも使わせて!」
「ちっ、しゃあねえなあ。準備して待ってろ。」
なんで満ちゃんの言う事だと素直に聞くんだとぶつぶつ言う親父と共に、俺たちは道着に着替えると受け身の練習を始めた。
「満お姉ちゃん、久しぶり~!」
「桜ちゃん」
道場に顔を出したのは力の娘の桜、ショートカットの可愛い中学三年生だ。
「満お姉ちゃん私と組んでくれる?」
「こちらこそお願いするわ。光太郎は師範と組むし、そうしたら和兄は元おじさんとでしょ?」
決定か・・・。明日動けなくなるのは、俺だったようだな。
親父が空中に舞い、桜ちゃんが舞い、和兄が固められ、満が舞う。乱取りで互いに技を掛け合い、稽古だと言うのに形は美しい。
そんな中俺はと言うと。
「はい、残り二十回!」
「ふぎぎ」
師範に腕立てをさせられていた。
因みに、腹筋背筋腕立て腿上げ各五十回コースである。怠けていた身体には効きます隊長!
筋トレを終わらせた俺は、次は師範と乱取り。というか稽古。師範が「背負い投げ!」とか言うのでその通りに投げる。一通り投げさせられてから、今度こそ師範も攻めてきた。
「左が甘いっ」ダンッ
「隙を見せるんじゃないっ」バンッ
「鍛えろ~!」「ギブギブギブギブ!」
散々投げられた俺は、最後にキレた師範に腕挫膝固を食らって満身創痍だ。うう。
痛む身体をさすりさすり、礼をした。
「お前、油断せずに鍛えろ。」
「俺強くないし、良いじゃないですか~」
「強くないって、お前・・・。はぁ。まあ、元に和人、満相手じゃあなあ・・・。」
力は肩を落とす。自分を含めて、光太郎の周りにいる輩が強すぎるのであって、光太郎が強くないのではない。そのへんの大会に出せば、きっと上位入賞なんてわけはない筈なのだ。
しかし、小さい時から猛者に囲まれ、しかも大会なんて面倒くさいと出場しようともしなかったため、本人は実力の程を知らない。もったいない。
俺の教育の仕方に問題があったかなー、と呟いた力の声は、誰に聞こえるでもなく道場に溶けて消えた。
時期外れだと思っていましたが、時期になりました。。