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3.入学式

「で、何で俺はここに居るのかな」


 始業式開始時刻。皆と共に体育館に集合している筈の俺は、何故か昇降口にいた。


 もう一度言おう。何故。


「私のお供だもの」


「さも当然みたいに胸張って言わないでくれませんか、ねえ」


「だって会長も言ってたじゃない。二人くらいでやってって」


 確かに言ってたが。




 満が会長に手伝いを申し出た時、会長はそれはもう感謝して


「ありがとうありがとう!助かる〜!頼めるならお友達と二人くらいでやってもらって構わないから!先生にはこっちから伝えておくね」


 と満の手を握り締めブンブン振り回しながら言っていた。


 それを俺は、確かに見ていた。が。




「古川さんとかいたろうに」


「女の子にこんな寒い場所、立たせておきたくないもの」


 まあね。東北の四月頭はまだ寒い。雪が所々に残ったままだし、下手したらまだ降ってきたりする。しかも、昇降口は北を向いてると来たもんだ。男は筋肉質だからまだ平気だけど、女子は寒さをより感じている筈だ。


「満は大丈夫か?」


「大丈夫大丈夫、ほっかいろ二つ貼ってるから」


 それは暖かい。




 新入生とその保護者が次第に集まりだす。俺の仕事は、笑顔を振りまいて「ご入学おめでとうございます」と言うのと、上履きを忘れた保護者にスリッパを貸し出すこと。そして、簡単な教室までの案内。


「確かに、始業式出るより楽だったかも」


 人の波もようやくおさまり、固まった表情筋をほぐしながら満に話しかけると、「そうでしょ」と得意気な顔をされた。


「それに、一番先に新入生チェック出来るし」


「は?」


「今のところ、タイプなのは五、六人ってとこかしらねー」


「それが狙いかよ!」


「勿論、第一は会長の為よ?チェックはその次。後は、会長に恩を売っておいて、選挙で優位に立てたらなーとか考えてる。」


 ・・・。


 ・・・まさか会長も、こいつがそこまで考えてるとは思うまいよ。うん・・・




 そんなこんなで時間も時間で、これ以上新入生が来るとも思えなかったから体育館へ行こうとしたら、息を切らせて女子生徒が一人駆け込んできた。


「あっあのっ!一年二組ってどこですか!?」


 かなり慌てている。集合時間二分前だから、分からないでもない。


 そんな彼女に満は近づくと、肩をガシッと掴んで目を見据えた。


「大丈夫、落ち着きなさい。」


 満の誰しも一度は見とれる顔が、厳しい表情を作る。その圧倒されるような迫力がさせたのか、それとも満の隠された能力なのか、慌てていた新入生の視線が定まり、落ち着いたのが見てとれた。


「教室はこの突き当たりの階段上って二階、手前から二番目。オーケー?」


「はい!ありがとうございます!」


「あ、ちょっと、」


 満は、お辞儀をして去ろうとした新入生を呼び止めて、それはもう卒倒する人が出るんじゃないかってくらいの華やかな笑顔で、言った。


「入学おめでとう」


 ぽんッ


 ・・・嗚呼、またいたいけな少女が満の毒牙にかかってしまった。


 俺は一気に赤く染まった新入生の顔を見て、内心で溜め息をついた。この罪作りめ。


「あああありがとうございますうう!!!」


 せっかく取り戻した落ち着きを手離して、新入生はピューっと駆けて行ってしまった。


「うふふふ・・・」


 隣には、不気味に笑う満が一人。え、何。どう突っ込んだら良いのか分からない。


「今年一番好みの子はっけーん」


「・・・確かに可愛かった」


「でしょ」


「・・・快活そうで、満の好きなタイプだよな」


「そうなのよ!」


 ああ、まともなツッコミスキルを持っていない自分が恨めしい。


「一年二組かぁ。どうやって接触しようかしら・・・」


 その顔は、まさに肉食動物。怖っ。




 俺達が体育館へ行くと、丁度担任陣の発表の最中だった。

 今列に加わるのも憚られたので、後ろから入ってきた俺達は体育館の隅に二人で立っていることにした。


「担任、誰になるかしらね」


 こそっと囁かれた耳元が、少しくすぐったかった。



 にこやかな校長が、ステージの上で担任を発表していく。


「二年四組、小塚達寿(こづかたつひさ)先生」


 縁無し眼鏡をかけた、冷ややかな表情をした男性教諭がステージ上で一礼をした。


 小塚か。体育館の真ん中あたりにいる二年四組陣から起こった拍手に合わせて、俺達も拍手する。


 彼は三十になったばかりの、教員達の中では若手だが、厳しいことに定評のある人物で、昨年俺は古典を彼に習った。俺はまあ、嫌いでは無い。


「国語の課題、真面目にやらなくちゃだな」


「そうねー」


 若干物憂げに見える彼女。


「どうした?小塚嫌いだったっけ?」


「嫌いでは無いけど・・・、私、太陽が似合う人が好きなのよね」


「あ、そういう意味デスカ。確かに日光より月光の方が似合いマスモンネ、彼」


 お前は担任に何を求めてるんだ。



 二十分の休憩の後の入学式は、若干の新学期特有の熱気を帯びていた。


 俺も去年はあんな風に初々しかったのかねー。


 元気良く、名前を呼ばれては返事をする新入生を見て、自分はやけに緊張していた事を思い出した。

 ああいう場面て、声裏返りそうで怖いんだよね。・・・チキンですが、何か?



 恙無く式も終わり、新入生が退場していく。

 吹奏楽部の演奏は某自分の顔を与える正義の味方のオープニング曲だった。なんか格好良く聞こえるから不思議なんだけど。


(あ、)


 先刻の新入生が、小さく首をキョロキョロさせている。


 と、探していた誰かを見つけたのか、視線は一点に留まり、満に勝るとも劣らない笑顔で会釈していた。

 心なしかざわめくヤロー共。

 ええ、可愛いですもんね。

 あの笑顔は誰に向けられたのかと、もう途切れた視線を辿れば―――



 そこに満がいた。


「・・・あれ?」


うーん、上手くなりたいなあ。


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